コア変身「神の如く美味しいご飯!!」★
「ごちそうさまでした!」
その言葉とともに、けふっとひと息。
きれいにお茶碗が空になっている。
ルナは身も心も満たされて、大満足で手を合わせた。
恍惚としばらく余韻にひたり、ペロリと唇を舐める。
(ん? 私、今なんだか頭がぽわぽわしてる……興奮してたからかなぁ?)と首をかしげた。
さらり、と視界に白銀の糸が映る。
「んん!?」
ギョッとした。
白銀は、まさかの髪の毛だ。
それを撫でている自らの手は、驚くほど白く、繊細で小さい。
「んーーっ……何かがおかしいよ!? か、鏡とかあればいいのに」
ルナがまだ知らない、その容姿。
パチリと瞬きする瞳は、鮮やかな赤色。
より長く伸びた髪は、立ち上がると腰を超えるだろう。
「どうしてかな……?」
誘われるように髪をつまみ、凝視。
目が離せない。
ごくんと喉を鳴らす。
「まるで……白米のような色ね?」
口にした言葉は、なんとも食いしん坊だ。
うっとりと見つめて、口まで髪を持っていこうと指を動かし……あわてて手を離した。
「待って!! 私!!」
(完全に、無意識だったよ!?)
自分の行動がありえなくて、ブンブンと頭を降る。
視界に白銀色が入ってくると、また食欲が増進されて、逆効果だ。
あわてて頭を振るのをやめて、背中に白銀の髪を流し、おとなしく正座した。
「 私……どうしちゃったの?」
「説、明、し、て、や、ろ、う、か」
おどろおどろしい、と表現できるほど、恨みに満ちた低い声が……空間にこだまする。
ルナは、びくうっと肩を跳ねさせた。
ぎ、ぎ、ぎ、とぎこちなく振り返ると、小さなお米粒がひとつ、ポツンと背後に立っている。
ルナは箸を握る。
お米粒アタック!!
「いった!?」
「この期に及んで食べようとするんじゃなーいッ!」
お茶碗の中から必死で逃げ出た、たった一粒だけが、【美食】衝動に支配されたルナに食べられることなく、姿を残したのだ。
わなわな、お米粒が震えている。
「いいかァ!? ダンジョンマスターよ! お前は大罪を犯した……いや、大罪なんてものじゃない。実力も伴わぬうちに、ダンジョンコアと融合しようなど……何たる暴挙よ!」
「えええ」
ルナはムッと眉を顰める。
コアが怖いので涙目だけれど。
「だってこうでもしなくっちゃ、私、どうなるか分からなかったじゃないですかー……!」
「フン」
「いじわるで殺されちゃうかもって思いましたけど……!?」
「そんなことはしない! ダンジョンマスターが亡くなれば、このダンジョンとコアは消滅してしまうのだから。助けてやると言っただろうが?」
「私の『心』は?」
「…………」
「なくてもいいんですね。ダンジョンマスターとやらが生きてさえいれば、なんとかなるんでしょう? うう、やっぱり……!」
「意外と聡いな、こいつ」
「うわあああああん!」
ルナが号泣する。
涙がぽろぽろ床に落ちると、水溜りができて、海のように青く深く変化した。
ルナの激情に合わせて、ダンジョンが変化しているのだ。
コアがギョッとする。
「待て!」
「無理!」
「じゃあ落ち着け!」
「落ち着かせてくださいよっ、コアさんが、怖かったから、こんなに悲しっ……うわああああん!」
お米粒はルナの膝のあたりで、ついに水たまりに水没した。
浮かんだ。
「こ、米は浮く素材であったか。よかった。こっちこそ殺されるかと思ったわ!」
ルナのジト目。
涙はまだ溢れ続けている。
「………………悪かった」
コアはたくさん考えて、これまで学んできた世界常識から「こんな時はどう対応するのが人情的なのか」と正解を導き出した。
「悪いことしたら、謝る。ですよね……。私も、ごめんなさい」
ルナも、コアに頭を下げた。
そして、涙は収まった。
二人は少しだけ、和解した。