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◆お前に期待する

 神様なんていない。

 うん。

 絶対。

 だって本当にいるんだったら、バンパイアにとりつかれたあたしを見捨てるわけがないでしょう?










 リビングにへなへなとへたりこむ。

 盟約だか契約だか知らないけど、あたしはとうとう本当にバンパイアに捕われてしまったみたいだ。

 その証拠が首筋にあるコレ……。

 赤い痣っぽいマーク。小さな魔法陣みたいな模様の。

 これはバンパイアがコイツを所有してますっていう所有印らしい。

 たった今エリクにつけられた。

 エリクの所有物。

 …食料として。

 ………。

 ショッキングすぎて立ち上がる力も出ない。

 一度は約束だから、とエリクに一生血を捧げることを決めたけど…、ハブロさんが現れてそんな悲しい人生から解放されるのだと希望の光が見えた瞬間、これだ………。

 あたしを希望の光からあえなく撃沈させた元凶は、満足そうに薄暗い笑みを浮かべて笑っている。

 こ……こいつ……。

 人が絶望してるってのになんて奴。

 あたしがへたりこみながらエリクを睨みつけていると、ハブロさんが口を割った。


「お嬢さん……、その印は一生消えません。印をつけた本人でも、二度と消すことのできない代物なのです」


 二度と消えない…

 なんですと…!?


「ああ…何と言うことだ……。よりにもよって、女性であるあなたにその印をつけるとは……シルビアが怒ります…」


 だから、シルビアって誰ですか…?

 さっきから疑問に思っていたけど…。


「だからシルビアはべつになんともおもわねーよ。たかだか人間の女に印をつけたくらいで」


「人間といえど女性です。あなたが愛人をつくったのだと勘違いして怒るに決まってます!」


 …………。


「はぁ…?だったらシルビアを抱いてご機嫌とりゃあいいんだろ?」


「そういう問題じゃありません!!」


 …あのぅ…抱くとか愛人とか、話しがついていけないんですが……。


「あのぅ…。……なんの話しですか…?こっちは変な印つけられてショックうけてるのに」


「ああ…すみません。実はエリクソンには婚約者がいまして、それがシルビアなんです。」


 へぇ…婚約者いるんだぁ…。

 ふーん………

 え!?


「シルビアという決められた女性がいながら、エリクソンは食料などと言ってわざわざナタリーに所有印までつけて…。バンパイアが所有印をつけるなんて、相当執着されてる証拠ですよあなた」


「……食料ですけどね」


 あたしは一言付け加えた。


「だーかーらー…、シルビアはくそじじいが思うほど、俺なんぞに執着してねぇよ」


「わかりませんよ…。たとえバンパイアの中でも有能とうたわれるアルカイブ一族とマリー一族の政略結婚と言っても、結婚する相手が愛人をつくっていたら女性は激怒す・る・は・ず・ですっ!!」


 力説するハブロさんにエリクは呆れて溜息をついた。


「……あんたは変な本の読みすぎなんだよ」


 ……はぁぁ……。なんかよく分からないけど、とりあえずあたしのポジションは物凄く良くないってことみたいね。

 シルビアとか、エリクに婚約者がいようがいまいが、今のあたしにはどうでもいいことだわ。

 この先のあたしの人生…エリクに一生血を吸われて終わりだもの。

 エリクがいたら、きっとあたしには恋人も出来ないし、結婚…なんて望めそうにないわね。

 男と同居してる女を娶りたいなんて心のひろーい殿方なんているわけないもの。あたしだってもし男だったら、そんな女、断固拒否だし。

 ああ……いろいろ終わったのね。あたし。

 まだ16歳なのに。

 すでに人生諦めてます。


 


「……あのさ……あたしはどうすればいいの………?」


 身体的にも精神的にもボロボロ…。

 そんな状態で質問…。

 さ、なんて答えてくれるのかしら。


「今までどーり俺の食料やってろ」


 ああ…聞くんじゃなかった。


「お気の毒です…」


 同情…ありがとうと言うべきか、だったらもっと本気で助けて欲しかったとか怒るべきか…。どっちにせよ傷つきますから、放っといて下さい。


「……まさかエリクソンが人間にここまで執着するとは……。…さて、困りました。このことはどうシルビアに説明しましょうか…」


「ただの家畜だって言っとけばいいだろ」


 ……うぅ……最…低…

 エリク最低…。

 こんな奴に少しでもバンパイアのことを理解しようとしたあたしが馬鹿だったわ。結局その時も言い争いになって終わっちゃったけど…。

 もう知らない。

 あたしはよろよろと力なく立ち上がると、手摺りに掴まりながら階段をあがっていく。

 早くベッドに潜って、眠って、今の状況を忘れたかった。一時でいいから。


 パタン…



「……。エリクソン、とりあえずあなたを連れてここを出る話しは無しです。どうせ出ていく気もないのでしょうから。私は一度魔界に戻ります。私もエリクソンにばかり構ってられませんので。ハァ…仕事が増えました」


「別に頼んでねーし。でてけでてけ」


 エリクソンはハブロの背中にそう吐き散らし、彼なりにハブロを見送った(?)


 途端にシン…とするリビング。


 誰もいないと暇になる。エリクソンはナタリーに貸してもらってる自室へと向かう。

 階段を登り、ナタリーの部屋を通りすぎる。

 彼女の部屋からは物音ひとつしない。

 寝てしまったのだろう。

 ついさっきまであれだけ激しく、怒り、ショックをうけていたのだから。


「ま、明日には元に戻ってんだろ」


 バンパイアの自分に唯一盾突いてきた人間なのだから。たいていの人間はバンパイアと分かると、恐怖に顔が引き攣り、奇声を発して逃げ出す。もしくは、命だけはとらないでくれと必死に頭をさげ、懇願してくる。


 それしか能のない奴ら


 そんな人間を見てきたからこそ、俺は人間を見下し、馬鹿にする。

 だが、皮肉なことにそんな情けない、くだらない奴らの血液を摂取しなければ、自分はこの身体を保てない。

 正直屈辱だ。

 バンパイアをやわな人間どもの血液なしでは生きられない身体にしたのは誰だ…?神か?

 そんな奴がいたなら真っ先に殺してやる。


 だが…、お前は少し他の人間とは違うな。俺が見てきた、やわで糞以下の人間とは違った。

 人間の、しかも女という身分であるのに、お前は俺と対等であろうとする。

 実に滑稽だ。

 笑いがとまらねぇ。

 初めてあった時から、俺はお前に一目置いてるんだぜ?

 血が上手いってのもあるが、他の人間とは違う威勢の良さとかな。

 ギャーギャーうるせーけど。


 だから俺がお前に印をつけたのは、一種の興味。

 好奇心だ。

 お前が俺がすること為すことにどんな反応を示すのか。

 同種の女とは違うお前に、俺を楽しませてくれる要素があると、うっすら期待しているんだ。

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