第1幕〜爽太と水嶋姉妹
【青葉爽太】
35歳、一人っ子。
高校卒業後、建設会社に入社し現場監督として働いていた。
マキとの間に一人娘のナナ。
【青葉マキ】
32歳、姉は水嶋サキ。
旧姓は水嶋。
専業主婦。
爽太との間に一人娘のナナ。
【水嶋サキ】
35歳、妹に青葉マキ。
絶対定時の商社の総務部OL。
一人息子のダイキを育てるシングルマザー。
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水嶋姉妹との出会いは、爽太が高3の夏休み明けに転校してきたことに遡る。
爽太は中学では、そこそこ、やんちゃな行動をしていたが、高校に入り、角が取れたように落ち着いていた。
12歳のころ、突然の母親の蒸発。音信不通になる。後でわかったことだが、別の男と駆け落ちしたようである。
一方的に離婚され、父と二人暮らし。
父は爽太に関心が無くなったのか、毎日毎日仕事をし、アパートには寝に帰っている感じだった。
だから爽太も自由に学校行ったり、やんちゃしたりと過ごしていた。
高校に入り、将来の事を考え自立をしなくては!と考えるようになる。今の父親とは、一緒に生活したくない、と。
━━━
夏休み明け━━
別のクラスに転校生が来たらしい。爽太は、自分のクラスではないので特に気には留めてなかったが、姉のサキは背も高く髪も茶髪に近く、緩くパーマがかかり、何かと目立っていたので、廊下などで見かける程度であった。
同級生とは思えないくらい、大人びた雰囲気が第一印象だった爽太。
爽太はクラスでは、それなりに会話し一緒に行動したり、と普通な感じであった。
……外見はと言うと……中の上な評判らしかった……。
水嶋姉妹が転校して二週間ほど経つだろうか。
爽太は休み時間に3階の渡り廊下を歩いていた。
そこへパタパタと走りながら向かってくる黒髪ボブの女子生徒。
両手にノート、教科書を胸のあたりに抱え込み走ってくる。
すれ違う瞬間━━━!
爽太は、キンキーン!と、目眩が襲うくらいな頭痛に見舞われた!
頭を左右に軽く振り、落ち着けた。
(んー?見ない顔だな?……上履きの色、1年じゃん。ここ3年メインなところだぞ?)
━━━と、女子生徒とすれ違い筆箱がスルリと落ち、中身が散乱。
(あーあ………仕方ない)
爽太はその女子生徒に近づきペンを拾いながら
「もしかして1年生?移動教室か、なんかかな?」
優しく話す。
女子生徒は慌ててる様子。
「はい……転校してきたばかりで……その……理科室を」
物静かに話す。
爽太は後頭部を触りながら
「あー。ここ渡りきったら階段あるから、2階に降りて右行けばあるぞ」
女子生徒は、筆箱とノート、教科書をがっちり抱え込み
「あ、ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、理科室の方へ向かって行った。
途中一度振り向き、軽く会釈をした。
爽太は
(なーんか不思議な雰囲気な子)と感じていた。
これが爽太とマキの最初の出会いであった。
一方、水嶋サキは━━━
転校して数日でクラスに馴染んでいた。
雰囲気や外見が大人びてるからなのか、女子たちは興味深く話しかけたり、サキからも笑顔絶やさず、話をしていた。
爽太はたまに廊下で、数名の女子グループとワイワイ話ながら歩いてるのを見ている。
(ありゃ男からも人気出そうだな)と、ポツリと思う爽太。
爽太の読み通り、姉御肌なのか1ヶ月もすればクラスの男とも、気作に談笑してる。
━━月日は流れ卒業式
秋には内定も決まり、教習所にも通い免許も取得していた。
卒業式を終え、普段つるんでる奴らと帰宅しようと校門を出ると………そこには━━━!
一人の女子生徒が、キョロキョロ、そわそわしながら立っていた。
━━━!!
なんとなく目が合ってしまう爽太。
女子生徒は、爽太と目が合うやいなや、トコトコ周りを気にせずに向かってきた!
爽太の前に立つ女子生徒。
━━!
