第五十八限 黒藍の吸血鬼、その18
遅くなりました。
〈俊兎〉の反復移動による上昇、『雷電』の〈起動〉による高速化、更に加速するために〈兎脚〉を重ねがけ……!
これにより俺は、無類の速さを誇る……!
ただ、憂鬱のせいでスピードが落ちてるから、今の出せる最高速というわけではないし、もし憂鬱がかかっていなかったらこのスピードをコントロールできるかと言われるとちょっと怪しい……だから、実用性は乏しかったが……
「今の状態なら制御できる……!」
俺は急加速して、吸血鬼の懐へと飛び込み、ファイワークスに当たると思われた爪攻撃をキャンセルさせた。
「おいおい、なぁに忘れたフリしてんだぁ? 吸血鬼さんよぉ……!」
俺は吸血鬼を弾くと、奴の顔を見ながら武器を構えて言う。
「さぁ……第3ラウンドだ……!」
吸血鬼からは、笑みが溢れていた。
「ふっはっは……憂鬱ですねぇ……そう何度も何度も攻撃を邪魔されるのはとても憂鬱です……」
「そうか……何度でも邪魔してやるよ!!」
そう、ミライが帰ってくるまで、俺たちはこいつの注意を逸らさないといけない。
ミライがどんなもんを持ち帰るのかは知らないが、それに決定打があるというなら座して待つのみ……!
「座すほど身体は鈍ってねぇけどなぁ!!!」
俺は吸血鬼の懐へと飛び込みながら、斬り込む。
「くっ……憂鬱ですねぇ……先ほどよりよく当ててきます……」
DEXが上がったおかげか、LUKが上がったおかげかはわからないが……俺の攻撃は命中し続けている。
「おいおいどうした!? こんなもんかぁァァ!?」
俺は吸血鬼へとラッシュを叩き込む。
スキルも何も使っているわけではないが、確実にダメージを与えている。
「いいねぇキョートくん! ちょっと私は回復するから!! 少し任せたよ!!」
ファイアワークスが前線から離脱する。
今、こいつの目の前には俺とネイチャー……そしてアルスがいる。
レイはファイアワークスの回復のために前線を退いている。
俺の速さについていけてないのは吸血鬼だけではない……
「くそっ……あいつちょこまかしすぎてどこに撃てばいいかわかんねぇよ!!」
「キョートさんってあんなに早く動けるんですか……!!?」
「はやい!! すごいですよキョートさん!!」
キョートの行動を見て、三者三様のリアクションを取る。
ネイチャーは邪魔な様子で。
アルスは驚く様子で。
アグリさんははしゃぐ様子で。
それぞれが反応を示した。
ネイチャーの言葉の通り、俺は吸血鬼の前でちょこまかと動きまくっている。
そのせいで動きづらいみたいだ。
それは悪い気がするが……俺の速度は別に無限じゃない。
「クソッ……落ちてきたか……!」
この速度が維持できるのはせいぜいあっても30分。
それ以上はスタミナが持たないし、何より速度が少しずつ落ちていく。
そうなると対策されるだろう。
俺にはタイムリミットが迫っていた。
くそ……こいつまだ倒れないのか……! どんだけしぶてぇんだ……!
このまま平行線でいくと……負ける……!!!
「憂鬱ですねぇ……では……」
そういうと、吸血鬼が俺の前から姿を消す。
そして、後ろから悲鳴のようなものが聞こえる。
「ぅぐ……!! ……まじ……かよ……!」
「ネイチャーさん!!」
俺は振り向く。
そこには、さっきまで前にいた吸血鬼と、吹き飛ばされるネイチャー、そして、吸血鬼に杖を向けるアルスの姿があった。
「憂鬱ですねぇ……ようやく抜けてきましたよ……光が……」
「……なに……!?」
どういうことだ……今の言葉……まてよ……だとしたら……?
「憂鬱ですねぇ……敵前で考え事とは……」
「うぉっと!!」
吸血鬼の爪がこちらへと迫る。
その爪を、間一髪で避け、距離を取る。
「あぶねぇあぶねぇ……だが、ようやくわかった……このゲームの攻略法が……!」
だが……俺だとこの方法はできない……するならせめて、レイか……アルスか……それかミライ……
俺は吸血鬼と斬り合いながら、ミライが来るのを待つ。
(早くきてくれ……鏡花……!)
