表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・コミュニケーション  作者: ごぼふ
四章 偽りの関係
26/39

楽しい買い物

「これは?」

「んー、ちょっと野暮ったくね?」

「これはどうよ」

「狙いすぎな感がある」

「これなんか私のオススメ」

「お前ホンットに少女趣味だな」

 綾菜の見繕った服を、俺が批評する。

「あ、あの……」

 んで、モデルはミーヤ。 彼女はここ、二階婦人服売り場にて、既に十枚以上の服を試着させられていた。

 評価は厳しいものの、俺は眼前の光景を先程の疑問を忘れるほどに楽しんでいる。

「な、何で私の服なんて、選ぶんでショウ」

 ミーヤはフリッフリのフワッフワを着た体を試着室のカーテンに隠しながら、抗議とも質問とも取れる声を発した。

 流石はヨスコだ、なんでもある。

「だって、ミーヤが私服二着しかないって言うから」

「しかもスカートは一枚しかないとか言うから」

「ジャージなら一枚……」

「部屋着なんでしょ?」

「しかも寝巻きでしょ?」

 俺達が交互にリズム良く言ってやると、ミーヤはグゥの音も出ない様子で黙った。

 やはり数の暴力というものは恐ろしい。 正論ならば尚更だ。 俺も最近よくやられているから分かる。

 ミーヤがこっちに派遣されてきた際、荷物は最低限の物しか持ってこなかったらしい。

 上着二枚とスカートは、鹿子との買い物で手に入れたモノだそうだから、自然ジャージ一枚で日本に来た計算になる。どんだけ男らしいんだ。

 ついでに下着は何枚所持しているかも聞き出そうとしたが、それは綾菜に阻止された。

「そもそも、ダイ……リノンの下着を買いに来たんじゃ」

「いらないって。 そこはプライドが許さないし」

 それが嫌なのもあって、俺はミーヤにファッションショーをさせているのだ。

 いや、個人的に物凄く愉しませてもらったりなんだりはしているけれど。

 さてと次は何を着させてやろうか。 流石にそんなきわどいのはないよなぁ。

 いや待てよ。あの辺にあった小さめサイズのTシャツを着せてやれば……。

 思いつき、俺は振り返った。

「下着をお探しでしょうか、お客様」

「は、はひ!?」

 すると振り向いた先、俺達の真後ろに店員さんが立っていらっしゃった。

「ひゃ、ひゃたしは、別に」

 ちょうど声が裏返ったので、そのまま弁明する。

「そうなんですよー。 この子も下着探しに来てて」

 だが、綾菜が横から割り込んできて、それを邪魔した。

「あ、てめっ」

「は?」

 思わず低い声で唸りかけると、店員様の顔がこちらに向く。

 俺は慌てて口をつぐんだ。

「ウフフ、恥かしがってるんですよ。 できれば似合うのを見繕って欲しいんですけど」

 勝手なことを言う綾菜を怒鳴りつけたいのだが、今声をあげれば、俺が混み合うデパートを女装で歩いて喜ぶ変態さんだと思われてしまう。

 ていうか、やっぱ見て分からないんだ、凄いぜ俺。 いや待て、そんな変態が日常に紛れ込んでいるなんて思いたくて、彼女も気づかないフリをしているのかもしれない。

 考えれば考えるほど、冷や汗が……。

「なるほど、かしこまりました。ではこちらへ」

 店員様が後ろを向く。その隙に綾菜の足を踏みつけようとすると、ひょいっと避けられ、逆に踏み返された。

「あ、なるべくきわどいのをお願いしますね」

 俺に舌を出してから、店員様にそんなことをおっしゃる。

「承知しました」

 おい、アンタも何承知してんだ。 何を納得した。 俺にどんな事情があると察したんだ。

 何、女の子ならそういう時もあるよね、みたいな顔してるんだ、やめろ。

 結局俺はその女に薦められるがまま、かなりアレな下着を三枚買う羽目になった。

 ミーヤに可愛い服を何着か渡せたのだけが、今回の救いだ。



 それから更に色々な店をめぐり、俺たちは屋上へと向かった。

 一階から五階まで通じる階段は吹き抜けになっており、上にはずんぐりとした飛行機の模型がつるしてある。

「つうか、なんで、階段なんだよ……」

 俺は息も絶え絶えになりながら、そこを昇っていた。

「密室で襲われるのは、マズい」

「あんまり近づかれると、匂いで大輔が男の子だってバレちゃうかもだし」

「フェロモンむんむん、だかん、な」

 確かに今の俺は汗臭いかもしれない。 ニヒルに笑ってみせると、綾菜もニッコリと俺に笑い返した。

「なんかまだ余裕ありそうだね。次家具屋行こうか」

「勘弁しろ!」

 両手に荷物を満載しながら、俺は叫んだ。 肩にかかる負担が、積載量オーバーを訴えている。

 原因は両手に下げた紙袋の数々。 中身は先ほど買った服やアクセサリー、更には今日の夕飯の材料だ。

 それをなぜか俺が一手に。 じゃなく両手に担っている。

 ミーヤと綾菜は空手だ。

「ていうかこれじゃ、可愛そうな目に遭ってる方が俺だってバレバレだろ!」

「オゥ」

「気づいてなかったのねミーヤ」

 相変わらず、無駄にグローバルな反応だ。

「でも、こんな変装しておいて正体バレバレだと、相手も逆に警戒するんじゃないかな」

「まぁ、それは、そうかもしれんけど」

「思わないでしょ。 まさか趣味で女装してるなんて…」

「趣味じゃねーよ!」

 いや、やるって言ったのは俺だけど。

 陰鬱な気持ちになりかけた俺の目に、ふと、壁に貼ってあるポスターが映った。

 『ケイゴ君! 貴方の敷地を守るスゴイ奴! 二つ一組になったセンサーが、進入した不審者を即キャッチ! 大きな音で貴方に知らせます! 定価五千九百八十円!』

 赤と緑のマダラ模様のキノコ型をしたその商品が、目立たないはずがない。

 まぁ目立つからといって、これ買う奴はよっぽどアレなセンスか欲求不満だな。

 って、俺この名前どっかで聞いたような……。

「ダイスケー!」

 足を止めた俺に、ミーヤが上から呼びかける。

 見上げると、とてもまぶしい物が目に入った。

 何で世の芸術家達は、ミーヤのパンチラっていうこの世に顕現した美の象徴をモチーフにしないんだろってぐらいの。

 俺専属モデルにしたいから、世に喧伝はしないけど。

「ドシタノ?」

「ぐへへ、なんでもない」

 不思議そうにしているミーヤにそう答え、俺は階段を昇りだした。

 ま、ライトグリーンのありがたいものも目に焼き付けたし、彼女についていくとしよう。

 ……一昨日見た物と色が一緒だったが、まさか二枚ローテーションじゃないよな。

 帰りに下着も買い足す必要があるかもしれないなんて思いながら、俺はミーヤ達に追いついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