第三十八限 自然の摂理、装い変わり
景兎回です。
時は遡り……
魔導学府で鏡花が早起きしていた頃、時を同じくして景兎も早起きをしていた。
「さて……今日はなんだっけ? そうだそうだネイチャーを驚かせるんだった」
俺は、ノージステンドの宿屋で目を覚ます。
「いくかぁ……! ファイアワークスと合流だな……」
俺は支度をして外へと出る。
待ち合わせ場所は、あの時レイと行ったレストランだ。
ファイアワークス曰く、どうやらこの街では有名な店らしい。
まあ、ゲームの中の有名料理店とかあんま行かないからよくわかんないけど……
店内はかなり賑やかで、繁盛しているのだと一目でわかる。
「あ、すみません。ここに連れがきてると思うんですけど……」
「お連れ様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ファイアワークスって言います。居ますかね?」
「なるほど……ではこちらへついてきてください!」
お、どうやら既に来ているようだ。朝早くに御苦労なこった……
通されたのは店の奥にある個室だった。
「では、ごゆっくり!」
そう言うと店員さんは立ち去る。
元気な店員さんだな……彼女もNPCなのかな……?
通された部屋に入ると、そこには端正な顔立ちに高い頭身、そして緑の髪にツタを巻き付かせた謎の装飾をつけた変人、ファイアワークスの姿があった。
「あ! おっは〜! 元気してた?」
「昨日会ったばっかだろ! んで、今日はネイチャーを驚かせに行くんだろ?」
「そうだよ〜、ただ、まずは腹ごしらえならぬスタミナごしらえからさ!」
何言ってんだこいつ……たしかにスタミナは大事だけどな……
「まあまあまずは食べてから考えよう。どうせまだまだ時間はあるだろうし!」
「そうだな。店員さん! 飯ください!」
俺は前回も食べたオムライスを注文した。
味はしないがスタミナ回復量は高めだし、この店だとこればっか食べそうだな……
料理が運ばれて、俺が食べている間、ファイアワークスは計画について話し始める。
「まず、この街の入り口前で待つ。んで、その後、ネイチャーくんっぽいアバターがあれば、そこを捕える! まあ、簡単な話だよね〜」
「あいつが俺らに気づく可能性は?」
「うーん、そのためにも……ほらこれ」
「なんだこれ、仮面?」
「この仮面でまずは顔を隠す。そして、さらっと人混みに混ざってネイチャーくんを探し出す。幸いにもこの街、お昼以降はかなり活発だからね、人混みが形成されやすいの」
「なるほどな……よし、それでいこう」
「おっけ〜、じゃあこれで決まり〜!」
かくして、俺たちの「ネイチャー捕獲作戦」は始まった。
俺たちはネイチャーが来るのはお昼頃だろうと考え、各自変装グッズを用意しながら待ち伏せていた。
待ち伏せている間、様々なプレイヤーが俺たちの横を通過する。その多くは、俺たちの方を何度か見る。その奇怪なものを見る目とたまに目が合う。
「…………視線が痛い」
「しょうがないでしょ〜? これもネイチャーくん驚かせるだめだからさ。がんばろ?」
「だとしてもこの仮面はなんて言うか……ダサいだろ!」
「え!? いやぁ……かっこいいと思うけどなぁ……」
こいつ感性中学生か!?
今時中学生でもこんな狐の仮面つけないぞ!?
目立つったらありゃしない!!
あとこの装備品、特に効果がないせいでほんとにおしゃれアイテムとしての役目しかない!