(確か……理科室の場所教えた子だよな)なんとなく思い出す爽太。
つるんでる奴らに、茶化される爽太。
「あーじゃー俺ら先に帰るわ!!また遊ぼうな!爽太!」
と言い残し、さっさと帰っていく。
校門の前に爽太と女子生徒……。
他の卒業生も、ちらほら帰宅している。
━━━と、女子生徒は静かに口を開く。
「あの時は、優しくしていただき……ありがとうございました!!」
頭を深々と下げる女子生徒。
この年齢でここまで頭を下げられるのは、育ちが良いのか?と思えるくらいだった。
「あと、これを!」
と、小さな紙袋を手渡された。
と、同時に校内へ走って行く女子生徒。
校内前でのこの光景……
周りの同級生らが、にやついていた。
爽太は、あまりの突然の出来事に、ただただ流され
(せめて、お礼の一言でも言えば良かった)と。
帰り道。
公園のベンチに座り、紙袋の中をソッと覗く。
中には手紙と、手作りだろうか……手のひらサイズのアップルパイが3個入っていた。
手紙を取り出し、周囲を確認し、読む。
手紙の、内容は……
(手紙を読んでいただきありがとうございます。
私は1年4組の水嶋マキと言います。
転校して不馴れな私をあの時渡り廊下で、優しく助けていただき、ありがとうございました。
すぐにお礼を言いたかったのですが、会う勇気がなく、今日まで引きずっていました。
助けてもらった日から、先輩のことが、気になりだし、目で追うようになりました。
先輩のことが好きです。
連絡お待ちしてます。
070―****―****
水嶋サキ)
爽太は思う。
内容よりも、文字の美しさ、に。
文字の美しさで、人の品格がある程度見えてくる、と言う。
(きっとこの子は、誠実で、控え目なんだろうな)
爽太の中で勝手に人物像が完成していた。
「……ちゃんと返事してあげないとな」
と、アップルパイを頬張る爽太。
(なんか優しい味)
……空を見上げる爽太。
卒業して数日後━━
就職と寮への引っ越しの準備で慌ただしい中、担任の先生に呼び出しくらう爽太。
夕方、担任の先生から、渡し忘れていた書類をもらい職員室を出る爽太。
帰ろうとすると、校門付近に水嶋マキが居た。
━━━!
迷わず声をかける爽太。
振り向き両手を口に当て驚くマキ。
不思議と二人の距離感は無かった。
「……手紙とアップルパイ、ありがとう。美味しかった」照れながら会釈する爽太。
「アップルパイは、得意なので!」
手を腰に当てるマキ。
爽太は、緊張しながら
「その、手紙の返事なんだけど、さ……」
マキは手を強く握りしめ、後ろへ回す。
爽太は
(なぜか嫌な感じがしないのは、なんでだろう)と感じつつ……
「……友達関係からでも……良いかな?」
後ろで強く握りしめた手が緩むマキ。
「はい!」
両手を伸ばし、深々とお辞儀をするマキ。
「嬉しいです!ありがとうございます!」
口角を上げて笑顔で答えるマキ。
その笑顔を見て爽太は
(こんなに綺麗な笑顔するのか!)
驚きを隠せなかった。
「家帰ったら、連絡するね!就職準備で、バタバタしててさ!」
マキはコクンと頷き
「はい。わかりました!連絡お待ちしてますね」
丁寧に答える。
こうして爽太とマキは、付き合い始めた。
━━偶然なのか、惹かれ合ったのか━━━
最後に………
【青葉きぬ】
♀猫
爽太が購入し、リフォームした戸建ての庭に住み着いててそのまま飼われる。
産まれて4年くらい。
真っ白と言ってたが、実は、尻尾の先が数センチほど、墨汁を浸したように黒くなっている。
基本的に普段世話をしているマキに懐いている。
ナナは無駄にかまって来るので少し苦手だが、おもちゃで遊んでくれるので、まぁまぁ懐いている。
爽太には、あまり懐いていない。ただ長く一緒に住んでいる同居猫的な関係、である。




