第八十三話 シーラの体調は
辻褄合わせの偽装工作を終わらせると草原の家に向かった。何だかんだと時間がかかり夕方だ。空が薄紅に染まり始めてる。
「結構かかったね」
「まぁ、あの山から逃げて来て土蔵にしまったんだ。これでも早過ぎるくらいじゃないか?」
「そういや、昨日の夕方に仮眠してからぶっ続けで逃げてたはずなのか……」
口では大変そうに言ってるけど、二人して足取りが軽い。紫水晶だけじゃなくて、他にも宝玉、宝石を手に入れたからアルフレッドも無茶しないだろう。
草原の家までは少しの距離しかないのに、歩いてる内に一気に暗くなった。
塔の前で火を焚いてるのが良く見える。
あれはアルフレッドかな。
サーラとシーラで食事の準備でもしてるのかも知れない。
アルフレッドが僕たちに気付いたようだ。
中腰になってこちらの様子を伺っている。
「アルフレッド、僕だよ」
軽く手を振って声を出すと安心した様子でこちらに駆け寄って来る。
「シオン、トゥーファン、無事だったか」
僕たち二人を上から下まで眺めて怪我がないか気にしてる。僕もトゥーファンも怪我してないことをアピールするように両手を広げた。
「うん。何とか逃げ出して来たよ」
「こっちはどうだ?」
トゥーファンが聞くとアルフレッドは土の塔を振り返って、言葉を選んでる。
何か困ったことでもあったかな?
「シーラの様子が変なんだ」
おや?
シーラの毒は解毒できたと思うけど、僕は心配になって土の塔へ走り出した。
「一度意識を取り戻したが、また意識を失ってしまった」
そう言いながらアルフレッドも走ってついて来る。
……トゥーファンは僕に任せた、とゆっくり歩いてる。
「解毒はできたと思うんだけど……」
「ん、あぁ、解毒はできてると思う……」
土の塔に入り、階段を駆け上るけどアルフレッドも歯切れが悪い。
「その左の部屋だ」
中三階みたいな中途半端な階層の部屋に入ると、部屋の奥にサーラがいて中央に横になったシーラがいる。
意識を失ったままって、何だ?
「うわっ! 何?」
一目見て分かった。
桃色の長い髪、白い顔。
シーラが人の姿に!
「えっと、……どういうこと?」
部屋の中央で横になったシーラは服装は以前のまま簡素な桃色の上着にズボンだけど、明らかに人の顔をしてる。髪の毛は元の毛色のまま桃色だ。
眠っていてもかなり整った容姿だと分かる。
身長は少し伸びたみたいで、お腹のあたりや脛のあたりは素肌が見えた。
「砂浜で看病してたら、身を捩って震えたかと思うと、身体が赤く光って、人の姿になりました」
「……」
「シオンさん、教えて下さい。
シーラは、何が、いえ、大丈夫ですかっ?!」
サーラが必死に訴えかけてくるけど、僕も訳が分からない。
とりあえず、サーラを手で制してシーラに顔に耳を近づけると、普通に息をしてる。
胸やお腹を見ててもゆっくりとした呼吸が続いてる。
「これは本当にシーラなんだよね?」
一応、改めて二人に確認した。
「そうです」「あぁ」
二人が僕の質問を肯定する。
どういうことだ?
僕は醜奪人鳥の毒に侵されたサーラに解毒光陣と治癒光陣をかけただけだ。
でも、以前アルフレッドに光魔法をかけたときはそんな副作用はなかった。
兎人が特殊なのか?
それとも僕の魔法が特殊なのか?
「サーラ、兎人はこんな風に見映えが変わることがあるのかい?」
「いいえ、見たことも聞いたこともありません。
何かの呪いでしょうか?」
サーラの問いに部屋の入口からトゥーファンが答えた。
「呪いかも知れんな」
サーラの顔が真っ青に変わる。
アルフレッドが両肩を掴み、倒れないようにする。
「トゥーファン、呪いって何だよ?」
「あぁ、すまん。ちょっと気になることがあってな。
サーラ、悪いがシーラのポケットに紫水晶とか宝石が入ってないか?
