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セドリックの背を優しくさすりながら、アディリナは思いを馳せる。
今日は選択を間違わなかったみたい
初めて夜中にセドリックの涙を見た日から、アディリナはずっと考えていた。
セドリックお兄様を慈しんだら、セドリックお兄様も私も慈しんでくれるのでは?
そう思ってからのアディリナの行動には迷いは一切ない。
セドリックが何を抱えていようとアディリナには関係ない。
アディリナにできるのは愛し、癒し、その心を自身で埋めることだけ
ただそれだけである。
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ずっと下を向いて涙をこぼしていたセドリックがようやくゆっくりと顔を上げる。
その顔は変わらずに目に涙を浮かべていたが、あの日とは違って不安げに大きく揺れていた。
セドリックを見て、アディリナはやはり変わらずに微笑む。
「お兄様、もう大丈夫ですか?」
セドリックが顔をあげても、アディリナは変わらずセドリックの背を撫でていた。
「…っ」
セドリックは何かを言おうとするが何も言葉が出てこないようで、息を吐き出すしかなかった。
それでもアディリナは微笑みを崩さずにセドリックに寄り添い続ける。
「セドリックお兄様、大丈夫ですよ。ここには私しかおりません。」
セドリックに視線を合わせ、優しく優しく語り掛ける。
「…あっ、あの、ぼくっ…」
必死に言葉にしようとしているようだが、うまく言葉にできず焦っているのが見える。
普段のセドリックとは全く違い、言動が幼い子供のようだった。
その態度も普段の完璧な王子の要素は一切なく、アディリナよりも幼く感じた。
「お兄様、伝えようとしてくださってありがとうございます。大丈夫、ゆっくりで大丈夫ですよ。アディリナは待ちますからね。」
兄の幼い態度に不審に思うどころか、アディリナはなぜか今まで以上に兄が愛しく感じた。
だからこそさらに自身が発する声にもさらに優しさが含まれた。
そんなアディリナの態度に安心したのか、セドリックは言葉足らずになりながら答え始める。
「ぼっ、ぼく、なんでか分からないけど悲しくて…。あのっ、あのね涙も止まらないのっ!」
「そうだったんですね。お兄様大丈夫です。涙が止まるまで私が傍におりますから。」
アディリナは必死に話すセドリックの目を見つめながら、頷く。
「…そっ、それでね。今日もすごくすごく失敗しちゃったの。僕じゃないセドリックだったのに…、失敗しちゃってヨハンにっき、きら…われちゃった…」
その言葉にまた瞳が潤んでくる。
アディリナはセドリックが言う『僕じゃないセドリック』という言葉の意味がよく分からなかったが、それは気にしないように優しく言葉を口にする。
「大丈夫です。セドリックお兄様のせいなんかじゃありませんよ。」
優しく優しく、セドリックの背を撫でる。
そんな2人を穏やかに月明りが照らしていた。