「はぁ……なんでお前は女優なのにこんなファッションセンスなんだ……」
「え? 今それ関係あるぅ? てか、私のことセンスないって言ったぁ???」
「うるさいぞファッションセンス皆無。あと、お前のその黒いローブは目立ちすぎだ」
「いいじゃん目立っても! まあわからないかぁ〜! 私の美的センスを……!」
「別に一生わからなくていい……」
「冷たいなぁ」
そんな風に話していると、そろそろ大きな人混みが出来始める。
人の往来が激しい場所が故か、毎日のようにこうなるらしい。
俺たちがちょうどこの街に来たのは朝ごろだったからか、人がそれほど居なく空いていた雰囲気を感じたし、昨日もずっと依頼を受けてただけだからよくわかんなかったが……改めて見るとすごい量だな……
この時間は特に人の往来が激しいらしい。
その理由は馬車の時間がちょうどこの時間にピークを迎えるからだとか……
人混みはプレイヤーだけではなく、NPCも混ざっている。
ここからはいくつかの街に繋がっているからなのか、商人の格好をしているものから冒険者の格好をしているもの……果てはただの子供のような存在までいる。
そして、肝心のネイチャーはというと……
「……いねぇ……」
「あれぇ……おかしいなぁここから来ると踏んでたのに……」
奴らしき人が全くもって現れない。
そもそもネイチャーという名前を持つ男プレイヤーがいない……
名前を変えた……? いや、あいつがそんなことするとは思えないんだよな……絶対ネイチャーだろ……
「とりあえず……もう少し探すぞ……」
「おっけ〜。見つからなかったらしばらく休憩ね〜」
おいおいお前が言い出したことだろ……
まあ、全然見つからないし、別にいっか……ネイチャーだしな……
俺たちはネイチャーを探して人混みを掻き分け続けた。
しかし、なかなか見つからない……
「ファイアワークスめ……あいつ……嘘ついたのか……?」
そんな時、俺の横を一人の少女が通り過ぎた。
女アバターか……なら違うな……
通り過ぎたその時、後ろから声が聞こえる。
「……あれ、お前キョートか?」
は? 俺のことを知っている……?
後ろを振り返ると、そこにはさっきすれ違った少女の姿をした奴が立っていた。
その名前をよく見ると、「ネイチャー」という文字。
「…………え?」
「お前来てたのかよ。お花狂いは居るとか言ってたけど、お前まで居るとは……あいつの仕業か……?」
「え……お前その格好……まさか……」
「あー……そうだな……」
「女アバターて……笑」
「何笑ってんだてめぇ!!」
そこに居たのは間違いなく俺の知る……しかし俺の知らないネイチャーであった。
緑と茶色が混ざった抹茶フラッペみたいな色をした髪に枝のようなの髪留めをつけた少女体型の小柄な姿の女アバターだ。
俺たちはとりあえずは合流したため、ファイアワークス……いや、お花狂いのところへと行く。
「あっはっは! まさかネイチャーくんがネカマするタイプだったなんて!」
「まったくだ! 幻滅したぜ!!」
「何笑ってんだてめぇら!! これはしたくてしたんじゃねぇ!!」
「じゃあどうやってなるってんだ。お前が選ばないとそうはならんだろ」
「……攻略情報に、女性アバターでする方が色々と有利に働くって書いてあったんだよ!」
え? まじで?
そんなの書いてるの?
「絶対嘘だろそれ」
「少なくとも、それで有利になるなんて聞いたことないけど……」
「はぁ!? まじかよ!」
「どうやったらそれを真だと勘違いするんだよ」
「ゲームで性別で有利とかつけるの意味わかんないでしょ」
「うーん……たしかに……」
「まあ、過ぎたことは変わんないんだし、まあまあ切り替えていこうぜ、ネイチャー"ちゃん"」
「!!! ……ムカつくぜ……こいつ……!」
「ところで……これじゃ俺たちが驚かされたみたいだな……」
「たしかに……」
「いやいや、俺もお前が来てるのは知らなかったし驚いたわ! てか……ただ会って驚かせるだけがここに来た理由なのか?」
「まあ、俺は少なくともそうだけど」
「お前な……」
しばらく黙っていたファイアワークスが口を開く。
「実はさ、私から提案があるんだけど……」
「提案?」
「ネイチャーくん……あ、ネイチャーちゃんは知らないと思うんだけど」
「おい、なんで言い直した」
「キョートくん、実は私たちに隠し事してそうでさぁ?」
「は?」
「え? いやいやちょっと待て待て、別に良いだろそれくらいよ!」
「いやぁ、だってねぇ? 昨日も露骨に進路変更したし、その前も彼女さん……じゃなかった、ミライさん? に会わせたくなさそうだったし?」
「怪しいなぁ? キョートくぅーん?」
「おいおい……勘弁してくれよ……?」
「今すぐ教えてほしいなぁ? って、思ってね?」
「おいおいおいおい……」
「教えてくれるよな……?」
「ファイアワークス……お前……最初っからそれを狙ってたな……?」
「当たり前でしょ〜? さぁ、早く教えて? 私たち悪友でしょ?」
こ……この……
「この悪役どもがぁぁあ!!」
俺はどうやら、逃げられそうにない。




