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番外編 エレンの報告日誌より

※ エレンン視点です!

私、エレン・カーティスは同じ過ちを繰り返さないために、ここに記す。



私は自身の弟、リント・カーティスを幼い頃、精巧な人形じゃないかと疑ったことがあった。

今では馬鹿げた妄想だと思うが、当時は本当にそう思っていた。


少し平均よりも身長が低く、可愛い顔立ちもさることながら、全く表情が変わらないからだ。

私や父も表情は変わらないが、リントはその比では無かった。


無表情ではない。全く感情のこもっていない作られた笑顔をずっと浮かべていた。

何を考えているか分からず、私自身、周りと同じように少し気持ち悪い奴だと避けていた。



ただ、あれは私が10歳ぐらいのことだっただろうか?

突然、獣の様な泣きじゃくる声が隣から聞こえてきて、耳を疑った。


慌ててリントの部屋に行くと、リントは叫びながら大粒の涙を流してベッドにうずくまっていた。

これが本当にあのリントなのか、中身が空っぽだったから遂に獣に憑りつかれたのではないかと本気で一瞬思ってしまった。


とりあえず見様見真似で『慰める』という行為をしてみたが効果は感じられなかった。

ただ、あれぐらいからリントは何か変わってきたように思う。


ガラス玉の様だったその瞳に、意思が宿るようになった。

私はそのことに内心嬉しく思っていた。


そう、嬉しく思っていたのだが…………。







ツツツッと内股が撫でつけられた。

「ヒィッ!」


思わず、情けない声が出てしまった。

もちろん、私の声だ。


「あれぇ?兄上何を書いているんですか??この講習会の主旨を理解していますか?」


遠目に、かつて人形と疑った私の弟、リント・カーティスが強い意思の宿った笑みを浮かべている。



「あぁ、分かっている。お前がこの講習会の実験台に私達を指名した理由も」


ただそう、ちょっとだけ……ちょっとだけでも現実逃避がしたかったのだ。

でないとやっていけないんだ。


「えぇ?嫌だなぁ、実験台だなんて。婚約者の居る俺では出来ないことをお二人にお願いしているまでですよ?」


「…………」

「ねぇ~えぇ~。難しい話をしていないで私とお話しましょう~?」


隣に座っている淫らな恰好をした女がこれでもかと体を擦り付けてくる。

先ほど、内股を触ったのもこいつだ。


ふぅっと熱い息を耳にかけられた。

「ヒイェッ!!」


まずい、また情けない声を出してしまった。


これ以上の醜態は私の自尊心が崩壊しかねないので、この講習会の教師に私は声を張り上げて文句をつけた。


「キャメル嬢‼‼このセクハラ行為をやめさせろ‼‼」

「うっさいわね‼今こっちの指導してんのよ‼役得なんだからじっと座って待ってなさい‼」


かつて、可憐で健気で優しいと思っていたピンクの髪をなびかせた少女アリス・キャメルは、その面影も無く怒鳴り散らしてくる。


ただ、現在の方がイキイキしている気がするのは私の気のせいだろうか。



彼女の前には、赤髪、赤目の青年クリス・マクミルが泣きそうな顔で私に助けを求めてくる。


クリスの隣にも淫らな恰好をした女が1人、腕にまとわりついている。

「エレン……俺…………」

「ちょっと‼アンタ騎士でしょ⁉何泣きそうな顔して女に恥かかせてんのよ‼」


バンとキャメル嬢に目の前の机を叩かれ、彼らしくも無くビクリと跳ねている。


「す、すいません、でも俺、まだ見習い……」

「何か言った⁉」

「すいません」


その様子を遠目に見て、リントはクスクスと笑っている。









事の発端は、エメルダ嬢と殿下の婚約破棄が成立した二日後の朝から始まった。


「私とクリスの貸し出し……ですか?」


朝食を食べながら、私と同じ黒髪に緑の目を持つ父が頷いた。

「そうだ、リントが協力してほしいことがあると言っていてな」


「私は昨日から謹慎のはずですが……」


今回のエメルダ嬢の件で私とクリスは昨日から2週間の謹慎になっている。

父はもちろんその事について知っているが、念のため聞いておく。

会話とはそういうものだ。


しかし、父上はもう何も言うことが無いと判断したのか黙々と食事を進めている。


代わりにリントが返事をした。


「兄上、謹慎と言ってもただ自室にこもって本を読んでいるだけでしょう??そんなの時間がもったいないじゃないですか?


昨日思いつきで始めたことが上手くいきそうなんです。

でも、俺じゃどうにも出来ない問題が出てきてしまって……。


兄上とクリス兄に謹慎中に手伝ってもらって、軌道に乗せてから国を発とうと思っています」



ほんの少し、困った様な笑みを浮かべてリントは頬を掻いた。


正直、意外だと思った。

手紙のやり取りもこの6年間ほぼ定期連絡みたいな物しかしていなかったのに、私達を頼るなんて。


だが、良い機会だとも思ってしまった。


今まで私は兄とは名ばかりでリントに何もしてやれていない。


リント自身が助けを求めることが無かったということもあるが、初めて頼ってくれたのだ。

こんな時くらいは兄として、何かしてやる、というのが家族の在り方なんだと思う。



「分かった、協力しよう。国を発った後は私がそれを引き継ごう」


「本当ですか⁉ありがとうございます‼国を出た後、誰に引き継げばいいのか迷っていたんです!兄上なら安心だ‼」


リントはキラキラとした目で私を見た。

弟に頼られる、というのは悪くない気分だ。



「では、これにサインしていただけますか?」


ん?サイン?


