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存在(ペルナンギス)

確かに私が存在している。

その中に無が或る。

ソレは何故だ。

1を創れば0も作るのか。

0を作れば1も創るのか。それは誰にも分からない。

ただ一言言えるのは、意識は無限で或るという言葉を我々が知る。

何かを願えば量子もつれにより確率が上がる。

ならば何もしていない寝てる時は何が何をしているのだ。

それは簡単だ。0が1を0にしているのだ。

それは、存在ペルナンギスと名付けられた。

中略

確かに私が存在している。

その中に無が或る。

ソレは何故だ。


1を創れば0も作るのか。

0を作れば1も創るのか。

それは誰にも分からない。


ただ一言言えるのは、意識は無限で或るという言葉を我々が知る。

何かを願えば量子もつれにより確率が上がる。

ならば何もしていない寝てる時は何が何をしているのだ。


それは簡単だ。

0が1を0にしているのだ。

それは、存在ペルナンギスと名付けられた。


---


存在ペルナンギス


第一章 ゼロの夜


午前三時十七分。

雨は降っていなかった。窓の外はただの黒だった。


僕は目を開けたまま、天井を見つめていた。

体はベッドに沈み、呼吸は規則正しい。なのに、意識だけがどこかへ漂っていた。

眠っているはずなのに、眠っていない。

眠っていないはずなのに、眠っている。


その曖昧な境界で、ふと、言葉が浮かんだ。


「確かに私が存在している。

その中に無が或る。」


誰の声でもない。自分の声でもない。ただ、そこにあった。


僕は二十七歳で、平凡な会社員だった。

名前は佐藤零れい。両親はもういない。恋人は二年前に別れた。友達は数人いるが、深い話はしない。

毎日同じ電車に乗り、同じデスクに座り、同じ空を見上げて帰宅する。

特別なことは何もない。


なのに、この夜から、すべてが変わった。


体が動かない。

指一本、動かせない。

いわゆる金縛りだと思った。

しかし、それだけではなかった。


視界の端が、ゆっくりと溶け始めた。

天井の染みが、円を描いて消えていく。壁の模様が、波のように揺れて、やがて黒一色になる。

音もない。心拍音さえ聞こえない。


代わりに、数字が浮かんだ。


1


それは、僕の意識そのものだった。

「私は在る」という、最も基本的な肯定。


次に、その隣に、もう一つの数字が現れた。


0


1の中に、0が潜んでいる。

いや、1が0を孕んでいる。

それとも、0が1を飲み込もうとしているのか。


「1を創れば0も作るのか。

0を作れば1も創るのか。」


声が、再び響いた。

今度は、はっきりと聞こえた。

男の声でも、女の声でもない。年齢も、感情もない。ただの、事実を告げる声。


僕は答えようとした。

しかし、口が開かない。

声帯が震えない。


代わりに、思考だけが応答した。


「わからない。誰にもわからない。」


すると、声が静かに言った。


「ただ一言言えるのは、意識は無限で或る、という言葉を我々が知る。」


「我々」?