◇◇◇
私は、決戦の場である中庭から、少しばかり離れ、北館一階の魔学準備教室へと走る。
あそこには……あれがあるはず……
扉を開けて、中を確認する。
そこには、しっかりと目的のものが置かれていた。
「よし! これで……」
「ミイツケタ……ウフフ……」
「ッ……!?」
私は振り向く。そこには、スライムのような見た目のモンスターが、教室の扉の前に陣取っていた。
迂闊だった……ユニーククエスト進行中はモンスターなんて出ないと思ってた……!!
〈Voice:シンボルモンスター メランコリースライムが現れました。〉
「メランコリースライム……!? 倒したはずじゃ……! そうか……あの時も……」
あの時も、アナウンスが流れていない……
倒し損ねてたってことか……!
「アナタ……コロスッ!!!」
スライムがこちらへと迫る。
「なら……もう一度倒すのみ……!」
早く帰って、作戦しないといけないんだ……!
スライムとの戦闘が始まった。
◇◇◇
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「憂鬱ですねぇ……あの超速度も落ち……私に勝てるところは消えてしまいましたね……」
まずい……スタミナが切れた……
蓄積した速度はまだ少しだけあるが……それを動かすためのスタミナがない……
次の攻撃……避けれるか……?
吸血鬼が俺に対して、突進のモーションをする。
何度も見た……だが……ダメだ……うごけねぇ……!!
「憂鬱ですねぇ……では……大人しく……消えてください……」
くそがぁ…………!!!!!
吸血鬼は俺へと突進をする。
だが、その攻撃は俺へと到達することはなかった。
「……なっ……えっ?」
そこには、吸血鬼の前に立つ一人の探偵が居た。
「キョートさん……あなたが必要ですから……」
「アグリさん……!?」
「大丈夫です……祈符はまだ残ってます……! ですから……遠慮なく、戦ってください……!」
おいおい……まじかよ……
そう言われたら……するしかねぇよな……
「キョートくん! それ掴んで!」
背後から声がする。振り向くと、そこには蔓のようなものが伸びてきていた。
言われた通りに掴むと、身体がどんどんと活性化される……
ステータスを開くと、スタミナがみるみる回復するのがわかる。
「これは……!」
「私からの餞別……! ちょっと日光がないとさ、回復しづらいんだよね……!! 多分、戦力としては期待できないから……!! 一人で頑張ってよ……!」
「ファイアワークス……!」
ファイアワークスがここまで追い込まれているのはほとんど見たことない……よっぽど悔しいのか……
「……あぁ……もちろんだ!」
俺は吸血鬼の方へと向き直る。
吸血鬼は、先ほどの攻撃を避けられたと認識したのか、少し距離を置く。
「おやおや……憂鬱ですねぇ……こうも"悪運"が強いとは……」
「それは……俺も思ってるぜ……」
ミライが来るまで……? いや違う……
「俺がここで……お前をぶっ飛ばす……!!」
緊迫した空気が、俺と吸血鬼の間を流れる。
そこへ、レイがやってくる。
「キョートさん! 私も回復できたでしゅ!!」
「よし! 良いタイミングだレイ! お前に頼みたいことがある!」
「もちろんでしゅ! なんでも言ってくれでしゅ!」
「あぁ、だがその前に……来たみたいだな……!」
その時、後ろの方から声が聞こえる。
「みんな! おまたせ!!」
そこには、無数のロウソクと紙切れ、そして一本のナイフを持ったミライがいた。
「随分と待ったぜ……聞かせろミライ……お前の作戦を……!」
「おっけー。ちゃーんと聞いててね? 動きながら!!」
「もちろんだ……こんなことは……日常茶飯事だからな……!」
俺と、レイと、ミライ……そして、アルスと祈符状態のアグリさん。
対するは……黒藍の吸血鬼……シフィリス・トガム。
「……憂鬱ですねぇ……私の同胞が一人消えた気配がします……」
「スライムのこと? それなら、私が、しっかり成仏させといたから!」
「……なるほど……憂鬱ですねぇ……」
かつてないほど、吸血鬼の声が低くなる。
怒りか、憎しみか、それとも……憂鬱か……
最後の会戦が火蓋を切る。
「憂鬱ですが……第四段階といきましょう……」
わかりやすいメモとして
祈符を使った枚数
キョート・・・1枚
ミライ・・・0枚
レイ・・・0枚
アルス・・・0枚
ファイアワークス・・・1枚
ネイチャー・・・1枚
アグリ・・・1枚
となっています。
また、少し未来の話になるのですが、この戦闘終了後再起の祈符さんはナーフされます。
わーい!
まあ、主人公が勝てるのかっていうと……それは秘密です。




