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幕間 エレーナ・サブーロワの宮廷実務講座 ――貴族は馬車に相乗りしたの?


挿絵(By みてみん)


ごきげんよう。

エレーナ・ミハイロヴナ・サブーロワです。実はわたくし、この時点では本編未登場なのですが、先に幕間の解説役としてお目にかかることになりました。

その内出てまいりますのでどうぞお楽しみに。


さて。

先ほどのお話では、ベルデフ家のご兄弟が同じ馬車に乗って宮廷へ向かっていましたね。

ここで、読者の皆様の中には、こんな疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。


「貴族って、馬車に相乗りするものなの?」


一人一台、立派な馬車に乗ってくるものではないのか。

あるいは、家族でもそれぞれ別々の馬車に乗るものではないのか。

結論から申し上げます。

一台の馬車に複数人で乗ることは、別に珍しいことではありません。

もちろん。


「貴族は必ず相乗りします」


という意味ではありませんよ。

馬車にもいろいろあります。

旅をするのか。

宮廷へ向かうのか。

何人の随行者がいるのか。

誰と誰が一緒なのか。

乗る人間の身分や、その日の目的によって変わります。

ですが、


「身分の高い人は、一人につき一台の馬車」


などという決まりがあったわけではありません。

実例をご紹介しましょう。

一七四四年。

まだエカテリーナ・アレクセーエヴナ様がロシアへ来られて間もないころです。

キエフへ向かう旅の途中、エカテリーナ様は、お母様、ルミャンツェワ伯爵夫人、そしてお母様付きの女性一人と、四人で同じ馬車に乗っています。

一方、大公ピョートル・フョードロヴィチ様の馬車にも、ブルンマー、ベルクホルツ、デッケンが同乗していました。

つまりこちらも四人。

これだけでも、


「偉い人は一人で馬車に乗るもの」


というイメージとは、かなり違うのではないでしょうか。

しかも、この旅ではもっと面白いことが起こっています。

大公殿下がいつもの同行者との旅に退屈なさったらしく、エカテリーナ様たちの馬車へ移ってしまわれたのです。

そうすると今度は、エカテリーナ様のお母様が、


「それなら、もっと若い人たちも一緒に乗せましょう」


ということになりました。

そこで使われたのが――

八人乗りの車です。

ただし。

ここは少し注意してください。

最初から「豪華な八人乗り宮廷馬車」が用意されていた、という話ではありません。

もともとは寝具などを運んでいた大型の車を使い、その内部へぐるりとベンチを設け、若い同行者たちが一緒に乗れるようにしたものでした。

エカテリーナ様。

大公殿下。

エカテリーナ様のお母様。

ゴリツィン公。

チェルヌィショフ伯。

そして若い随行者たち。

こうして、大勢が一つの車に乗って旅をしたのです。

これがよほど楽しかったらしく。

乗せてもらえなかった年長の宮廷人たちから、ずいぶん不評を買ったそうですが。

まあ。

宮廷というところでは、


「誰と同じ馬車に乗ったか」


だけでも政治になりますので。

面倒ですね。

さらに同じ一七四四年。

レヴァルへ向かった際には、

エカテリーナ様。

大公殿下。

アウグスト公。

チョグロコワ夫人。

この四人が、一台の四人乗り馬車で移動しています。

というわけで。

家族や親しい同行者、同じ一行の人々が一台の馬車へ乗ること自体には、何の不思議もありません。

したがって、同じ屋敷に住むベルデフ家の兄弟が、同じ催しへ向かうため一台の馬車に乗る。

これは本作の創作ではありますが、相乗りそのものについては、無理のある設定ではないと考えています。

もっとも。

ここで一つ、非常に大きな問題があります。

普通の服を着た人が四人乗れる馬車だからといって、

巨大な宮廷婦人用スカートを着た人間が四人、同じように快適に乗れるとは限りません。

人間一人。

人間一人。

人間一人。

人間一人。

なら四人です。

でも、

巨大なスカート。

巨大なスカート。

巨大なスカート。

巨大なスカート。

となりますと。

……話が変わってまいります。

ベルデフ兄弟の場合は二人ですから、まだ何とかなるでしょう。

ただし、二人とも大きく張り出した宮廷婦人姿なら、


「そちらへ寄れ」

「無理だ。兄さんのスカートがこっちまで来てる」

「これは俺のじゃない」

「じゃあ誰のだよ」


などということになっても、私は責任を負いません。

そしてもう一つ。

今ご紹介した八人乗りの例は、長距離旅行中の特殊な大型車です。

宮廷舞踏会へ乗り付ける正式な馬車について、


「いつでも八人まで相乗りするのが普通でした」


という話ではありません。

旅と宮廷行事では、求められる格式も運用も違います。

ですから本作でも、


「貴族はいつでも大勢で相乗りしていた」


とは考えていません。

ただ、


「一家の兄弟が、同じ屋敷から同じ宮廷催事へ、一台の馬車で向かう」


程度なら、何ら不自然ではない。

そう考えていただければ十分です。

最後に。

八人乗りの馬車が史実に登場するからといって、

こんな想像はなさらないように。


「では、宮廷婦人姿の男性を八人、一台へ詰め込めるのでは?」


……。

人間が八人乗れるということと、

巨大なパニエが八個入るということは、

まったく別のお話でございます。


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