◆ドタバタなバンパイアたち
「やぁ〜!!ナタリー!僕だよ!ツバイだよ!遊びにきたよぉ〜」
バンッ!とドアがはじける音がして、勢いよくツバイが現れた。あたしの家にはいろんな人が集まります。
そしてちょうどテーブルを磨いていたナタリーに思い切り抱き着く。
不意をつかれたナタリーは受け止めきれるわけもなく、二人まとめてドタン!と大きな音をたてて床に崩れ落ちた。
「いだぁっ!!?」
倒れた勢いで床に背中を打ち付け……………
と、
思いきや。
背中に痛みはなく、床に打ち付けたという衝撃もなく、おや?と思っていると、ツバイが片腕で倒れかけの自分を支えてくれていることに気づいた。そのためナタリーの身体は床から10センチくらい離れた距離に浮いた状態で止まっている。
「ふ〜〜。間に合った。ごめんね?驚かせて。頭とかうってないよね?」
う…。
綺麗でかわいいお顔が至近距離。
しかも心配そうにウルウルした赤い瞳で私を見て…。
かわいすぎです!
と、ぽーっと見つめていたら目の前のツバイ君が一瞬ニヤリと笑った気がして。
視界からツバイ君の顔が消えたかと思うと、次の瞬間、首筋にざらりとした感触がした。
「うひゃあ!……っむぐぐ!!?」
ぞくりとして悲鳴をあげた瞬間、てのひらで口をふさがれた。
「し〜〜っ、今はエリクソンいないんでしょ?だからさ、ちょっとだけでいいんだぁ。君の血、味見させてくれない?」
え!?
血ぃ!?
目の前のツバイ君はにこりと爽やかに微笑んで見せた。赤い瞳が細められて、これまたかわいい………。
けど!!
待って!
この人いま何て言ったの!?
ツバイ君の顔にみとれて呆けた頭が一気に目を覚ます。
血!?血って言ったよね!?
そうでした!この人、綺麗でかわいい顔してる人だけど!
でも!
れっきとしたバンパイアでッ!エリクの仲間で!
ていうか、どうしてあたしは一度しか会った時ない人に抱き着かれた上に、首筋をし、舌(舌だよね?)、で舐められたあげく、ぽーっとみとれちゃってるのよ!しかも押し倒されてる〜!
信じらんない!
やっと我にかえったナタリーは口をふさいでいるツバイの手をはずそうともがいた。
が、びくともしない。
な、なんでぇ!?
わたわたと全身でもがいてみるが、全くもってツバイには通用していないようだった。
「んんんん〜〜!!!(はなして〜!!)」
瞳だけツバイに向け、なんとか抵抗を試みようともがくが、ツバイはにこにこと笑ってるだけ。
こ、コイツ…。
「そんなに暴れないでよ。大丈夫。痛くしないし、注射でちくっとされる程度だしね。血も味見ていどだから安心してよ。」
味見ぃ!?
嘘だ。絶対嘘だぁ!そんなこと言って、バンパイアってのは要求した血液量以上に血を飲んでくくせに!(エリクで嫌ってくらい分かってるんだから!あたしが何回貧血おこしてると思ってるのよ〜〜)
涙目でやめてと訴えるがツバイは聞く耳なし。赤い瞳が怪しく光り、本気モードになっている。
うぅ…
父様、母様、あたし、この頃変なのに付き纏われてばかりです。あたし、何か悪いことしましたか…?
死を覚悟したかのように、ぶつぶつと祈りを捧げはじめたナタリー。
(死を覚悟するほどのことかなぁ〜…。ま、いっか。ちょっとだけ味見♪味見♪)
ツバイはぶつぶつ言いはじめたナタリーをよそに、白い牙をその白い首筋に突き立てようとした。
…が。
「…テメェ…なにやってんだ」
ドスの聞いた低い声。
さぁ〜…っとツバイから血の気がひいていく。
背後からは、見なくても分かる、暗く冷たい…妖気(?)が……。
聞き慣れた声に祈っていたナタリーは目を開けた。
んん?エリク?
帰ってきたんだ。帰ってこなくてもいいけど……。嬉しくないし…。
「…俺の食糧になにやってんだよ。減るだろ」
…ほら。人のこと食糧あつかい。…いいけど。最初からそうだし。
ツバイは慌ててナタリーの上から飛び降りる。そして必死に弁解しはじめた。
「なに言ってんのエリクソン〜。僕、別にナタリーちゃんの血ぃ吸おうだなんて思ってないよ??勘違いだよ。勘違い。ほらっ…、その…、なんていうか?エリクソンがいない間、ナタリーちゃん一人で淋しいかと思ってぇ〜。遊びにきただけ。ほら、さっきのは〜…遊び遊び!ごっこ遊び!」
見え透いた嘘を…。ツバイ君、嘘つくの下手だね。それにさっきのがごっこ遊びって…。無理があるじゃん。
あたし、少しは怖かったのよ?血、吸われるんだと思って。
「…そうかよ」
は?なに?
