第四十限 二つの場所、二人の準備
俺、景兎は2日ぶりに魔導学府へと戻ってきた。
あの後、レベリングのために魔導学府郊外を走り回り、モンスターを討伐していた。
「ったく……せっかちなんだよあいつ……まぁたしかにレベルは上がったけど……」
俺の今のレベルは40。この前のシンボルモンスタースライムと同等のレベルには到達した。
今日もレベリングをするみたいだが……その前にやりたいことをしたいんだよな……
レベルが上がったおかげで、俺の武器である『戦月兎・直剣』を持てるようになった。
まあ、多少のぎこちなさがあれど、持てるようになったわけだ……だからそろそろ返さないとな。
それに、この武器の試し切りもしたいし……
そういうわけで、俺はネロの居るであろう場所へと向かった。
ネロの家は相も変わらずボロボロであり、ほんとに住んでいるのか? と思わせるような外装だ。
この外装でなかなかしっかりした内装なのだからなお驚く。
「ネロ、居るか?」
俺は家の扉をノックする。
俺の見立てではまだここにネロが居るはず……
「なんやー? 誰やー?」
っと、居た居た。
「俺だ俺、キョートだ」
「おぉ、キョートお前か! 3日ぶりくらいか? なんか用でもあるんか?」
「まあ大体そんなところかな。ようやく満たされた」
「満たされた……はっ、なるほどな。わっちの打った業物を使いこなせるようになったっちゅうわけやな?」
「いや、使いこなせては無いんだけど……使えるようにはなった」
「十分や。武器は使うことで身体に染み付く。使わんかったらキョート、お前の武器も十分な強さを発揮できん」
「そうか……確かにな……」
この言い方的に……
武器に習熟度メーターみたいな、そんなやつでもあるのか?
無意味なことを言うことはしないと思う……って思ったけど、このゲームのNPCは反応が人間レベルだった……全然関係ないかもしれない……
「それで、それを言いにきたのか?」
「あぁ、そうだ。忘れてた。ようやく俺のメインウェポンが使えるようになったからな。借り物のこいつは返しておこうかって思って」
俺は『二丁剣 雷電』を机の上に置く。
「……なるほどな。浮気はしとうないってことかいな」
「浮気って言うと聞こえ悪いけど、そういうことだ。まあ、手放すには惜しい力だが……」
正直な話、俺はこの武器を手放したくはない。
はっきり言ってこの武器は強い。
特殊能力とやらが付いていて、しかもその効果も使い勝手のいい速度強化。
スタミナが減りやすいという欠点を加味しても、正直お釣りがくるレベルの武器だ。
ただ、これは言わば借り物の力。
俺のものではない。
ネロから借りた俺の剣までの繋ぎ役としての力だ。
ということは、いずれ返さないといけない。
というか、借りパクしようものならNPCからの好感度ダダ下がりになるし、そもそも人として終わってるから、あまりしたくないんだよな……
だからこそ、俺はここでネロに返す判断をした。
少しの沈黙の後、ネロは俺に向かって言う。
「確かに、それはわっちの打った剣や。じゃがキョート、わっちが言ったこと覚えとるか?」
「言ったこと……?」
「わっちはな、餞別ってことで渡したんや。キョート、お前は良いお客になるかもしれんからな」
「は、はぁ……」
「やから、その武器の所有権はもうわっちにない。今はキョート、お前のもんや」
……なるほどな……ネロは俺を見込んでくれていたのか……
「……それなら、それに応えないといけないか……!」
「十分期待しとるで、お得意様」
俺はネロの工房を後にし、二人と合流しに行く。
ところで、俺ってそんな特別なこととかしたっけな……まあいっか!
