◆バンパイアの力
バンパイア…
それは人の生き血をすすり生きる魔物である
見た目は眉目秀麗…人と変わらぬ姿をし、血を奪う機会を密かにうかがっているのだ…
「ナタリー…おい!ナタリー」
頬をペチペチと叩かれて目を覚ます。
「なに……うるさいなぁ……」
「呑気に寝てる場合かお前は。アレがこの村に近づいてる。数は二匹だ」
「え!?」
アレとは世間を騒がす人ならぬ怪物のことである。バンパイアのように生き血を求め、一度喰らい付くと血液を一滴残らず全て吸いとってしまう恐ろしい存在である。
エリクによると、出来損ないのバンパイアというものらしい。
「またアレが…?最近多くない?エリク、なんとかしてよ」
「分かってるが…。ってお前に指図される覚えはない」
エリクは不機嫌になるとなかなか言うことを聞いてくれない。
というか自分が一番という考えで、人間を皆見下してみている。バンパイアの彼にとっては自分はただの食糧なのだ。特にナタリーの血は美味らしく、怪物に襲われた時に助けてやる代わりに血を捧げろと言ってきた。ナタリーもその時は死にたくない思いが強くてついOKをだしてしまったのだが、今になって後悔している。
エリクはほとんど毎日ナタリーの血を求めてくるからた。たまにならまだしも、ほぼ毎日吸われてはいつも貧血ぎみになってしまい大変なのだ。
その内本当にパッタリ死にそうで怖い。
「お願いエリク、村を守って?私にとってはこの村が全てなの。お父さんもお母さんもいなくなって……ひとりになった私を助けてくれたのは村のみんなだから」
両手をあわせて、一生懸命お願いする。
正直怪物に対抗するような武力はこの村にはない。
王都や栄えた町ならまだしも、田舎の小さな村にはそんなものは全くない。みな温厚な性格で武力とは無縁なので、怪物対策もしてないから太刀打ちできるのは目の前のエリクただ一人だけだ。幸い彼は力の強いバンパイアらしく、話せばなんとか聞いてくれるし、もともと怪物討伐隊のようなものらしいので大抵は勝手に退治してきてくれる。
だから世間ではかなり騒がれている怪物も、この村にはまだ侵入してはいないのだ。
だが、その代わり怪物を倒して帰ってくるなりエリクは疲れたと言ってナタリーの血を求めてくるのだ。
そんなに頻繁に吸わないと死んでしまうのだろうか?と質問したところ、無視された。エリクは自分に都合の悪い質問だとすぐ無視するので、どうやらそうではないらしい。
ただ単に美味しいから吸いたいだけなのだろう。
「エリク…お願いします。村を救って下さい」
「……………」
「お願い!」
「…………わかった。行ってくる」
エリクソンは面倒くさそうに立ち上がると、怪物がくるであろう方角を見つめて窓から出ていった。
ナタリーとしては窓枠が汚れるので玄関から出ていって欲しいのだが、それを言ったらさらに不機嫌になってしまいそうなので我慢した。
エリクソンは人並みならぬ速さで村を走りぬけていくと、遠くに黒い物体を発見した。近づくと二匹の怪物が旅人らしき人間をくわえて生き血をすすってるようだ。
〔……血………血が欲しい……〕
〔うまい……足りない………足りない……〕
二匹の怪物は男女の声が入り混じったような気味の悪い声を発しながら生き血をすすっている。
「ハァ…。なんでこんなやつらの相手をしなきゃならないんだ俺は」
溜め息をつくと、怪物の一匹がエリクソンに気づいて振り返る。
〔お前の血も……欲しい……欲しい……〕
「は?ふざけんな。誰がやるかよ」
怪物はギギギ…と軋むような音をたてながら姿勢を低くして、攻撃体勢に入った。
〔……血…うまそうな匂いだ………〕
怪物は舌舐めずりするとエリクソンを見て呟いた。
「そんだけ血ぃ吸っといてまだ足りないのか。貪欲だなお前ら。………………ま、人のこと言えないか」