入ってたら、出してくれ。
それと、サーラやアルフレッドが拾ってきた石も出してくれないか?」
「はい」
サーラがすぐに返事して部屋の奥に向かう。アルフレッドがその様子を見て聞いてくる。
「醜奪人鳥の巣のところで拾った宝石でいいのか?」
「そうだ。ここに着いたときに出してたら、それを見せて欲しい」
サーラが両手に石を抱えて部屋の隅から持って来た。
結構な量がある。両手に山盛りだ。
石を床に転がすと紫水晶だけじゃなくて柘榴石も混ざってる。
「寝かせるときに邪魔だったので、ポケットから出しました。私の拾ったのはこれです」
続けて同じように部屋の端に転がっていた布袋を出した。これも負けず劣らず重い。
「私の分はこれだ」
アルフレッドがポケットからジャラジャラと石を掻き出す。アルフレッドの服はベストやズボンにポケットがたくさん付いている。それらのポケットから次々と宝石が出てきた。
量はアルフレッドが一番多いな、と思ってるとトゥーファンが紫水晶を一粒ずつと柘榴石を一粒ずつ取って眺め始める。
「何? 石がどうかしたの?」
トゥーファンの様子を三人で見ながら聞いた。
「流石に回復魔法じゃ無理だ。
あのとき、魔力の塊を沢山ポケットに入れて、あの岩壁にも天然の原石があっただろう。
その石の様子を確認したい」
そういえば、醜奪人鳥に襲われたときは赤い魔法視覚化が出た。でも、砂浜でもう一度回復魔法をかけたときの魔法視覚化は白だった。
僕の魔法以外にも魔力が影響したとしたら、シーラの持ってた石にも変化があるかも知れない。
「僕も見せてもらうよ」
早速サーラが並べたシーラの石から紫水晶を一粒手に取ると、注意深く眺めた。
そこら辺にある石と変わらない。
魔力をゆっくりと流すと少しずつ貯まった。
魔力を貯められるようだけど、今は全然貯まってないようだ。
その石を床に置くと、すぐ横にあるシーラの拾った紫水晶を手に取る。
こっちの石からは魔素を感じる。
僕の指輪についてる緑英晶石ほどの容量は無さそうだけど、結構蓄えられている。
「サーラの拾った石は魔素が貯まってるけど、シーラの方は全然だね」
「一応、いくつか見てもらってもいいか?」
僕とトゥーファンで見ていくと、やはりシーラの持ってた石には魔素がないみたいだ。
アルフレッドはその違いが分からないみたいで首を傾げてる。サーラは違和感を感じるようだ。目を瞑って右手と左手で比較して試してる。
「シーラの持ってた石は魔素がないみたいだけど、それがどうしたの?」
「推測だが、シオンが回復魔法を使ったときに石に貯まっていた魔素も一緒に使ったんだろう。
その結果、過剰な魔力がシーラの回復に使われてしまった」
トゥーファンは話しながらシーラの様子を伺う。
意識を失ったシーラは規則正しい呼吸をしている。
「その場合、どうなるの?」
「分からん。
……が、怪我の回復だけでなく身体の再生が過剰に進んだと見ていいんじゃないか」
過剰な身体の再生。
筋肉トレーニングで壊れた筋細胞が栄養と休息により以前より強くなる超回復のようなものだろうか。
筋細胞は破壊と再生を繰り返してより強く大きな筋肉になる。
シーラは醜奪人鳥の毒から超回復して人間になった?
「でも、毒から回復して人間になるって無理がない?」
「そうだな。
そこには紫水晶と柘榴石が関係してるはずだ」
「紫水晶と」
「柘榴石……」
アルフレッドとサーラがそれぞれの想いを洩らした。
「紫水晶と柘榴石がどう関係するの?」
「紫水晶には魔除けの力があるらしいし、柘榴石は兎人に縁のある宝玉だからな。
兎人の力を伸ばす、もしくは解放するような力があるのかも知れん」
そう言えば、シーラたちの一族は大粒の柘榴石、エラキースを守り石にしてた。
柘榴石は兎人にとって特別な石なんだろう。
それが、ポケットに入ってた石だけじゃなく、あの崖の割れ目にあった原石も合わせると結構な量になる。
「シーラは元に戻らないのでしょうか?」
サーラが不安げだ。
「……分からん。
一時的に魔素が過剰になって身体が変わっているのか、それとも過剰なった結果、身体自体が変わってしまったのか、残念だが分からない」
「ごめん。
まさか、こんなことになるなんて……」
「いえ、シーラを助けて頂いてありがとうございます。
あのとき助けて頂かなけば、今ここにいることもできなかったはずです」
「でも、……」
「シーラはこうして生きているので、じきに意識を取り戻します」
シーラのことが心配だけど分からないことだらけで、サーラに強く言われてしまうと引き下がるしかなかった。
言葉に詰まりシーラの様子を見てると、そのシーラが動いた。
「……うん?」
シーラが気を取り戻したようだ。
周りを見渡し、みんなの顔を確認している。
「あ、そうか……、私、醜奪人鳥の崖で怪我をしたんだ……」
状況を思い出して視線を落とす。
すぐにサーラに横について手を握る。
「シーラ、大丈夫? 痛いところない? 気分とか悪くない?」
「サーラ、大丈夫。
ちょっと気だるいぐらいで、他には何ともないわ」
「丸一日意識を失ってたのよ。
それに、ちょっと様子が……」
「ん?
大丈夫よ、気分もいいし、身体もほらこの通り……」
そう言いながら自分の手を見て少し眉をひそめ、腕から肩を見て、自分の胸を見た。
「……キャーッ!」
座ったまま後退りして壁にぶつかった。
「えっ? えっ?」
そしてまた意識を失った。




