#43
だんだんと、忙しくなっていった。
湊達にも料理を出し、なんとか一段落した頃。ひかりは、教室の中を見回した。
(思ったより、お客さんたくさん来てるなぁ……。あれかな、皆メイド目当てかな。千歳とか可愛いしね)
よく見れば、お客はほとんど男性だった。そういえば、同じクラスの男子は、今頃何をしているのだろう。
(……って、装飾取れてんじゃん!!)
教室内をしていると、ドア近くの取れかかっている装飾が目に入った。ひかりは、そそくさとドアの近くへ移動し、使われていない椅子と近くの棚を利用して装飾直しを始めた。
すると、近くを湊と宏樹が通った。どうやら、出ていくらしい。
「あっ、湊! 後で、湊のほうも行くからね!」
「おう。それと……白いパンツが見えそうだぞ」
「……ちょっ、もう見えてんじゃん、それ!!」
ちょっと! と、怒鳴り付ける。湊は、楽しそうに笑っていた。
(あ……湊、笑ってる)
正直、ずっと震え、怯えるんじゃないかと思っていた。だが、湊の楽しそうな笑顔を見てホッとした。よかった、と安心した。
(……いやいや、よくないよくない。やっぱりパンツ見えたじゃん。もう私、ジャージ穿くからね)
ひかりは、堂々とジャージを取りに行く。すると、クラスメートに名前を呼ばれた。
「ひかりちゃーん、呼び出しだよー」
どうやら、誰かがひかりに用があるらしい。いったい、誰だろうか。全く見当もつかない。そんな状態で、その場に向かった。そこにいたのは――花凛だった。
「ちょっと、どういうこと? どうして湊が、学校祭に来てるの?」
「そ、それは……」
顔をあわせて早々、花凛に問いただされた。花凛は、真顔でひかりを見つめる。その強い視線に一瞬怯むが、負けるもんか、と拳を強く握りしめた。
「私が来させました!」
「何でそんなことするの? ひかりちゃんは、湊の傷を抉るようなまねでもしたいの?」
花凛の、強くて痛い言葉が突き刺さる。花凛だって、湊のことを思って言っているんだ。それは、ひかりも同じだった。
「……このままじゃ、ダメだと思ったんです」
「……え?」
「花凛先輩の考え方じゃ、ダメだと思ったんです! つらい過去を思い出したくないから学校祭に来ないとか、それじゃ一向に、傷なんて癒えません! 私は、湊の傷を……癒してあげたいんです!」
花凛だって、湊のことを思っての行動だったには違いない。だけど、そんな花凛の方法じゃ、絶対ダメなんだ。
「余計なことしないでよ……」
ひかりの話を黙って聞いていた花凛は、ポツリとそう呟いた。そして、俯けていた顔をあげた。
「湊は、昔から私だけが頼りだったの。余計な口だししないで」
そう言い捨て、花凛は去っていった。
――これから、『昔から』を『昔は』に変えてやる。
花凛の後ろ姿を見つめながら、そう決心した。