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プロローグ

さて。

ここまで『カーテシー・クラブ』を四巻も読んでくださった皆様なら、もう十分お分かりでしょう。

メタモルフォーゼ舞踏会。

大変ですよねえ。

普通の舞踏会だって、準備するだけでなかなか大変です。

服を用意して。

髪を整えて。

踊りを覚えて。

誰と挨拶するか、どこへ座るか、どう振る舞うか。

ましてや宮廷の舞踏会ともなれば、それなりの身分の人間でも気を遣うことだらけです。

そこへ、

男女の服装を逆転させましょう。

などと言い出した女帝陛下がいた。

参加する男性たちは大変です。

そりゃ大変です。

何しろ、それまで女装などしたこともない男たちが、いきなり「宮廷婦人」にされてしまうのですから。

女性の普段着を着る、という話ですらありません。

十八世紀の宮廷女性が正式な場で身につける、大きく裾の広がったドレス。

着るだけでも大変。

歩くだけでも大変。

座るのも大変。

階段を上り下りするのも大変。

それを男性が着る。

そして女性として挨拶をする。

カーテシーをする。

さらに、男性役になった女性に手を取られ、舞踏までしなければならない。

何度書いていても、

「本当にそんなことあったの?」

と言いたくなります。

ところが、あったんですよねえ。

もちろん、本作では史実として確認できる部分と、そこから膨らませた創作部分を組み合わせています。

それでも、エリザヴェータ時代のロシア宮廷で男女逆転の衣装を伴う催しが行われたこと自体は、冗談でも何でもありません。

いやあ。

参加者は大変です。

実に大変です。

――し・か・し!

ここで一つ、忘れてはいけないことがあります。

舞踏会というものは、参加している人だけで出来ているわけではありません。

誰かがドレスを作らなければならない。

誰かがそのドレスを運ばなければならない。

誰かが着せなければならない。

誰かが化粧をしなければならない。


挿絵(By みてみん)


誰かが鬘を整えなければならない。

誰かが馬車を用意する。

誰かが扉を開ける。

誰かが巨大なスカートを踏まないよう、主人を馬車へ乗せる。

宮殿へ着けば、誰かが参加者を案内する。

誰かが名簿を確認する。

誰かが料理を作る。

誰かが酒を運ぶ。

誰かが音楽を演奏する。

そして舞踏会が終われば、

誰かが汚れたドレスを片付ける。

誰かが破れた裾を見てため息をつく。

誰かが翌朝、

「昨日の旦那様、どうだった?」

と噂する。

そう。

メタモルフォーゼ舞踏会を成立させるためには、信じられないほど多くの人間が働いているのです。

仕立屋。

メイド。

フットマン。

御者。

宮廷使用人。

警備兵。

料理人。

商人。

そして、舞踏会そのものには一度も参加しない、名もなき人々。

彼らから見れば、

貴族の男性が人生最大級の恥ずかしい思いをしている夜も、

「今日は旦那様の舞踏会の日」

という仕事の一日にすぎないこともあります。

ということで。

今回の『カーテシー・クラブ』は、少しだけ視点を変えてみましょう。

華やかな大広間の真ん中ではなく。

その扉の外。

主人の部屋。

使用人部屋。

厨房。

厩。

馬車置場。

仕立屋の作業台。

そんな場所から、あの奇妙な宮廷行事を眺めてみます。

主役は、いつもの貴族たちだけではありません。

彼らの周りで働き、驚き、呆れ、噂し、やがて慣れていった人々。

そんな人たちのお話を、お送りいたします。

舞踏会の外にも、

メタモルフォーゼ会は続いている


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