◇◇◇
私、鏡花は今日も、フログリ内にある学校へと行く。
もう夏休みに入ったと言うのに、なぜ学校に行っているのか。それはクエストのためである。
「〜〜〜〜ということで、今日の授業は終わりとします。お二人とも、お疲れ様でした」
「お疲れ様です!」
「でしゅ!」
私たちは今日も、七不思議を探す。
今日は謎のしおりのような本『神話部規定書』に書かれていたあるはずのない部活である「神話部」というものを見つけに行く。
しおりによると、活動時間は深夜であり、部員はかなりの数がいるのこと。
少し前の情報らしく部員数とかは信憑性は薄いけど、活動時間とかは変わってないと思う。
神話部は北館1階の魔学準備教室という場所が活動場所らしい。
時刻は夜の23時。
もうじき日が回るとのことだ。
もうこの時間での学校探索も慣れたもので、お決まりのローブを身につけて学校内を駆け回り、目的の場所まで行く。
メンバーは私、レイちゃん、そしてネストくんだ。
アルスさんはチャイムの方を見てくるという決まりだったので今はいない。
「ねぇ、ほんとに神話部について知らないの?」
「あぁ、少なくとも最初の部活動説明会の時には聞いたことがない部活だ。おそらく七不思議の一つなのだろう」
「……ほんとに活動してるんでしゅかね……今日は休みかもしれないでしゅよ?」
「その点は心配ない。その本によると、神話部は毎日活動しているみたいだからな」
「そんな毎日活動できる部活がほんとにあるの……? って疑問になるんだけどね……」
「それを調べるのが今日だろ。さぁ、着いたぞ」
私たちの目の前には扉があった。
そこには、「魔学準備教室」と書かれたプレートがかかっている。
「さぁ……入るぞ……」
扉を開ける。
そこは、ただの準備室のようなものであった。
一見すると特に不自然なところはない。
ただ、よくよく見るとおかしなところがあった。
端には等間隔にロウソクが置かれている。
「これ……端っこにロウソクが並べられてる」
レイちゃんも何かを見つけたようで、大きく声をあげる。
「こっちの掃除ロッカーの中も青いでしゅ!」
「お前達……! 静かにしろ……! まだ誰もいないときまったわけじゃない……!」
そっちもうるさくはあるけど……
全員で準備室を調べる。
準備室とはいってもかなり広めであり、何人かがたむろしても全然問題ない広さだった。
私が準備室内を歩くと、足元で何かを踏みつける感覚に襲われる。
「ん? ……なんだろ……これ……」
私がそれを拾うと、それは紙のようなものであった。
それは、この前の「準備室」で見た紙と同じようなものであった。
その紙には切れ込みがあり、何も書かれていない。
「またこれ……なんなんだろうか……これ……」
他にも色々見たが、人らしき影は一切見当たらなかった。
この部屋の中はとても綺麗であり、きちんと整理整頓されている。
「ここは無駄足だったか……」
ネストくんはそう言っているが、私はそうは思わない。
「うーん……妙だなぁ……」
「何が妙なんでしゅ? 綺麗でしゅし、怪しいところはあのロウソクとロッカーくらいでしゅよ?」
「そう、そこなんだよ。なんで綺麗なのか? って。
それはここの部屋を使ってたからって言うと説明がつく。じゃあ今と場所が違うんじゃないかって言うとそこもノー。場所を変えたのであればこんなにロウソクが残ってるわけないんだよ」
「なるほど……」
「だから、妙なんだよね」
「なるほどでしゅ……」
私の言った言葉に、ネストくんは同意を示した。
レイちゃんも同じ反応を見せる。
そしてわからないことが一つ。
「この紙を見て欲しいんだけど、この切れ込み、おそらくナイフかなんかでできたやつだと思うんだよね」
「それがどうしたんでしゅ?」
「『抑え込めの儀式』ってやつを見て」
そのページには、儀式のやり方が書いてあった。
ページの最後の方にとある文章がある。
「「最後に、この紙をナイフで突き、声高らかに神の名を宣言しなさい」って書いてるの」
「……! つまり、儀式を行った形跡がある……ということか?」
「そう、そういうこと……だから、ここは使われていたんだよ……少し前まで」
私は少し落ち着いた後、言う。
「だからさ、おかしいんだよ。"なんでこの部屋に一人も神話部のメンバーらしき人物が居ないのか"……って」
「…………何かに襲撃された……とかか?」
ネストくんはポツリと呟く。
「それ、どういうこと?」
「もし仮にの話だ。襲撃されたと仮定するなら辻褄が合う。何故最近まで活動していた奴らが突然姿を消したのか……なぜその紙が落ちていたのか……何故ロウソクが建てられたままなのか……もな」
「つまり……少し前までここで活動をしていた。しかし何者かによって襲撃され、全員もれなく殺された……ってことにならない? そんなこと、普通のモンスターや人間ができると思えないんだけど……」
「できるだろう……『青の吸血鬼』なら……」
「……!」
『青の吸血鬼』!? ここで突然?
でも、たしかにユニークモンスターならいける……のか?
「だとしても突拍子もない話だ。ただの妄言とでも思っていてくれ」
私たちはこの部屋に疑念を持ちながら探索を進めた。
結果として、これ以上は特に何も見つからなかった。
「さて……とりあえず帰る……?」
「そうだな……一旦終わろう……」
私たちはこの場所を後にし、アルスさんと合流した後、帰路へと着くこととした。
「これで七不思議を解いたと言えるのか……?」
「それは……うーん……」
謎が解けない自分に焦りを抱えつつ、学校を後にした。
あと、何が足りないんだ……?




