第3幕〜ザザ村・長老の独り言
村内を歩きいつも長老が座っている長椅子へ向かうオボロ達。集会所を見ると、囲いの柵も完成していた。長老の前に立つオボロ達。自分の前に居るオボロ達を眺めて……細目な長老の目が見開いた。オボロは認識出来たようだが……クロネとアミュ、メルを見る目が……なんかいやらしい……。まぁそういう目で見てしまうのは♂の性であろう……。露出のある服装でスタイルの良いクロネ、愛らしいアミュとメル……。クロネとアミュはそれぞれ長老に挨拶した。メルについてはオボロから紹介し、古びた洋館に用があったので近くだったから、顔出してみたと伝えた。長老はにこやかに微笑み、好きなだけ滞在して良いと歓迎してくれた。
アミュは話途中でマーマンの子供らの所へ走って行ってしまう。クロネは話が一段落してから砂浜へ行ってしまった。残されたオボロとメル。集会所を見に行くオボロ。後を付いていくメル。集会所の暖簾をくぐり中へ。丸太の椅子へ座り中を見渡す。中心の大きなテーブルに高く設定した小窓から陽が射し込む。
(グリナいい仕事してくれるな。内装も悪くない!落ち着いた雰囲気)
オボロはメルをテーブルに座らせ、ここまでの事をメルに話して聞かせた。はぐれ島でクロネと出会ったこと、ザザ村で集会所を作り助けてもらった礼をしたこと等。話の途中でメルの質問攻めにあい時間は取ったが理解してくれたようだ。集会所にグリナとリーベが挨拶しに来た。オボロはメルを紹介し、グリナには集会所の出来栄えを褒め、リーベには角錐を振り回し、使い勝手が良かったと感謝した。二人とも照れ臭そうにしていたが、自信持って良いぞと軽く肩を叩くオボロ。
その日の夜は普通に客人としてもてなしてくれた。夜の食事の時、オボロはゴーラに明日漁船の補修や補強をさせて欲しいとお願いした。ゴーラはそれは助かると言い、快く引き受けてもらえた。そしてオボロ達は集会所で寝泊まりすることに。簡易的なベッドではあるが3人分用意してもらった。何故かベッドを繋げるクロネとアミュ。
「オボロ様は寝相が悪いので」
「そう!お兄ちゃん寝相わるいっ!」
との理由らしい……。
そして3人並んで寝ることに。メルはオボロの枕元に寄り添うように寝てくれた。
翌日━━
漁船置き場へ行くオボロ一行。ゴーラや船乗り達が待っていた。早速漁船の状態を見て回るオボロ……。そこかしこにクロネの黒い羽が飾られているのが印象的。隣に居るクロネは漁船の女神として役割を果たしていると得意げな顔。ゴーラ達と漁をともにした日々はクロネにとっても良い経験だっただろう。アミュとメルは砂浜で遊んでいる。ひと通り見て、甲板と外装、水漏れ対策くらいはしてあげようと考えるオボロ。
潮風に巻かれながら思案するオボロ……。
皆を集め計画と指示を出す。力あるものは丸太を運び、丸太を板に加工することから始める。クロネとアミュを呼び、エアカッターと撚糸輪で丸太加工をお願いした。口で説明はするが二人に伝わってない……。クロネがブレインマウスでイメージを教えて欲しいと言われたので、その通りにしてみた。すると伝わったのかクロネがエアカッターで丸太を板状にした!さすが理解力あるクロネ!オボロのイメージ通りである!アミュも撚糸輪で斬る……多少不格好ではあるが加工出来た。魔法や魔力を使って丸太を加工して行くのを、驚いて見ているマーマン達。加工は鋸や鉈が基本らしく初めて見たとのこと。初日は丸太加工で終了。
2日目━━
クロネには丸太加工を引き続きお願いした。自分のペースで加工して良いと指示。アミュには別仕事。ブレインマウスでイメージを送る。口の牙をモゴモゴさせながら集中するアミュ……。お尻から編み目が小さい巣を噴射!砂浜に広がる巣をチェックするオボロ……。アミュの頭を撫でて褒める!同じ物を何個かお願いすると……集中力必要だから休みながらしたいと言われたので、無理せずにやってと伝える。メルが皮袋を持ってヨロヨロ飛んで来た。重りになりそうな鉄くずや石を探させていた。使えそうなのをオボロが選別し、メルに網の各先端に取り付けをお願いした。
……
……
一つ目完成!
