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僕を共有した五人の乙女~告白は1億ポイントから!?~  作者: 寝不足魔王


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第17話:月曜日、聖奈政権の「清廉」と富豪の焦り

 3週目の月曜日。

 私立聖蘭学園の2年A組の教室は、いつも通りの喧騒に包まれていた。しかし、教壇の脇で出席簿を整える支倉聖奈はせくら せいなの背中からは、先週までの悲壮感は消え失せ、代わりに峻厳しゅんげんな統治者のオーラが立ち昇っていた。


 始業チャイムの10分前。聖奈は管理端末となったスマートフォンを手に、5人のグループチャットへ冷徹な「布告」を投げ込んだ。


『支倉 聖奈:おはようございます。今週から第2代ディーラーは私、支倉聖奈が務めます。今週の運営方針は「清廉と奉仕」よ。一ノ瀬さんのような金に物を言わせた成金ムーブは、凪くんの教育上よろしくないわ。今週から「物品提供による加点」は一律50%カット。代わりに、掃除や洗濯といった「純粋な献身」のポイントを1.5倍に引き上げます』


 画面の向こうで、4人の乙女たちが戦慄した。

 特に、978ptという国家予算級の資産を抱え、今週の「爆買い」を画策していた一ノ瀬舞夜いちのせ まやは、窓際の席で優雅に組んでいた脚を激しく組み替えた。


(……やってくれるわね、聖奈さん。自分の得意分野である「家事」の価値を吊り上げ、私の「資本力」を封じるつもりね?)


 舞夜の瞳に、静かな怒りの炎が宿る。

 そこへ、本日の「運用対象」である一条凪いちじょうなぎが、昨日の「おんぶ」の余韻など微塵も感じさせない爽やかな足取りで登校してきた。


「おはよう、みんな! 今週も一週間、頑張ろうな!」


 凪の輝くような笑顔。それが、聖奈政権下での最初の「採掘マイニング」開始の合図だった。

 舞夜が、まずは小手調べとばかりに席を立つ。


「凪くん、おはよう。これ、昨日手に入れた最新の電子辞書よ。翻訳機能が凄いの。今週の英語の授業で使いなさい、貸してあげるわ」


 高価なガジェットによる「先行投資」。先週までなら、これで20ptは堅かった。

 しかし、教壇から聖奈の鋭い声が飛ぶ。


「一ノ瀬さん。規約第22条を忘れたの? 過度な文明の利器への依存は、凪くんの自力での学習能力を阻害するわ。……その申し出、不適切として却下(却下)よ。ポイントは発生しないわ」


「なっ……!? ちょっと、聖奈さん、それは横暴じゃないかしら!?」


「いいえ、管理者の正当な権利よ。……凪くん。辞書なら、私が中等部の頃から使い込んでいるこの年季の入ったものを使いなさい。書き込みが多くて、きっと参考になるわ」


「えっ? あ、ああ……ありがとう、聖奈。物持ちがいいんだね。……助かるよ」


 凪が感心したように聖奈の辞書を受け取る。

 聖奈のスマホが、勝利のファンファーレを鳴らした。

『【愛の証明】実用的な学習支援:15pt獲得(家事・奉仕ボーナス適用)』


(……完璧だわ。0ptだった私の財布が、着実に潤っていく……!)


 聖奈は慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、内心でガッツポーズを作った。

 一方、資産5ptのどん底から這い上がろうとする瀬戸ほのかは、この「地道な奉仕推奨」の流れに必死にしがみついた。


「せんぱぁーい! 机の上が少し散らかってますぅ! 私が今、ミリ単位で整頓して差し上げますからぁ!」


「あ、ありがとう、ほのかちゃん。……でも、そこまでしなくても」


「いいんです! 先輩の視界をクリアにするのが、私の生きがいですぅ!」


 ほのかの地道すぎるドブ板営業。

『【愛の証明】机の整頓:3pt獲得』

 わずか3pt。しかし、今のほのかにとっては、砂漠で見つけた一滴の水のような価値があった。


 昼休み。

 藍澤凛(85pt)が「凪、ちょっと裏庭でキャッチボールしようぜ!」と誘おうとするが、聖奈が割って入る。


「凛。凪くんは午後から数学の小テストがあるのよ。汗をかいて集中力を切らすなんて言語道断よ。……それより凪くん、お弁当の余りの煮物、温め直してきたから食べない?」


「あ、煮物! 嬉しいな、聖奈。やっぱり君は気が利くよ、ありがとう」


 裏:聖奈に10pt。凛は「……ちっ、家事メンめ……!」と舌打ちをしながら、なす術もなく引き下がった。


 そんな中、霧島凪沙(239pt)だけは、聖奈の厳しい統治などどこ吹く風だった。

 彼女は凪の隣に座り、ただ無言で凪の袖のボタンをいじっている。


「凪沙ちゃん、それ、取れかかってる?」


「……ううん。……ついてる。……ただ、触ってるだけ」


「あはは、変な凪沙ちゃん。……でも、なんか安心するよ。ありがとう」


『【不可抗力】ターゲットへの癒やし:15pt獲得』


 聖奈は「……っ、凪沙さんは例外中の例外ね」と眉をひそめたが、凪がリラックスしている以上、加点を認めざるを得なかった。


 放課後。

 凪は一日の活動を終え、聖奈のテキパキとした(集金のための)働きぶりに感心しながら帰り支度を整えた。


「やっぱり、聖奈が委員長だとクラスが締まるね。僕もすごく助かってるよ、ありがとう。……なんだか、今週はみんな落ち着いてて安心したよ」


 凪の「常識的な」お褒めの言葉。

 聖奈は(……ありがとう。その言葉が今の私には15ptの重みがあるわ……!)と、清廉な乙女の仮面の下で、着実な「復権」への手応えを感じていた。


 校門。

 凪を見送った後、舞夜が聖奈の横に並んだ。その瞳には、かつてないほどのドス黒い意欲が宿っている。


「いいわよ、聖奈さん。今週、私に1ポイントも使わせないつもりね? ……ええ、大いに稼ぎなさい。そして、ルールをガチガチに固めなさい。……でもね、忘れないことね」


 舞夜が、聖奈の耳元で氷のように冷たい声で囁いた。


「金曜日。溜まりに溜まった私の1000pt近い資産が、あなたの組んだ『清廉なオークション』を、暴力的な数字で粉砕してあげるわ。……その時が、楽しみね」


 現・富豪と、現・ディーラー。

 二人の女の視線が火花を散らし、2週目の平日はさらなるインフレの予感を孕んで夜へと沈んでいく。


 一条凪は、自宅の玄関で靴を脱ぎながら、独り言を呟いた。

「……みんな、受験のストレスを乗り越えて、大人になっていくんだな。僕も負けてられないな」


 彼が「成長」だと信じているその変化が、実は「資本力の蓄積」と「ルールの私物化」であることに気づく者は、まだ誰もいなかった。


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