第五十九限 黒藍の吸血鬼、その19
寝てましたのでこんな時間に
なんとか間に合いました。
俺たちは得物を構える。
俺は『雷電』を、ミライとアルスは杖を、レイは棍棒を、それぞれ握り、吸血鬼の方向へと向ける。
アグリさんが告げる。
「みなさん! 私が全部の攻撃を防ぎます!! ですから! その間に色々してください!!」
え、何言ってんだ! 無茶すぎるだろそんなこと……!
そう思い、声を発するその前に、アグリさんは突っ走る。
軽く弾かれる……そう思っていたが、どうやら、そんなことはなく、アグリさんは立ち上がっている。
あれ……なんでだ……?
俺は少しの間思案する。
そして一つの結論に至った。
「まさか……祈符の効果か……!?」
祈符にある特殊能力にはこう書いてある。
「回復後は、一定時間の間、あらゆる攻撃を無効化する。」と……
驚くべきことに、アグリさんは祈符の効果をうまく利用し、吸血鬼の攻撃を無効化していた。
「勘は当たっていました……これで私も皆さんを手伝える!!」
確かに、祈符はあらゆる攻撃が無効化される……
だが、祈符による復活でも、走ることによってスタミナを消費することがある。
故に、スタミナがないと色々できない攻撃役のやつらにはこのようなタンク行動はできない……
対して、アグリさんは吸血鬼に対する攻撃手段を持ち合わせていない……
スキルも敵のステータスの一部を覗き見ているだけだ。
つまり、祈符の効果に頼ることにはなるが、タンクをするにはうってつけの存在だ……
「今のうちに! 作戦の共有と下準備を!! お願いします!!」
「おう! 任せとけ!! アグリも無茶するなよ!」
「もちろんです!」
俺はミライの元へと向かう。
「……待ちなさい……!」
「させません!! 皆さんの邪魔は……させません!!」
「…………憂鬱ですねぇ……!」
後ろで激しいぶつかり合いが発生している。
その音は、一方的にサンドバッグにしている音ではあるが……
……早く済ませてアグリと変わらないとな……!
「……さて、何を企んでる? ミライ」
俺はミライの元へとやってきた。
アグリさんが持ち堪えるのもそう長くない。
いずれは瓦解する。そうなった時、このように共有することは難しくなるだろう。
ミライは語る。
「私たちは、今から『抑え込めの儀式』ってのをやる。これ、結構下準備がいるんだけど……やり切るしかない」
「……どんな儀式だ?」
「まず、私が思うに、こいつを真正面からぶん殴って倒すとなると至難の業だと思う。だから、封印することが正攻法だと思う。そして、この儀式は、吸血鬼を封印するための儀式」
さらに続けて話す。
「このロウソクと紙……それとこのナイフを使うんだけど……この作業がかなり面倒。手順としては、最初、ロウソクで囲った空間に吸血鬼を入れる。その後、紙を取り出しこのナイフを使って突き刺す……って感じ」
俺は少し考えた後言う。
「人数がいるってわけか……」
「まあその認識は間違ってないと思う。ただ、どう考えても邪魔してくると思うし、ネストくんの身体がどうなるのかっていう問題がある……」
話を要約すると、
『抑え込めの儀式』というのがあり、その儀式はかなりの準備が必要である。
素材はあるが人手が不足中である。
ネストの身体がどうなるのかわからない。
ということで結論がついた。
「ってことは……ネストの身体からどうにかして剥がさないといけない……か……」
「でしたら、私に提案が……」
そう言って割り込んできたのはアルスであった。
「アルスさ……じゃなかった、アルス! 何か作戦とかあるの?」
「はい……おそらくなのですが……あのネストの状態と、あのチャイムが同じなのではないかと思っていまして……」
「……!! なら……!」
「ん? おいおい待て待て、話についてけないぞ?」
「えっとねキョート、チャイムって覚えてる?」
「あー、お前が自惚れてた時に言ってたな」
「自惚れてた時とかないわい! そんなことはどうでも良いんだよ。とにかく! その時に使った方法があるんだよ」