リントから出された書類は2枚。

タイトルは『新規事業のための意思確認書』と『新規事業の引継ぎ同意書』


…………待て、意思確認も気になるが〝引継ぎ同意〟とは何だ。

私が引き継ぐというのは、私が今、自身で考えて発言したはずだ。


チラリとリントを見るが、我が弟は変わらないキラキラした瞳と笑顔で私を見ている。


そして、戸惑った様な声を出した。


「えぇ?兄上どうしたんですか?あ、やっぱり駄目ですか……だったらそうだな、これはブライアンに引き継ぐことにします。今日の協力も大丈夫です。


兄上の手を煩わせてすみません、家族とはいえちょっと調子に乗っちゃいました」



スッと書類が引き抜かれる。



家族……。

そう、これはリントが初めて私を頼ってくれたのだ。


私は引き抜かれた書類を掴み、サインをした。

もちろん、両方に。


「問題無い。一度言ったことだ、私が引き継ごう」

「ありがとうございます!」



そして、クリスも意思確認書に同意し、私達は牢獄に来ていた。





目の前では、朝礼などをするかと思われる広さの部屋で、淫らな服の年若い女が6人。

そして足枷をつけたアリスが居た。


「…………リント、これはどういう状況だ?」


「あぁ!言っていませんでしたね!兄上達には色仕掛け講習会の参加者になっていただきたいんです!」


「「色仕掛け講習会???」」


「はい!実は兄上達の食べた惚れ薬ですが、効果が頭の回転を阻害して感情を高ぶらせるだけでした。

ですから、全く好きではない人間には効果がありません。キャメル嬢の真実を知った途端に正気に戻ったでしょう?」


「あ、あぁ」

クリスがついていけていないがとりあえず、返事はした。


リントは晴れやかな笑顔で続ける。


「そして、少しでも好きと思わせていたのはキャメル嬢の手腕によるものです。

兄上やクリス兄、殿下が同じ人間を同時に好きになるのですから、彼女の技術は相当なものです。

これを我が国の密偵に使わないわけにはいかないでしょう?」



「…………我々が色仕掛けを受ける、ということか?」


クリスは完全に顔が引きつっている。

私も、特に女性嫌いという訳では無いが好意も無いのに来られるのは何となく……何となく微妙だ。



「ご安心ください。

この場に居る人間はキャメル嬢含めて全員、意思確認書を提出しておりますので後でセクハラとはなりません。逆に兄上達は見た目がとても良いので彼女達のやる気に繋がります」


リントの後ろに控えた女性陣がコクコクと頷き、熱い瞳でこちらを見ている。


逃げたい。


そして、意思確認書…………。

引継ぎ同意書に目が行っていたがそういえばサインをしていた。


「これって俺達への罰……だよな?」

クリスが声を潜めて聞いてくる。


「そうだな」


リントはエメルダ嬢を好いている。

それはもう、殿下から略奪するほどに。


今回、殿下は事実の訂正に奔走しているが、私達は謹慎というリントからすると軽すぎる罰だったんだろう。





私は今回の事から色々なことを学んだ。


1,書類は完全に目を通してからサインをすること

    ※ 決して相手が引いたからといって、あまり確認せずにサインをするなどあってはならない!


2,己の行いが罪であれば、相応にして罰が降りかかるということ


3,弟を信用してはならない


4,女は恐ろしい





「ねぇ~えぇ~、また何か書いているの?」

スルリと服の下に手を入れられる。


「ヒャエッ!」

また、情けない声を出してしまった。


キャメル嬢、早く来てこの雑な色仕掛けをどうにかしてくれ。


そして、順番待ちしている女性陣。

頼むからそんな熱い瞳で見ないで欲しい。


私は今にも逃げ出したいのに耐えているんだ。

色仕掛けをするなら、それを察してくれ。




「いい勉強ですね、兄上」


クスクスとリントが笑った。

かつて私が人形だと疑った少年はもう居ない。


そこに居るのは我が愛すべき弟であり、決して油断してはならず、また敵にしてはならない男。


不肖な兄として、弟の成長を嬉しく思う反面恐ろしくもある、今日この頃である。



【番外の番外編】

作者「技術があるわりに本編では、雑な会話じゃなかったですか?」

アリス「男を落とす瞬間は本気を出すけど、落ちた後は雑で良いのよ!雑で‼」

作者「なるほど、勉強になります」



ー-----

ここまでお読みいただきありがとうございました。

お楽しみいただけたでしょうか?


面白かった!という方はブックマークや評価をお願いします<(_ _)>

そして、既にしていただいた方、本当にありがとうございます‼

とても嬉しいです。


アクセス回数を見てびっくりしました。

ありがとうございます‼‼

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして 本作品は恋愛もの、と言うより探偵もの、といった感じがしました 特にアリスさん監禁されてたという場所の捜査ですね そこから出てきた証拠と言うのは、国家が危険にさらされると言う重…
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