納得したの?今。
エリク〜……え、本当に?
「ふぅ〜…助かったぁ」
ツバイが胸を撫で下ろしている。
…んん…?いいんだ?血、吸われてなければ許すってこと?
ふーん……。そう…
あたしは基本的に食糧でしかないのね。
動物界でいう、ハイエナ(ツバイ)に獲物をとられなければいいって考えなのね。あなたは。なんか…、あたし(人間)ってバンパイアに馬鹿にされっぱなしなのね。情けなくなってくる。というか悲しい。
「あ、エリク、そういえばどこに行ってたの?朝早くからいなかったけど」
「あ゛?俺がどこ行こうと勝手だろ?テメェにゃ関係ねーよ」
む。
エラソーに。
「なにその言い方…。あたしがエリクを居候させてあげてるのにそういう言い方ってないと思うんだけど」
立ち上がり、腰に手を添えて言ってみるが、いかんせんエリクの方がはるかに身長が高いので全く迫力にかけてしまう。
見上げたエリクの顔は、苛立ちに顔が歪み、長身なのと、怒るといかつくなるという最悪の要素が拍車をかけて、端正な顔立ちは今や鬼の形相である。
「人間のちびのくせに。なんか言ったかよ?」
あぁん?と睨みつけてくるエリクはまさに取り立て屋のごとし。
でも本職はバンパイアなんだって。黙ってればいい男なのに。
なーんて本人には言わないけれど…。
あたしは負けたくなくて、片足を一歩まえに踏み出すと、ふんっ!と胸をつきだして言った。
「言ったわ。あなたを居候させてるのはこのあたしです!」
ツーンと唇をとがらせて睨みを効かせると、エリクの高慢+取り立て屋のごとし眼光が降り注いできて、二人の間に火花が散った。
「お前…この前あんだけ脅したのに、俺に口答えとは…学習能力のね〜女だな」
「何よ!あの時は確かに怖かったわよ!血、吸われると思ってびびったわよ!でもここで怯えてあなたに負けるのは嫌なのよ!確かに人間はあなたたちバンパイアから見たら、ウジムシ…ううん!ミジンコ以下くらいなんでしょう!?でもね、あたしにだってプライドがあんの。バンパイアにただペコペコ頭さげて、血、吸われて生きてく人生なんて堪ったもんじゃないわ」
はぁ、言った。
言いたいこと言ってやったわ。
あたしはね、家畜みたいにエリクに飼われるようなことはまっぴらごめんなんだから。
言いたいを言った私はぷいっとそっぽを向くと、エリクもツバイも何も言わなくなった。
なにこの沈黙。
早く言い返してきなさいよエリク。
沈黙されるなんて思ってなかったんだけど。
なんか…場の空気もいやーな感じだし…あたし、退散してもいいの?悪いの?
あぁ…、今の勢いで自室に篭ればよかった。どうして立ち止まってしまったの?あたし。ちょっと後悔。
かっかしていた頭が、だんだん冷えてくる。
思ったこと言ったあたしだけど…、バンパイア二人相手にこの発言、まずかったかしら……。
これであたし二人にブチ切れられたら本当に殺されるんじゃ…?
今度はそんな不安が頭をよぎる。
ちらっと二人を盗みみようとした時、視界が真っ暗になった。
背中が何かにしめつけられている感覚もする。
この感じは…。
抱き着かれてる…?
「あぁぁ〜!かわいそうに。ナタリーちゃんはバンパイアがそんなに嫌になるくらいエリクソンにいじめられてるんだね!きっと盟約だ、なんだとか言われて吸血を無理強いされてるんでしょう?だから嫌なんでしょう?でもエリクソンは嫌いになっても僕は嫌いにならないで?バンパイアでも、僕はナタリーちゃんみたいな子、好きだから。ね?」
「え!?ぁ、……はい……、ありがとうございます…。」
まだ会ってから二回目のツバイ君に好きとか言われてもピンとこないし、言ってることが本当かどうかも疑わしいけど、エリクよりは好感のもちやすいバンパイアよね。
性格かわいいし。
どうしてエリクと先に出会ってしまったのかしら。神様の悪戯。
「ね、僕だったら君を貧血で倒れさせたりしないよ?だから…ね?ちょっとだけ血を……ぐはぁっ!!?」
突っ立ってたエリクがボソッとつぶやいたツバイに蹴りをいれた。
はぁ…前言撤回。
あたしはこんなバンパイアに囲まれて、一体どうなってしまうのでしょうか。