〔血……血を……よこせぇぇーーーー!!!……〕
怪物がエリクソンめがけて飛びかかる。高々と飛び上がったそれに、エリクソンは余裕の笑みをこぼすと、手の平にポゥと光の玉をつくりだし、怪物の開いた口めがけて放った。
光の玉は怪物の口内に見事命中すると、怪物の体内に入り、みるみる怪物の腹が膨れていき、しまいには粉ごなに弾けとんだ。
その時やっと生き血をすすり終わったもう一匹の怪物は、仲間が殺されたのを確認すると一目散に逃げ出した。
「…逃がすか」
エリクソンはニヤリと笑うと走り去っていく怪物に狙いを定めて灼熱の焔を放った。
放たれた焔は勢いを増して怪物との距離をぐんぐん縮めていくと、怪物を丸のみにして焼き付くしてしまった。
怪物の断末魔の叫びが一瞬聞こえたかと思うと、
そこにはもう、ただの焦げ跡しか残っていなかった。怪物の肉体が焼かれた後の灰すらも残さない、絶対的な魔力。それをもつのがエリクソンなのだ。
「いやーエリクソン。見事だね。僕が出る幕なかったよ」
背後から拍手をしてツバイが現れた。
「お前がいたなら俺は別に闘わなくて済んだのにな。無駄な力使ったみたいだ」
「何言ってるのエリクソン。僕はついさっき駆け付けたばっかりで、その頃には君がすでに一匹ぶっとばしてるとこだったよ。相変わらず凄い技だよね」
肩に手を置いて、まるで上司が部下によくやったと言わんばかりの態度だ。
「それよりアイツらどこから湧いてくるんだ。魔界か?」
「多分ね。あとアイツらに血を吸われた人間がなるみたいだよ。感染してくみたいな。だからそこに転がってる旅人の死体も、その内アイツらみたいになるだろうね」
ツバイが血を吸われつくした旅人の死体を見つめている。というより観察しているに近い。
「じゃあこの死体も処分するか」
エリクソンが死体に手を伸ばそうとした瞬間、倒れていた死体がガタガタと動きはじめてムクッと起き上がった。
「気をつけてエリクソン!くるよ!」
「分かってる」
二人はいつ攻撃されても瞬時に対応できるよう身構えた。
動きだした旅人の死体は噛まれた部分から皮膚がみるみる黒くなっていき、体全体に広がっていった。
「へぇ…こうやって仲間増やすんだね。知らなかったよ」
「…感心してる場合か。いくぞ」
まだ体が完全に変化しおえる前に倒す。
エリクソンは焔を作りだすと、敵に狙いを定めた。ツバイも続けて人さし指を死体に向けると落雷を落とした。
エリクソンが透かさず焔を放ち、焼き付くす。
二人の攻撃を同時に受けて、ガタガタ動いていた死体は塵となって跡形もなく消え去った。
「はぁ…全く疲れちゃうよね。ナタリーに血もらいにいこうかな。エネルギー補給しないと」
ツバイが村がある方向に体を向けると、エリクソンがツバイに向かって小石を投げつけた。
小石はツバイの頭に見事ヒットし、ツバイはその場にしゃがみこんで頭をおさえた。
「痛ーッ!!冗談だよエリクソン。分かってるよ。ナタリーの血は吸わないよ。…………っていうか本当ケチだなぁ。少しくらいいいじゃんか。それともナタリーが好きなの?……って痛い痛いッ」
頭めがけて次々とんでくる小石をガードするも、エリクソンのほうが上手で何個かまた頭に当たってしまった。
「馬鹿なこと言ってるなツバイ。ただの食糧だと言っている。それ以上言うと頭かち割るぞ」
エリクソンの表情が険しくなって本気でヤバイと思ったツバイは冗談を言うのをやめた。
「ごめんごめん。あ!あっちでまた奴らが現れたような気配が〜!僕行かなくちゃ!じゃあねエリクソン」
ツバイはエリクソンから逃げるようにそそくさと去っていった。
「気配なんかするか。嘘つきめ」
エリクソンはツバイが去った方向をみながらナタリーのいる村へと引き返した。




