披露会
「どうよ」
「うわぁ、引く」
「そういう感想じゃねぇよ!」
「あー、引くぐらい似てるって事」
スカートを摘まみながら回って見せると、綾菜が感嘆半分、気持ち悪さ半分といった声を上げた。
ただし表情はどう見ても気持ち悪がっているので、まぁ大方はは気持ち悪がっていると思って良い。
「でも、去年より肩幅大きくなっちゃったかも」
せっかくなので、肩を抱いて切なげに体を捻ってやると、綾菜も似たようなポーズをとって悶えはじめた。
「ギャー! やめてやめてやめて! 二の腕にサブイボと蕁麻疹でてきた!」
「ホホホ、それはBCGの痕ではないかしら、お姉様」
「きょえー!」
奇声を上げ、ついにはのた打ち回り始めた綾菜を尻目に、俺はミーヤに微笑みかけた。
「これなら、お付き合いしてくださるかしら」
「え、あう……シ、しない!」
あれ、普段なら一蹴されるところが、ちょっと間があった。
「ちょっと脈アリ?」
「脈無イ!」
「それじゃ死んでるみたいだよ」
段々野生児みたいになってるな、この子。
一応ドキッとさせたみたいだし、俺の女装も捨てたもんじゃない訳だ。
「でも、声が思いっきり男子じゃん大輔」
ちょっと得意になっている俺に、綾菜が水を差す。
無粋な奴め。 しかし俺はお前が指摘してくるであろう事柄は既に想定済みだ。
俺は背後に置いた鞄をかかとでつつく。 それから背後に隠した指ででカウントを取り、合図をした。 指を全部折りたたんだ所で口パク。
「「あーあーあー、テステステス」」
すると、背後の鞄から双子の肉声が響いた。 初日にこいつらに見せられたあの機能。 皮を喉に当て喋るという能力を利用したものだ。
「あら、立派な女声。 ちょっと舌ったらずだけど」
「デモ、ハウリングしてるような」
言いながらミーヤが、辺りをキョロキョロと見回す。
にゃろう双子ども。 片方ずつ喋れよと俺は再度鞄を蹴る。
「私、立島大輔」「女装大好き十七歳」
今度はきちんと交互に喋ったが、内容が誹謗中傷だ。 強く蹴りすぎた報復らしい。
案の定綾菜とミーヤが一歩引いた。
「いやいやいやいや、今のは冗談だから」
背後を睨んでから、急いでフォローする。
綾菜は距離を開けたままではあるが、大きく諦めのため息を吐いた。
日ごろの行いのおかげだろうか。 ともかく女声が出せるって事は伝わった、ようだ。
「じゃぁ買い物行こうか」
「買い物? 何でこの格好で外出なきゃいけないんだよ」
「下着がまだっしょ」
「そこまでさせるか!?」
すると今度は、別の無理難題を提案する。 やっぱり本気に取ったんじゃあるまいな。
「私のイメージに関わるし」
「トランクスだとはみ出したから、下は水着だぞ」
「何でそこまでスカート短くしてんの。ていうか水着も赤じゃん」
「お前赤だって持ってるだろ」
「柄は赤だけど、ベースはピンクじゃん」
「形際どいけどな」
「そうかな? 形は水色のやつの方がアブなくない?」
「ところでミーヤ鼻血大丈夫?」
「だ、大丈ふ」
意外と大丈夫じゃなかった。 冗談のつもりだったのに。
鼻を押さえるミーヤに小首を傾げた後、綾菜が言葉を続ける。
「それはともかく、人ごみに紛れておいたほうが良いと思うのさ」
「まぁ、それはそうだな」
「盗聴器だって、一個とは限らないし」
「おう、真っ当な意見だ」
普段なら絶対にお断りなのだが、今回は女装自体がこいつを守る為のものである訳で。
一緒に買い物って言うぐらいだから、この格好なら同行を認めるということだろう。
「……分かったよ。その代わり外で誰かにバレたら」
コホンと咳をし、指を組み、さりげなく膝を曲げ、顎を引き、俺はミーヤに上目遣いの潤んだ視線を向ける。
「お嫁に貰ってね」
顔は綾菜にそっくりだ。これで落ちないミーヤはおるまい。
「ヤダ」
が、彼女は幼児のようにシンプルに答え、ミーヤは居間から出て行ってしまう。
仕方ないので横にいる綾菜に同じような笑顔を送る。
「一人で生きて」
こちらは、目も合わせずとっとと出て行ってしまった。
『私達も』『もらってはあげないわよ』
双子が出てき、人が提案もしていない話を却下する。
「期待してねーよ」
言い返すと、俺はスカートが翻るのも省みず、大股で二人を追いかけた。