そう「投網」
ゴーラを呼び使い方を教えた。これなら小物の魚を捕獲可能だし効率上がると。ゴーラは首を縦に振り感心していた。
クロネの所へ行くオボロ。丸太を輪切りにして欲しいとブレインマウスでイメージを送る。手の空いた船乗り達を呼び、中心を道具を使いくり抜いてヤスリで滑らかにして欲しいとお願いした。
漁船へ向かうオボロ。作業してる船乗り達にアドバイスしながら、安全確認して行く。クロネが作業終わったらしく漁船の先端に居るオボロの元へ来た。投網の元となる巣を必死に作ってるアミュが見える。途中メルがちょっかい出して、むくれるアミュ。負けじとメルにちょっかいを出すアミュ。見てるとどっちもどっちだなと、微笑ましく眺めるオボロ。そんな姿を横目でチラチラ見るクロネ。
(その温かな眼差しが素敵ですわ)
……
船乗りの一人がオボロの所へ、二つの木の輪っかを持ってきた。手に取り確認するオボロ。それぞれ輪っかに腕を通し肩まで持っていき漁船の先端から飛んだ━━
ザッバァァァン!!
飛沫を上げ沈むオボロ!
水面に気泡が浮いてくる!
……
後を追うように海上へ飛ぶクロネ!
はしゃいでいたアミュとメルは飛び込んだ音に反応し動きが止まる!
水面から輪っかに捕まるオボロが顔を出す!
輪っかを肩まで上げ足が着く所まで泳ぐオボロ。
海水まみれで体毛がしんなりしてるオボロ!身体を震わせ水気を取る!クロネもアミュも駆けつける。大丈夫大丈夫と手を上げ、ゴーラや船乗り達に「木の浮き輪」を紹介した。あくまでも漁の時に緊急事態に使う物で漁船に人数分は最低限あると良いとアドバイス。これにもゴーラや船乗り達は驚いていた。オボロはゴーラに
「美味い魚が食べられなくなるのは悲しいからな!」
頭を何回もペコペコ下げるゴーラ達。つられてオボロもペコペコ頭を下げてしまう。
━━!
オボロの後ろからクロネが抱きしめる!アミュは腕にしがみつく!メルは胸にくっつく!
「心配させないで下さい……オボロ様」
「びっくりしたっ!お兄ちゃんっ!」
「マスター居なくなったら……住処無くなっちゃう!」
(そんなに無茶な事をしたか?心配させてしまったのか……今まで心配させたことはあったけど……ここまでは無かった)
自問自答なオボロ。
━━!
(もしかして……血の盟約の影響か?クロネもアミュも自分じゃ気付いてないかも……人型になって人間同様な感情が芽生えているのか……?)
「み、みんな心配かけてごめんよ!俺は大丈夫だから!」
それぞれに頭を撫でて謝るオボロ。
そして夜の食事中━━
焼き魚、焼き鳥、果実皆それぞれ好きな物を食べる。メルは果実がお気に召したのか、にこにこしながら食べる。焼き鳥を頬張るオボロ。
(久しぶりだな……こんな大勢で食事。ダリル達、ちゃんと生活出来てるかなぁ……。ずっとはぐれ島で生きていくのは厳しいだろうな……)
物思いにふけるオボロ。
━━!
焼き魚を食べるクロネ、生肉を齧りついているアミュ、果実を食べるメル、一斉に口が止まる!
アミュがブレインマウスで
『クロネちゃん?メル?お兄ちゃんの声が……また勝手に聞こえてくるよ?』
クロネ
『そ、そのようですわね』
メル
『マスター、上手く使えてないよー!!』
オボロを見る3人……夜空を見上げながら焼き鳥を食べている……。ブレインマウスがだだ漏れなのは気付いてない様子。クロネは、アミュとメルに私から伝えておきますわとブレインマウスで話した。
そして、オボロのだだ漏れなブレインマウスを受け取った者がもう一人居た。
━━長老である。
集会所━━
繋げたベッドでゴロゴロしてるアミュ。丸太の椅子に座りメルに耳を裏返されちょっかい出されているオボロ。対面に座っているクロネ。
「あのオボロ様……ちょっとよろしいでしょうか?」
いつに無く目が真剣なクロネ!
「んにゃ?」
クロネの方へ向くオボロ。
「す、少し言いにくいのですが……」
━━!
メルとアミュが、あの事か?と勘づく!
