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プロローグ

岩山に立っていた。


下を見ても何もない。隣を見ても誰もいない。

細い岩先にただ立っていた。


ふと思い出す。


「神様はね?いつもいつも見守ってくださっていて、困難なときに助けてくださるの。だから私達は、神様に感謝の気持ちを込めて祈りを捧げているのです。後で一緒に祈りましょうね?」


母は俺を膝枕し、頭を撫でながらそう言った。

あの時の俺は幼く、言葉の意味などわからなかったが、その時の母の顔は覚えていた。


声が聞こえる。


たすけて

たすけて

パパ、ママ


たすけて、かみさま


____なんでたすけてくれないの?


心が軋む音がする。


上を見上げる。

広い広い青空が広がっていた。それがどうしても憎たらしく思えて、何もかもが気に入らない。


「.....ちょ......て.....」


青空を睨む。仇敵がそこにいるかのように。

思い出す。


「....んちょ......きて....」


許さぬと。全てが叫ぶ。


「見るな」


ただ一言呟いた。


_____________________________


「だんちょ!起きて!」


目をゆっくり開けて、周りを見渡す。

調度品の一つもない面白みに欠けた空間。その地面は茶色の土塊。そして立てかけてあるグレートソード。

自分の眠る簡易ベッドの横にねいがいた。


「だんちょ!魔獣がきたよ!早く行かないと!」


「ああ」


ゆっくりとした動作で立ち上がり、グレートソードを担いでからテントの外にでる。


崩壊した人類の痕跡。地面はひび割れていて、瘴気が漂っているせいで視界が悪い。


「だんちょ!早く行くよ!みんな待ってる!」


駆け出す背中を見て一言


「わかった。」


ここは前線中域。仮設テントの並ぶベースキャンプ。

異常に魔物が発生する特異地帯。そこの魔物による人類への進行を防ぐための防衛線である。


今日も目覚めてしまった。





本棚が並べられ、書架の香りがし、日の光がよく差し込む一室。アンティーク調の家具が、その部屋を彩る執務室


執務室には柔らかい椅子に座り、机に向かって書類仕事を行う1人の女性の姿があった。


彼女の名前は方陣ゆかり 22歳 独身

日輪の國の大貴族。方陣家の女当主である。

肩口に切り揃えたサラサラの黒髪。切れ長のその目は理知性が感じられ、桜色の薄い唇は冷静さを感じさせる。

俗に言う、仕事のできそうな女であった。


頬に手を当て、一枚の依頼の受領書を見ながら考えていた。


「大丈夫なのでしょうか?」


これは、ある傭兵団の護衛依頼の受領書。

傭兵団の名は、北点傭兵団

かの魔獣集中領域。通称前線にて活躍している傭兵団。悪い噂もなく、世間では信用のできる傭兵団として有名である。


しかしゆかりは考えてしまう。大丈夫だろうか?と。

ゆかりは知り合いの紹介もあって、自分の護衛のために依頼していた。でも考えてしまうのだ。


実力は疑っていない。あの前線において目まぐるしい活躍を見せている傭兵団だ。腕は立つのだろう。

しかし評判はいいとは言え、傭兵団は傭兵団。どこの国にも属さず放浪する戦闘集団だ。

故に思ってしまう。


心配だ。と


「.......そういえば」


ふと思い出す。10年前別れた彼のことを

"また会える保証はないから"と、帰る約束も何もせずにただ一言、"じゃあな"と言って姿を消した彼を


ゆかりは当時を思い出す。

あの別れのあとは、ひとしきり泣いたものだ。


そして当時のゆかり(12歳)は決意した。あのクソボケを見つけ出してやると

だって初恋だったのだから


その決意から早10年。ゆかりは少女から女性になっていた。


「会いたいです。マサオミ様......」


恋心は衰えることを知らない。それどころか増している。


この女は一途であった。10年放置された女の結論ではない。そこまでいったら一途と言うのは一途に失礼である。お前は一途のフリをした何かだ。

とても怖い。


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