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その日アディリナは王宮の庭園を歩いていた。
ヨハンがサンチェス国との親睦会を取り仕切ることになり、その準備もあって、以前のように共に本を読んだり、お茶をする時間が減ってしまった。
少し寂しさは感じるが頑張ってる兄を応援したい気持ちの方が強かった。
今までヨハンと過ごしていた時間が空いてしまったため、最近のアディリナはよく王宮の庭園を散策していたのだ。
王宮の庭園は離宮に比べて遥かに大きくそしてその大きさを存分に活かした作りである。
宮に近い花壇は高さを抑えた花々でまるで絨毯の様な彩りである。
一方庭園の中心にある噴水を囲む様にいくつか植えられている垣根の中には背の高い花々が風に揺られている。
正に歴代の優れた庭師たちがその技巧を存分に使った作品である。
まるで物語のワンシーンに出てきそうな美しさ
美しいアディリナの存在は、まさにこの庭園に相応しい花の妖精のようだ。
その時庭園の中に、ひときわ強い風が吹きつける。
「きゃっ」
思いがけない強風にアディリナは思わず、反射的に目をつむった。
その強風に身につけていたドレスに合わせた青いリボンが風にあおられ、吹き飛んだ。
そのリボンを捕まえようとアディリナは手を伸ばすが、風はたやすくリボンを遠くへ運ぶ。
「あっ…」
風に運ばれたそのリボンを見事手に取った人物がいた。
アディリナのリボンを手に取ったのは、第二王子のカールである。
カールは第二妃イーダの子であり、黒に近い紫の髪、鍛えられた立派な体格である。
「…カールお兄様」
この庭園には何度か来ているが、会ったのは今日が初めてだ。
アディリナは思わず、緊張してしまう。
アディリナがカールと接する機会は少なかったが、それでもその中でカールが笑みを浮かべている所も楽しそうに会話している所も見たことがなかった。
ある意味アディリナにとっては、ヨハンよりもつかみづらい人間であった。
思わず驚きでカールのことをただただ見つめてしまう。
そしてまた、カールもアディリナの姿を見つめている
しばらく2人は花の咲き誇る庭園で見つめ合っていた
それこそまるで物語のワンシーンのようだ
どちらからともなく歩み寄るまで、まるで時が止まったようだった
「…カールお兄様、リボンを受け止めてくださり、ありがとうございます。」
アディリナはカールへとお礼の言葉を述べ、微笑む。
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誰にも分らないだろう。
誰にも気づかれないだろう。
しかし、カールの心は歓喜している。
カールはずっと見たかった。
美しい姫が自分だけに向けるその微笑みを。
カール出合編始まりました。




