第二十五話 セミの抜け殻採集
今年もセミが鳴き始めた。この時期の私はとても忙しい。
何故かというと、副業としてセミの抜け殻採集を行うためである。フリマアプリを利用して売り小金を稼ぐのだ。何に使うのかは知らないが(イヤリングやネックレスにでもするのだろうか?)、出品すると結構買い手が付く。
梅雨が明けて最初の日曜日、朝から大きなリュックを背負い水筒をぶら下げ家を出た。私の住む地域はド田舎……もとい大自然に囲まれた素晴らしき土地であるため、セミなんてそこら辺の木を見上げれば十数匹はミンミキミンミキ鳴いているし、当然抜け殻も大量に発生する。
家を出て一時間も経つとリュックは早くも満タンに近くなった。私くらいのレベルになるとセミの種類を見分けるのはもちろん、近くにある抜け殻の位置を瞬時に把握する能力までもが備わっているのである。実に悲しい能力ではある。
例えば歩道脇の植え込みのイヌマキの葉に、廃屋の土塀に、街路樹のツツジの枝に、草原の生い茂った雑草の中に、かつて過ごした青春時代の只中に、etc etc……。
セミ達の脱いだ殻の発する「ここにいるヨ」という叫びを、私は決して逃さない。抜け殻はたいてい前肢を何かに引っ掛けて、ぶらんとぶら下がっている。
見つけては採り、採ってはまた見つけを繰り返す内に、リュックはついに一杯になってしまった。それでもまだまだ見つかるので帽子や服に引っ掛けつつ歩いていると、全身が抜け殻まみれとなった。すれ違う人々が「セミ人間……!」とか言いながらいちいち振り返るので、サービスで「ミーンミン!」と鳴いてやると何故か皆走って逃げて行った。解せぬ。
いったん帰ってまた出直そうかと思った時である。そばの小さな公園に立つ木の上に、一つの抜け殻を見つけたのだ。ツヤッツヤでピッカピカの特大アブラゼミの抜け殻! 一つ千円でも売れるかもしれない……! 欲しい!
私は公園に入り木の下に立った。抜け殻の高さは三メートルくらいだろうか、木はいい感じの枝をいくつも伸ばしているし、やれるか……? いや、豊かな老後を目指して絶対にやらねばなるまい!
覚悟を決め水筒とリュックを地面に置き、屈伸運動をする。木登りなんて、ン十年ぶりなのだ。まずは一番下の枝に手を掛け、幹の出っ張り部分に足を乗せ……私は順調に木を登っていった。
そしてついに! 抜け殻に手が届く……かと思った時、
バリンッ‼︎
いきなり殻の背中が裂けた! つまり抜け殻だと思っていたモノは、羽化前の幼虫だったらしい!
「ウワァアァァァ‼︎」
驚いた私は足を踏み外し真っ逆さまに落ちた。
「ミンッ‼︎」
バサッ‼︎
地面に頭から落下したが、幸い抜け殻で一杯のリュックの上に落ちたので、なんとか立ち上がることが出来た。
せっかく集めた抜け殻がほとんど潰れてしまったが、命には変えられない。しかも服や帽子に引っ掛けていた抜け殻も落下の衝撃で破損してしまった。仕方ない。私はまた抜け殻集めを再開した。
すると妙なことが起きた。見える景色が真っ赤なのである。まだ昼前だし、夕焼けには早すぎるのだが……。
「ちょっとあなた、大丈夫⁈」
向こうからやってきた女性が私の顔を見て慌てたように言った。
「頭パックリ割れてるけど……」
なるほど。道理で頭が割れるように痛いと思ったら、実際に割れていたのだなぁ。アハハハ……。
結局パックリ割れた頭を五針縫うハメになり、病院代がやたらかかってしまった。本末転倒である。
私の加入している医療保険は怪我による通院には給付金が支払われないタイプだったので、次なる木登りに備えプランを変更しておくつもりだ。
皆さんも木の上の方のセミの抜け殻を狙う時は注意してください。それ、中身入ってるかもしれませんよ……?




