魔物遭遇「ドラゴン超美味しそう!」
黄金の禍々しい輝き。
巨大な体躯に、覇気を放つ圧倒的な存在感!
この洞窟の中で、ドラゴンの場所は一目でわかる。
一方、ルナはちっぽけだ。
白い髪と白いワンピースは暗闇の中で目立つけれど、岩陰に隠れることもできる。
走るのも早い!
それを利用して勝つしかない。
「右、岩のとこへ隠れろ!」
「これですね!」
ルナが滑り込む。
一瞬で獲物が消え去ったので、ドラゴンはグゲッと不機嫌そうに喉を鳴らした。
ルナはバクバク鼓動する心臓を押さえる。
「コ、コアさんがいてくれて助かりました……」
頭の中で響くように、コアの声とこれ見よがしのため息が聞こえる。
「フン、どういたしまして。まだ助けるぞ、ダンジョンとともに生きるためにな。神の武器をそちらに送る」
「武器? あーー……」
ルナの掌が光ると、お茶碗とお箸が現れた!
ルナは冷や汗を流して、それを眺める。
「確かにこれ装備品って表示でしたけれど。どうすれば?」
「一緒に声を合わせろ」
ルナは集中した。
コアも、魂を沿わせる。
するとお互いの考えていることが分かり、ダンジョンに関するコアの記憶も、わずかに呼び起こされる。
「大罪魔法[武器創造]!」
お箸は双剣に、お茶碗は盾になった!
「うわーお! 伝説の武器みたいなきらめき……! なんて変化! でも双剣と盾は一度に持てませんよ……?」
「武器をまた創り変えてみよ。やり方はさっきと同じだ」
大罪魔法、と言うのは短縮できるとのこと。
今はルナの体に十分魔力が馴染んでいる。
双剣を握りこむ。
「[武器創造]!」
ルナはイメージを変えた。
双剣が、大鎌となった!
「ほう? 珍しいな?」
「これなら首を落とせるもんねうふふふふ食材ぃ……!」
コアが顔を引きつらせたが、体の奥底からの渇望を自覚する。
現状の、ルナの意識がリンクしたのだ。
食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい……!!
美味しそう♡
大罪【美食】の衝動。
「これだ! 武器が揃ったら、あとは戦意だな」
「そ、そんなものないですけれど……?」
一瞬で涙目になるルナ。
であれば、問い方を変えてやる。
コアは誘惑するように艶やかな声で、ルナの耳を撫でた。
ダンジョンマスター・ルナに語りかける。
「食・べ・た・い?」
「た、食べたァァーーーい! お腹すいた! ドラゴンってとっても美味しそう!」
ルナは赤い目をランランと輝かせる。
常軌を粉砕した。
岩陰から飛び出した!
そこまでしろとは言ってない! とコアが焦るが、ルナは食欲をメラメラ燃え上がらせている!!
歓喜に満ちて!
それに気づいたので、コアは見守ることにした。
危なくなったらまた声をかけてやればいい。
(大丈夫……神の肉体なのだから)
ダンジョンの中で一人きり、震える体を抱きしめるようにして、叫びそうなのをじっと堪えて、ルナの動向に神経を尖らせた。
一方、ルナは解き放たれていた。
恐怖心を食欲が上書きする。
だ、ま、って、ろ、食欲が一番ルナの中ではえらいんだよ!!
ギャオオオオオオオオオオオ!!
ドラゴンの咆哮!
「ハロオオオオ♪ お肉!」
ドラゴンに動じず、えらく軽快な返事をして、爆音波により崩れ落ちてくる岩を避けて、疾走し、ドラゴンボディに自ら迫っていく!
玉砕覚悟かこいつ!? とドラゴンの方が動揺する。
そんなものは昔に討伐にやってきた軍隊くらいしか記憶になかった。
このドラゴンは長い間、最強王者として君臨していたので、近頃ではドラゴンの姿を見れば逃げていくものばかりだったのだ。
面白いやつだ、お尻に攻撃された恨みもある! と、ドラゴンはルナを正面から仕留めるつもりで足踏み。
ドンドンドン! と地面が大きく揺れた。
ルナがふらつく。
「ワッ!?」
地面を見てしまう。
視界にドラゴンがいなくなったことで、恐怖心がまた少し浮上してくる。
「今夜のメニューは!?」
「ドラゴンステーキ!!」
コアのアシスト!
ルナが持ち直した。
地面に片腕をついて、ぐるんと反転、するとドラゴンの爪が迫ってきている。
地面を駆けることもあるこのドラゴンは、前脚も太くて強靭だ。
「身がたくさん詰まってるぞ!」
コアの容赦ない一声!
「高級食材!」
ルナの大鎌がひらめく!
一閃!
前脚は切り飛ばされて、壁にぶち当たり、断面からは勢いよく血が吹き出した。
ルナはとっさの判断で盾を構える。
毒の血がかかった部分は、ブシュウウウと嫌な音を立てた。
怒り狂ったドラゴンの尻尾が盾を打つ!
ルナはそのまま吹っ飛ばされて、距離を取ることにした。
それとともに、壁際で前脚を拾う。
「ドラゴンの前脚、ゲットだよ! ああん今すぐ焼きたーい」
「火が前から来るぞ!」
ドラゴンブレス!!
ルナを包み込むほどの炎の範囲!
絶体絶命かとコアが体を硬くしたが、一向にダメージはない。
ダンジョンも揺らがない。
ルナにノーダメージということ。
ルナは盾の影に身体を隠し、鎌の先端に前脚をつけてそこだけを炎に当てた。
バーベキューしていたのである。
「天才か!」
がっくぅ、とコアの膝が砕ける。
胸の内でぴょんぴょん跳ねるようなルナの心がうっとうしい。
「上手に焼けましたー♪」
「味わってる余裕はないぞ!? いいか、まだドラゴンは戦闘体勢だ。というかふざけた敵に激昂してる。汝のことだよルナァ!!」
「えーっとね、こんな時にもお前って言わないコアさんが好きですよ? あとドラゴンは食べる時間をくれないので許しません。絶対に!!」
ルナの額が輝いている。
圧倒的理不尽。
これぞ弱肉強食、自然の摂理。
この世界の大事な役割を担うダンジョンマスターの欲望全開!!
「火力も食材もあなたから頂きましょう!」