第1幕〜別世界での日々・5
第1幕〜別世界での日々・5
……つんつん
……つんつん
(ん?何かに突付かれてる感じ)
(あー久々にきぬが猫パンチでお越しに来てくれたのかな?)
そう感じつつ目を開けるオボロ。
━━!
猫じゃない!
黄色の目をした黒い鳥!!!
━━━!
驚き飛び起きるオボロ。
(そうだ……きぬも、マキちゃんも、そして…ナナも居ない世界だったよな…)
驚いてる感じのクロネ。
オボロは
「ごめんにゃ、驚かせて」
と、嘴を撫でる。
クロネは、首をブンブン横に振り、問題無いアピールをしてる感じ。
(俺、クロネに懐かれたのかなぁ?)と感じるオボロ。
二人……いや二匹の一日が始まる。
オボロは、ひと通り寝床である洞窟内の説明をし、砂浜やその近辺の森の説明をクロネにした。
ここは泥濘んでて危険。
ここは、木の実が良くなっている。
そっちは、野ウサギや野犬が良く生息してる……などなど。
それらを説明するだけで、夕暮れになってしまった。
説明してる間、クロネはわからないながらも、自分の話を理解しようとしていた。
時折、理解したかのような鳴き声をあげたりしていた。
洞窟へ戻ろうとしたとき、クロネが立ち止まった。
「ん?どした?クロネ」
小声で話すオボロ。
クロネは森の先を見つめていた。
と、クロネはオボロの肩を嘴で軽く突付いて、首を森の先の方へ向ける。
それを数回繰り返す。
オボロは
「先に何かあるのか?」
クロネは首をフンフンと縦に振る。
(ちょっと意思疎通できてるかも)
にやつくオボロ。
しばし、クロネの後を着けて行くと━━
そこには川が流れていた!!
オボロは
「おぉー川!!魚居るかな?」
ぴょんぴょん跳ねながら、嬉しそうに言う。
クロネは、川の岩場に居た。
水面をジッと見つめてるクロネ。
オボロは
(これはきっと狩りだ!)
そう思い静かにクロネを観察。
川の流れる音。
揺らぐ木の葉の囁き。
━━━!
クロネは低空飛行で足の爪を開き水面を裂くように飛んだ!!
見事!
一匹の大きな魚をがっちり掴み、喜ぶかのように数回旋回し、オボロの元へ獲物の魚を落とす。
オボロはそれを見て
(なんて美しい狩り。一撃で仕留めるとは!)
「これ、俺に?」と、自分の顔を指して問う。
クロネは、首をフンフン縦に振り、右の羽をオボロの方へ差し出す。
「あ、あ、ありがとう!クロネ!」
意思疎通ができた喜びと、大きな魚のご馳走に、感極まっていた。
クロネも満足そうに、その場で羽を広げバサバサさせて透き通るような鳴き声を出していた。
オボロは自分の身体と同じくらいな魚を担いで、洞窟へ戻る。
クロネは、ぴょんぴょん後を着いてくる。
その姿を見てオボロは
「歩きにくくないか?」とクロネに話しかける。
クロネは首を少し傾げて、悩むような低い唸り声を発する。
(明日にでも、歩き方教えようかな?嫌がられるかもだけど)
そう考えるオボロ。
━━━洞窟に到着。
早速ご馳走を食べる事に。
まじまじと獲物の魚を見るオボロ。目は大きくギョロっとし、口は顎が強そうな感じ。
(顔は見ないように、しよ…)
オボロは自分の分だけ、爪を出して器用に裂いて切り取った。そして残りをクロネに差し出す。
「俺はこっちので十分だから!残りはクロネでね!」
オボロは、切り取った身を両手で持ち口へ運ぶ。
(身はしっかりしてあっさりしてるな!)
一方クロネは━━━
嘴で啄んでは身を引っ張って、顔を上に上げて嘴を開け閉めして喉へ流し込んでいた。それの繰り返しである。
………
クロネの食事風景を横目でちらちら見るオボロ。
(元の世界のカラスは、確かあんな感じで獲物食べてたなぁ……。しかしクロネのような大きなカラスだと………迫力あり過ぎて、怖いな)
「……この光景、慣れないとな」クロネとは反対の方へ顔を向け、ポツリとつぶやくオボロ。
オボロの気持ちは露知らず、クロネ自身は、とても満足そうに食べている。
━━本日は二匹とも、大満足で就寝した。
━━翌日
オボロが先に目覚めた。が、隣にはクロネが寝ていた。
(確か寝る時、向こうの岩壁の方だったが……。クロネも寝相悪いのか?)
実はオボロは爽太の時から寝相は悪かった。そこまで別世界に持って来なくても良かったのに……と、切なくなるオボロであった。
と、クロネも起きた。嘴を大きく開け寝起きの嘶き。
「クカカー!」
洞窟内に響き渡る。
「お、おはよう、クロネ」
オボロは少しビビりながら挨拶。
オボロは
「クロネ、歩き方を教えたい!嫌だったら何か反応してくれるかな?」
と言いながら、砂浜へ連れて行く。
━━砂浜にて
オボロは、歩き方の見本をやってみせた。右足、左足ゆっくり交互に。
その姿をじぃっと見つめるクロネ。
クロネの足元に近くオボロ。
「じゃ、やってみようか!」
両足を優しく掴むオボロ。
少しよろけそうになるクロネ。
左足を固定しながら右足を前へ無理やり押し出す。
「ぐぇぐぇー」なんとなく嫌がっているクロネ。
(一応反撃されるまで頑張ってみよう)と、オボロ。
続いて右足を固定し、左足を前へ。
嫌そうなクロネに、心で誤りながらも、その動作を繰り返す。
……
……
オボロの丁寧で優しい教え方が良かったのか、ゆっくりではあるが二本足で砂浜を歩くクロネ。
「そう!片方ずつ!うん!そう!………右足……左足……右足……」音頭を取るオボロ。
クロネも、二本足で歩くのが楽しくなったのか
「クカッ!クカッ!クカッ!」
と、テンポよく鳴きながら砂浜を歩く。
「凄いよ!クロネー!この短時間で、さ!」
と、背中に手は届かないので、黒光りする羽を肉球でポムポム叩く。
「ククカー!」
喜んでるような鳴き声のクロネ。
砂浜に両手を後ろに突いて座るオボロ。クロネの歩く姿を見守っている。
サクッサクッっとクロネの爪が砂浜に刺さる音。
オボロは……ナナが初めてよちよち歩きをしたことを思い出していた。
(あの頃のナナは可愛かったな……大きくなってからでも………。ナナは、あの土砂だらけを登って、助けを呼びに行けたのだろうか?……無事であってほしい……)
そう祈る事しか出来ない自分に、悔しさが込み上げて来る。
━━━つんつん
━━━つんつん
クロネが、どうしたの?みたくオボロを軽く突付いた。
「ん?あー?少し考え事を……」
オボロは返答。
首を傾げるクロネ。
「クロネも歩けるようになったし、腹ごしらえして、その後少し奥まで行こうか!」
二匹仲良く並んで砂浜を歩いて洞窟へ戻る。
まるで家族かと見えるような二匹を、波の音が、ゆったりと包み込んで行く。