「私の光魔法と……誰かの光魔法か闇魔法が同時に当たれば……ネストが離れるかもしれません……」
ミライとアルスが俺に説明をする。
なるほど……
光魔法か闇魔法……か……
そんなの持ってたかな……いやないな……
「その光魔法と闇魔法ってのはどうやって使うんだ?」
「プレイヤーは今の所覚えれるか怪しいかな……覚えてるのはアルスとネストくんくらい……」
「おい、それ大丈夫なのかよ……」
「そこは任せて。この私に策ありってね」
ミライが話し……そして、諸々の調整を済ませた俺たちは、アグリさんが耐えている場所へと戻ろうとする。
「とりあえずこれで行くぞ……失敗した時とかは考えるな」
「うん……それとキョート」
「なんだ? ミライ」
「正直言って成功するかは怪しいけど、成功したら一気にトドメまで持っていくからね」
「……あぁ……わかってるさ……その時は……」
「「全力でぶっ飛ばす」ってことだろ?」
俺たちは、もう一度戦場へと戻る。
何度目の離脱で、何度目の復帰だろうか……
もうすぐ朝になるはずだ……
これで終わらせる。
「アグリさん! チェンジだ!!」
「キョートさん! 準備できたんですね!」
「あぁ……下がってろアグリ……今度は俺たちがあいつを殴る番だ……!」
ミライとアルスは準備をしている。
俺の役目は敵の惹きつけ……!
「かかってこいよ吸血鬼! いや! シフィリス・トガム! もう逃げも隠れもしねぇよ!!」
俺のその挑発に、乗るかは半身疑問だった。
が、その疑問は杞憂に終わった。
「ふふふっ…………憂鬱ですねぇ…………私は嫌に愉しんでいるようです……主様……ですからお許しください……アナタの今の眷属を……粉々にすり潰す様を……」
吸血鬼は、明らかにこちらへと殺意を向けている。
来たな……! こっからが正念場……!!
「行くぜ……」
静寂が一瞬支配する。
そして、その静寂を破ったのは……
「〈兎脚〉!!」
「【ダークバインド】」
同時であった。
速さが断然落ちている。
だが、そんなのはどうだって良い……!
俺ができるのは、こいつに攻撃をぶち込むことだけ……!!
俺は『雷電』を持ち、吸血鬼へと斬りかかる。
だが、やはりというべきか、その攻撃が吸血鬼に当たることがない……ならば……!
「……ここ! 〈斬り返し〉!!」
斬り返し
攻撃を外した時に使うことで、即座に2度目の攻撃を放つスキル。
その挙動は人間でできるような挙動じゃないため、スキルを使ったってのがわかりやすいのと、少しクールタイムが長いのが特徴であり弱点だが……そんなのはこいつとの戦いではなんの重要性もない……!
大事なのは初見性……!! 初見殺しでこいつを倒す……!
「当たれゴルァ!!!」
「くっ……憂鬱ですねぇ……隠し玉というやつですか……!!」
〈斬り返し〉は見事にハマった。
ある程度のダメージは与えたはずだが、それでもなお回復をしている。
「まだ斬り足りないみたいだな……! 何度でも斬ってやるよ!!!」
「憂鬱ですねぇ……アナタは確実に殺します……!!」
「やってみやがれこんちくしょう!!!」
俺がそう言うと、吸血鬼は猛スピードで接近をしてくる。
「な……!」
俺たちを散々苦しめている爪が、俺へと目掛けて飛んでくる。
吸血鬼の爪が目の前へと近づいた。その時、その爪に向かって俺は剣を当てる。
「……なに?」
「なんてな……この時を待ってたんだよ!! 〈パリィカウンター〉!!」
パリィカウンター
攻撃してきた相手にカウンターをぶち込むスキル。
発動タイミングがアホほどシビアすぎるので使い勝手が悪いが、それでも尚、カウンターができる。
この一点だけで強い。
俺は剣を吸血鬼の爪に当てる。
その接触点から、光のようなものが出てくる。
そして次の瞬間、爪攻撃を弾き、逆に俺が吸血鬼へと攻撃を仕掛けていた。
「くっ……憂鬱ですねぇ……!!」
「冷静にやっているような奴が感情的だな……そんなんじゃ負けるぜ……?」
まだまだ斬り込む……!
アルスとミライが準備を終わらせるまで……!!