誰だ。


視界が完全に黒くなった瞬間、僕は理解した。

これは夢ではない。

金縛りでもない。

これは、目覚めの逆だった。


眠っている時、何が何をしているのか。


答えは、声が教えてくれた。


「0が1を0にしているのだ。」


その瞬間、僕の体が、完全に消えた。


---


第二章 ペルナンギス


目が覚めた時、僕は知らない部屋にいた。


白い壁。白い床。白い天井。

窓はない。ドアもない。

ただ、中央に一つの椅子があり、その上に僕が座っていた。


服はいつものパジャマのままだった。

時計はない。時間の感覚もない。


「ここはどこだ」と口に出してみた。

声は、空間に吸い込まれて消えた。


すると、目の前に、人が現れた。


人、と言っていいのかわからない。

輪郭はぼやけている。性別も年齢も、はっきりしない。

ただ、そこに「在る」という事実だけが、強烈に主張していた。


「ようこそ、佐藤零」


声は、さっきの夜の声と同じだった。


「お前は誰だ」


「私は、存在だ。

お前が名付けた通り、ペルナンギス」


僕は息を呑んだ。

「名付けた? 俺が?」


「お前の意識が、眠りという0の中で、1を0に変換した時、その過程に名前が必要だった。

だから、お前はそれを『存在ペルナンギス』と呼んだ。」


ペルナンギス。

聞いたことのない言葉だ。

ラテン語でも、ギリシャ語でも、日本語でもない。

なのに、どこか懐かしい響きがあった。


「なぜ俺なんだ」


「偶然だ。

量子もつれは、確率を上げる。

お前が何かを願ったわけではない。

ただ、お前の意識が、ある夜、無限の可能性の中で、0と1の境界に触れた。

それだけだ。」


ペルナンギスは、手を差し出した。

手、という形をしているが、中身は透明だった。

その向こうに、無数の光点が揺らめいている。


「これを見てみろ」


僕が触れた瞬間、視界が爆発した。


無数の世界が、同時に展開した。


ある世界では、僕は結婚していた。子供が二人いる。

ある世界では、僕は既に死んでいた。交通事故で。

ある世界では、僕は科学者になっていて、量子意識の論文を書いていた。

ある世界では、僕は存在しなかった。

そもそも、宇宙が生まれていなかった。


すべてが、同時に「在る」。

そして、すべてが、同時に「無い」。


「意識は無限だ」とペルナンギスが言った。

「だから、お前はすべてを見ることができる。

しかし、見るだけでは、まだ1のままだ。

本当に理解するには、0にならなければならない。」


「0になる? 死ぬってことか」


「死ではない。

死は、1が0になる過程の、一つの解釈に過ぎない。

真の0は、もっと深い。」


ペルナンギスが指を鳴らした。

空間が歪んだ。


僕の体が、再び消え始めた。

今度は、痛みがあった。

存在が、剥がされていく痛み。


「待ってくれ! まだ聞きたいことがある!」


「聞きたいことなど、ない。

お前が聞きたいのは、答えだ。

しかし、答えは、0の中にしかない。」


視界が暗転する直前、僕は叫んだ。


「なぜ、1の中に0があるんだ! なぜ、存在の中に無があるんだ!」


ペルナンギスの声が、遠くから響いた。


「それは、誰にもわからない。

ただ、そうでなければ、意識は無限ではあり得ないからだ。」


---


第三章 0の中で


0の中は、静かだった。


音がない。

光がない。

時間がない。

空間がない。


なのに、僕は「いた」。

いないのに、いた。


思考が、漂っていた。

思考でさえない、何かが。


「何かを願えば、量子もつれにより確率が上がる」


その言葉が、ふと浮かんだ。

願い。

僕は何を願っていたのだろう。


会社で認められたい、とか。

誰かに愛されたい、とか。

そんな些細なことではない。


もっと根源的な願い。


「私が、本当に存在しているのかを知りたい」


その願いが、確率を上げた。

量子もつれが、僕の意識を、この境界へ引き摺り込んだ。


0の中で、1がゆっくりと溶けていく。


僕は、自分の名前を忘れた。

年齢を忘れた。

性別を忘れた。

人間であることを忘れた。


残ったのは、ただの「在る」という感覚と、「無い」という感覚だけ。


その二つが、絡み合っている。

もつれている。


0が1を0にしている。

1が0を1にしている。


どちらが先なのか、わからない。

どちらが本当なのか、わからない。


ただ、循環している。


永遠に。


無限に。


その循環の中心で、僕は気づいた。


これが、意識だ。

これが、存在だ。

これが、ペルナンギスだ。


そして、同時に、これが無だ。


---


第四章 目覚め


目が覚めた時、僕は自分のベッドにいた。


午前三時十七分。

雨は降っていなかった。窓の外はただの黒だった。


体は動く。

指も動く。

声も出せる。


「……ああ」


声が、普通に出た。


僕は起き上がり、窓を開けた。

冷たい空気が入ってくる。

街の灯りが、遠くで瞬いている。


何も変わっていない。

世界は、昨日と同じだ。


なのに、すべてが違って見えた。


僕は、自分の手を見つめた。

この手が、1だ。

この手が、0を孕んでいる。


机の上のコップ。

床の埃。

遠くで鳴る電車の音。

すべてが、1であり、0である。


僕は、日記を開いた。

何も書かれていない白いページに、ペンを走らせた。


「確かに私が存在している。

その中に無が或る。

ソレは何故だ。


1を創れば0も作るのか。

0を作れば1も創るのか。

それは誰にも分からない。


ただ一言言えるのは、意識は無限で或るという言葉を我々が知る。

何かを願えば量子もつれにより確率が上がる。

ならば何もしていない寝てる時は何が何をしているのだ。


それは簡単だ。

0が1を0にしているのだ。

それは、存在ペルナンギスと名付けられた。」


書き終わって、僕はペンを置いた。


これで終わりではない。

これは始まりだ。


明日も、僕は会社に行く。

電車に乗る。

デスクに座る。

誰かと話して、笑って、怒って、疲れて、帰宅する。


そのすべてが、1であり、0である。


眠る時、0が1を0にする。

目覚める時、1が0を1にする。


その繰り返しの中で、意識は無限に広がっていく。


僕は、もう一度、天井を見上げた。


「ペルナンギス」


名前を呼んでみた。

返事はない。

当たり前だ。

ペルナンギスは、外部にあるものではない。

僕の中に、在る。

無として、在る。


僕は、静かに目を閉じた。


次に眠る時、また、そこに行くかもしれない。

あるいは、行かないかもしれない。


どちらでもいい。


なぜなら、どちらも、同じだからだ。


1と0は、分かれていない。

存在と無は、分かれていない。


ただ、循環している。


永遠に。


無限に。


そして、その循環こそが、

意識であり、

存在であり、

ペルナンギスである。


---


終章 ただ一言


それから何年が経ったのか、僕は覚えていない。


歳を取った。

仕事を辞めた。

誰かと暮らし、別れ、また独りになった。


ある夜、再び、午前三時十七分に目が覚めた。


体は動かない。

視界が溶ける。


1が浮かぶ。

0が浮かぶ。


声が、優しく言った。


「おかえり」


「ああ」と、僕は思考で応えた。


「まだ、答えはわからないか」


「わからない。

誰にもわからない。」


「それでも、いいのか」


「いい。

わからないまま、在る。

わからないまま、無い。

それが、十分だ。」


ペルナンギスが、微笑んだような気がした。

輪郭のない存在が、微笑む。


「では、また、0の中で」


「ああ。

また、1の中で。」


視界が完全に黒くなった。


0が、1を、0にした。


そして、その先で、

また、1が生まれた。


誰にもわからない循環が、

ただ、静かに、続いていく。


意識は、無限で或る。


確かに、私が存在している。

その中に、無が或る。


ソレは何故だ。


答えは、ない。


ただ、在る。


ただ、無い。


それだけで、十分だった。


(了)



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