1.ある冒険者との邂逅
男は山を越え、川を渡り、洞窟の奥深くへとただ1人で進んできた。慣れたものだ……男は一流の冒険者だった。いや、一流ではなく超一流だった。基本的なサバイバル術や魔物の弱点、即席での武具作成等1人で冒険出来るだけのワザを身につけていた。それどころか、弱い者と組むより1人で居る方が余程効率的と考えていた。そんな男がこの洞窟へ来た目的は、洞窟の最奥にあると言われる黄金の宝だった。古代文明の遺産とも伝えられるそれは、伝説に伝わっているが誰も見た者がいなかった。
今、男の目の前に黄金の宝が拡がっていた。
ーあぁ、見つけた。伝説は本当だったんだ……!
男は伝説の証明をしたかっただけだった。別段、その宝を欲していたわけでもない。だからこそ……
宝の前で眠る龍を起こさないよう細心の注意を払った……。宝の山と同じくらいの大きさの龍。まるで、宝を守るかのように黄金の前で眠っていた。
深い海のような青黒い鱗をもち、巨大な4枚の翼は折りたたまれているが広げれば体長の倍はあるであろうことを想像させる。
ー起こしてはならない、こんなのと戦闘になれば先ず生きて帰れない……俺は、生きて帰り伝説を証明する!宝をどうするかは他のヤツが考えることだ!!
男は、龍に背を向け立ち去ろうとした。
不意に頭の中で声が響いた。
「なんだ、いらないのか?」
男は全身に水を浴びせられたように背筋が冷たくなった。本能的に強者の絶対的な力が伝わってくる。
ーまずいまずいまずいまずい!!!!!
脳内でどうしてもっと早く立ち去らなかった、宝に見惚れてる場合ではなかった、龍を観察しなければ良かった……
後悔ばかりがかけめぐる、どうしてこんなことに……!!男が立ち尽くしているとまた声がきこえた。
「一つくらい持って帰らねば証拠にならないだろう」
ゆっくりと諭すような語りかけだった。
ー確かにその通りだ!自分がいくらこの目で見たといってもそれは証拠にならない、しかし何か1つでも持って帰れば他にはどんなものがあっただの、どうやって持って帰っただの、話題が話題を呼び伝説が現実となる可能性が高い。宝の発見に舞い上がってそんな単純なことが分からなくなっていた。まさか、宝を守護る龍に教えられるとは思わなかったが……
男はゆっくりと振り返り龍を見た。さっきまで閉じられていた瞳を龍は開いていた。空や海よりも深い蒼い瞳が値踏みするかのように男の方に向けられていた。
吸い込まれそうな瞳に目を向け、男は口を開いた。
「あなたの言うとおりだ、何か一つ持って帰らせてはくれないだろうか」恐怖はなかった。もはや、あまりの力の差に麻痺してしまっていたのかもしれない。自分でも驚くほどすらすらと声をかけることが出来た。
龍は何も言わなかった。少しその身体を震わせると宝の山から黄金の腕輪が一つ男の足元に飛んできた。
再び脳内に声が響く。
「それを持っていけ」
男はその腕輪がどういった代物か分からなかったが、龍がこれを選び渡されたということは理解できた。
「ありがとうございます、これを持ち帰らせてもらいます」男はそう告げると、足元の腕輪を身につけ洞窟を後にした。
久しぶりに人間に遭ったな……。
龍はぼんやり思いながら再び眠りについた。
本日より投稿させて頂きます。
ファンタジー風の物語を書いていきます。
洞窟で眠る龍とそれに関わる人々の群像劇の予定です。
よろしくお願いします。




