表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

意識覚醒「ここどこ?」





 とある世界で、全知全能の一部が生まれた。


 とっておきのきらめきを放つ一粒の命。

 とっておきすぎる・・・強い輝き。



 叫び声が、白い空間に響き渡る。


 ──ばかなッ、早すぎる!!


 みずみずしい鼓膜を、ビリビリと破かんばかりに打った。

 とある魂が、クラクラ、と意識を浮上させたり沈んだり、点滅するように反応する。


 ようやく、覚醒した。

 それはヒトの形をしている。


 ふやけた柔肌はか弱くて、今まさに産み落とされたことを表す水分に覆われていて潤っている。

 動く。

 もにょもにょと揺れて、指先がくにょっと曲がった。

 腕が持ち上がり、魔力が血管を通ってみなぎったが、べしょ、と貧相な身体を床に横たわらせた。

 まだ未熟も未熟なのだ。


 動く試みは失敗におわり、くらくらと目を回し、ヒト型はようやく、瞼を開けることを思いついた。

 真っ白な世界が広がる。



 ──初めからヒト型、だと?


 また、声。

 ヒト型は耳をすませた。


 パチ、パチ、と瞬きすると、涙の幕でぼんやりしていた視界がクリアになって、しずくが頬をつたう。


 白以外のものを見た。


 虹色の光彩をもつ水晶玉。


 ぷかぷかと宙に浮いている。


 この人型は、すでに「宙」だとか「白い」「虹色」だとかいうことを知っていた。

 それゆえ不思議に感じることもできる。


 できてしまう。

 本来ならば、何も知らないまっさらな状態からこの水晶玉が「教え込んでいく」というプロセスがあるのだが。


 ヒト型を眺めていて違和感を感じた水晶玉は「こいつはやりにくそうな……」と苛立ちを覚えた。


(なんだか、目が合った、ような気がした? もちろん水晶玉に瞳なんてないけど……んん……?)


 パチパチ、パチパチ、ヒト型は瞬きする。

 その度に造形が整っていき、女性のように体が丸みを帯びた。



「……なに……? ここ、どこ……?」


 かすれる声。

 喉の粘膜にひび割れでもできたのか、ゲホゴホと噎せると、ピンクの水を吐き出した。


 ギョッとヒト型が口を押さえた。


(こんなものが喉から出てくるはずないのに!? 何これー!?)


 違和感に気づくのだ、彼女は。

 違和感というよりは、自分の常識とは異なる、という認識があるという状態だが。


 水晶玉が震えている。



──もう喋るというのか!?


(もう、って、なんだろう。なぜ人が喋ることに驚くの……?)



 喉を負傷したくないので、黙って、首をこてんと傾げた。


(人は喋るものだよ。当たり前でしょう? 生まれたての赤ちゃんじゃあるまいしー。というかあの水晶玉も喋ってる……んッ……!?)


「……う、うああああっ!?」


 苦悶の表情で頭をぎゅっと強く押さえる。叫ばずにいられなかった。


 頭が物理的に痛い!

 ガンガンガンガンと内側からこじ開けられるように酷い頭痛。


 死んでしまうかと思った。

 再び。



(再びの死って、なんだ……? もうよく分からないよ……んん、何か思い出しそうな……ああそうか……私……!)


 ヒト型は全て思い出す。

 それとともに、絶望も溢れ出した。


(……仕事から帰る時……暗い駅の階段のところで、死んだの。蒸し暑い夏の夜、ジメジメする熱帯夜……日本のブラック企業の二十連勤が原因で、もーフラフラで……うッ、頭がッ、ストレス性の吐き気までー……! はあ、はあ。階段で足を滑らせてしまったんだよね……追いまくられるように仕事するばかりで、体の不調とか無視してたから、限界がきてた。

もっと自分のこと大事にしてあげてたらよかったなぁ……。

せめて、コンビニで買い込んだスイーツくらい食べてから死にたかった……わー、私の幸せって、ちっちゃ!!)


 そのプチ贅沢すらも経験できなかった悲しみで、ヒト型はがっくり打ちひしがれた。

 さいごのお楽しみだったのに。

 いまだかつてないスイーツパーティーにする予定だったのに!

 プチシュークリーム、モンブラン、ティラミス、プリンパフェ、贅沢フルーツゼリー、バウムクーヘン……


 思い出すたびに食べたくてたまらなくなる。


 あんまりにもショックで、せっかく馴染んできていた魔力の循環が乱れてしまって、ヒト型は、ぐでぇん、と餅のように床にひしゃげた。

 肌も水まんじゅうみたいにとろけてきている。


 ──オイイイイィ!?


 水晶玉の声も、どこか耳に遠い。


 思考がぼんやりとしてきている中でも、ヒト型はこの状況について考えている。

 へんなところが真面目だ。


(死んでしまって、それから全く知らない場所いる……ってことは……ここは天国なのかなー。白い、穏やかな空間、うん天国に違いない! そうであって……じ、地獄ではないと思いたい。……私は、真面目に生きてきたもん。いつもできるだけ周りに迷惑をかけないように、静かに日陰で生活していただけで……いてもいなくても……うう、どんどんネガティブに……)



 それって生きていたって言えるのかな。



 そんな疑問が浮かんできたのは、今のヒト型が、生まれたてで生命力に満ちているからだろうか。


 とはいえ崩壊しようとしているのだが。



 ──[生命力贈与]!


 あふれんばかりの光が満ちた。

 ヒト型の視界は真っ白に染まる。


 ──しっかりしろ!


 強烈な水晶玉アッパー!

 腹のあたりにゴツン! と衝撃を受けたヒト型が吹っ飛ぶ。

 当たったところから、燃えるように体が熱くなった。


(し、死ぬ!?)


 パニックの頭で、本能的に考えたことは。


(生きたいな)


 今度こそ幸せに、だなんて、思ったとたんに、意識はホワイトアウトした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