協力体制「飢えてるとなんでも食べ物に見える」
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「どうして! あんなに学習したのに!? 我こそは全知! ダンジョンコア! そのはずなのに……!」
必死に記憶を探っているコアの取り乱した様子が、ルナを不安にさせる。
アイデンティティ崩壊、と言える状況。
「この世界がどうやってできているのか! ダンジョンの行く末、確か栄光への道だったはずなのに、そんな大事なことも思い出せない……!」
見ていて痛々しくなってきた。
ルナはおそるおそる、コアの肩に手を置く。
「おうわ!?」
「わっ!?」
二人で慌てる。
ルナが咳をする。
「ら、らしくないよコア? あのね。思い出せないんだよね? 無くしたわけじゃない。だったら、記憶って、頭の奥底に眠ってるだけで、これから思い出していけるのかもしれないよ?」
「……おお」
コアは瞳をすこし湿らせた。
それなら明るい方に考えられそうだ、と思ったのだ。
「ネッ!」
ルナの励ましの笑顔。
それに感動しかけて……
「いや待て」
「なあに!?」
「記憶は無くしたのかもしれない」
「なんで!?」
コアがルナの顎を、ガッ! と掴む。
ひきつるルナの顔。
「汝が我を喰らってから、この記憶の欠如が起こったのだからなああああ!?」
「き、気付かれたー!?」
「バカにするなよ!?」
コアの赤い瞳は燃えるようで、それを凝視してしまったルナは、ぶるっと震える。
震えて、つばが滲むのを自覚した。
(……あ。梅干しの赤……)
体の内側からむくむくと【美食】衝動が湧き上がってくる。
こんな時に!
なんともままならない。
コアはすうっと目を細めると、眼球のカラーを「青」に変えてしまった。
「あ……食欲減退色」
「まったく」
そして顎から手が離れる。
ルナはヒリヒリする顎をさすった。
爪が食い込んでいたようで、痛い。赤くなってもいるだろう。
「ここでルナに激怒していても始まらない」
「さすが」
「煽る天才か? 話術が下手だ、下手すぎる。まったく面白くない。だから生前の会社でも黙りこくることになるんだ。喋れば失敗すると思っていて、その通りだから、成長せず沈黙を選んだ」
「……返す言葉もございませぇん」
コアの言葉が痛い、痛すぎる。
ルナはズゥン……と沈みながら胸を押さえた。
その手をコアがきつく、握る。
手をつないだ状態。
「会社の上司は、だから黙っているルナにはどれだけでも仕事をさせておけばいいと考えただろう。だけど、我はそうはさせない。ルナの言葉を、その考えを、聞いて寄り添って生きていく」
「……!」
「起きてしまったことは仕方ない。我の記憶は、おそらくルナの中に眠っている」
コアがルナの胸を、とん、とつつく。
「全知全能が聞いて呆れるな。全知も、全能も、未熟な者同士。協力しなければならない」
「う。記憶って、返してあげることはできないのかな……?」
「無、理、だ。……いや、できるか……そうだ! ルナが我に語ればよい」
コアが刮目してルナを眺めた。
青い瞳の奥で、希望の炎が燃えているかのようだ。
眩しい、とルナは思う。
見惚れてしまう。
自分もこうあれたらいいのに、と憧れる。
「ルナと我は相棒となろうぞ! ともに成長しよう」
「……」
こんなふうに強く求められた経験は、ルナにはなかった。
でも即決は……と優柔不断に言いよどんでしまう。
「あーあ、記憶を奪われて、体まで食われて、このケダモノ美食家め……」
「わ、わかったわかった……!」
罪悪感をざっくざっく刺激されて、ルナはついに頷いた。
ダンジョンマスターとダンジョン・コアは、手を取り合うことに決めたのだ!
コアはご機嫌である。
なにせ全知のほぼ全てを無くしたということは、現在、圧倒的無能なのだ。
ルナのヒモ、そのもの。
(その繋がりのヒモを太くしなければならない! できれば乗っ取り! 全てはダンジョンのために! なぜかは知らないけどなァ! ちくしょうめ!)
最後が締まらないのは仕方ない。
ヤケクソで、にっ! と笑った。
ルナの手を握る力も強くなろうというものだ。
痛いんだけど……! と苦情が入って、やっと力を緩めた。
そして指を絡ませて丁寧に手を繋ぐ。
一緒にいたい、と行動で示す。
羞恥はもうかなぐり捨てた。
全てはダンジョンのために! 知らんけど!
「いいかルナ。我らが離れてダンジョンが力を失えば、崩壊してしまい、訪れるのは死だ」
「ひっ……!」
「心せよ。ダンジョンと我らは一心同体。ダンジョンの強化は生命力を高めることにもなるのだ。サボれば、死ぬ」
「強調やめてくださぁい! 死ぬとか……ッ怖い!」
ルナに最も強く響くのは「死」という言葉だ。
コアはわざとそれを使った。
頼り甲斐があるように、落ち着いて、語りかけてやる。
「怖くても考えろ。いいな? 大丈夫だ、我もともに……」
「でもダンジョンの強化ってどうすれば……?」
………………痛い沈黙。
それが、答えだった。
「ゲホゴホ! そ、そうだ。ダンジョンの現状を知るための石版があるぞ。そこに何か書かれているやもしれん」
「て、天才! 今できる有効手段を最大活用! えらい! すごい!」
「ふはははははは!」
ヘッタクソなルナの褒め言葉だが、素直な賞賛のため、これはコアの心にも心地よく響いたようだ。
これまでは、考えすぎてトンチンカンな受け答えをしてしまうことが多かった。
「それでは。いくぞ我らが最強コンビによる、最強ダンジョン計画ー!」
「えいえいおー!」
「第一弾! 現状把握!」
「初歩の初歩! でもとっても大事だよ!」
一言余計! と注意しながら、コアが立ち上がる。
人差し指をぴっと上に向ける。
指先がピカッと光って、ゴゴゴゴ……とダンジョンが揺れる。
床から、四角くて白い石板が現れた。
「わっ!? これ……?」
「ふふん驚いたか。今文字を浮かび上がらせてみよう」
「うわぁ、お豆腐みたいぃ……えへへへへぇ、齧ったらフワフワしてるかなぁ」
コアが指パッチン。
石板は、まるでSF世界のようなホログラムウィンドウに早替りしてしまった。
「のわー!?」
「集中しろ。まったく、ルナは困った子どもだな。えーと、分かりやすいように日本風に言うか……ステータスオープン」
コアは専門用語を分かりやすく翻訳し、ルナに説明することにした。
その結果、まるでゲームの画面のような現状ダンジョンステータスが表示される。
文字が浮かび上がると「おおっ!」と二人で歓喜した。