「オボロ様の思っている事や考えている事、それとあちらの世界の記憶でしょうか……私達にブレインマウスで度々流れて来てしまってます」
深く息を吐き出すクロネ。やっと言えたというような雰囲気。
「え?あ?そ、そーなの?」
(魔力少ないから上手く制御できてなかったのか?)
オボロは誤魔化そうとするが、事実は事実……。
アミュ
「そ~だよっ!お兄ちゃん!寝る前とかいっつも知らない女の人ばっかり考えててっ!」
と、むくれる。
クロネ
「おそらく元居た世界のつがいの方とお子様でしょうが……私は寂しいですわ」
羽で顔を隠すクロネ。
あたふたしてしまうオボロ!
(確かに寝る前に思い出してしまうことはある……)
メルがテーブルの真ん中に立ち━━!
「もぉマスターしっかりしてよっ!ちゃんと意識して練習すれば大丈夫だから!クロネもアミュも、そんな事で落ち込まないの!」
と、一喝されてしまうオボロ達!
丸太の椅子から立ちオボロ
「今日は皆に心配かけてばかりだったね……。クロネとアミュの言う通り、家族だったマキちゃんとナナの事は……忘れたくないし……忘れない!でも今は……クロネもアミュもメルも……頼れる仲間だと思ってる」
丸太の椅子に座り直すオボロ。
「その言葉だけで十分ですわ!オボロ様」
クロネが代表して言ってくれた。
━━!
オボロの後ろに人影が!
長老がいつの間にか立っていた!
丸太の椅子が倒れるほど驚くオボロ!
「だいぶ仲良くなれたようぞえ?良きことぞえ?」
微笑む長老。
倒れた丸太を直し座るオボロ。
月明かりがテーブルを照らす……。
……静寂。
ようやく口を開く長老。
「明朝、船着き場の祠に来てくれんかの?」
と、言い残し集会所を出て行く長老。
何か話でもあるのだろうか……。
━━翌朝
祠は船着き場の近くの岩場にある。クロネが知っているので案内してもらう。船着き場の岩場を登ると━━
岩や石で囲われ覆われ、中に小さな祭壇のような物。古いのか石には苔がたんまりと付着している。お供え物やお酒もある。クロネが言うには漁に出る前は必ずここでお祈りをしていると。漁には出ないが来たからお祈りしておくオボロ。両手を合わせ目を瞑り祈る……。クロネもオボロに合わせて祈る。アミュも二人を真似して祈る。
━━後方から声が
「ほっほっほっ!ありがたいぞえ」
振り返ると海面に長老が立っていた!
二度見してしまうオボロ達!
「驚かせてすまんぞえ……。わしは長老とは仮の姿……本来は海神ぞえ」
長老が海面にゆっくり飲まれるように沈んでいく……。
海面がピタリと平になる。
海面が大きく盛り上がり姿を現す!
長く大きな口、輝くスカイブルーの鱗、長い身体を海面から出しこちらを見据える!
「海神、リヴァイアサンぞえ」
声量は抑えていると思われるが、身体が震えるほど!
「老人の独り言だと思うて聞くぞえ……。はぐれ島の砂浜の清掃感謝するぞえ。ザザ村にも恩恵をいただき感謝するぞえ。今、はぐれ島で勢力が変わりつつある。オボロ殿に力添えが欲しくての……」
━━ダリル達、危険なのか?
「世話になった者が危険なら、俺は行きます!」
即座に返答するオボロ!
クロネ
「オボロ様だけでは心配なのでお供させてもらいますわ」
アミュ
「お兄ちゃんもクロネちゃんも行くなら、アミュもだよっ!」
振り返りオボロ
「ありがとうクロネ、アミュ」
オボロ達の上から━━
手のひらほどの紐で繋がれた2枚の鱗がゆらりと舞い落ちる!
「海神の鱗ぞえ。重ねて擦り合わせればわしの鳴き声となり、海を鎮め、友を呼べるぞえ」
………友?
「使えば思い出すぞえ。ほっほっほっ!」
海面にゆったり沈みながら
「老人の独り言聞いてくれて嬉しいぞえ」
完全に沈み、波打つ海面に戻ってしまった。
━━━
早速使ってみるオボロ。
2枚の鱗を重ね……。
数回擦り合わせる……。
微かに鱗が擦れる音しかしない……。
(何も起きないぞ?長老!)
さらにもう数回擦り合わせる……。
地平線から何かこちらへ向かって来る!
━━あれはもしかして!
オボロとクロネは見覚えある生き物!鳥の様な顔、虹色にも見える綺麗な尾!
オボロ、クロネは声を揃え
「亀孔雀」




