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貴族のボンクラ長男に転生したスレ主は、生存したい  作者: ハチミツレモン


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昔お世話になった人達と食事した話5

「あ、やっと会えたー」


冒険者ギルドに登録し、冒険者として活動を始めてさらに数日が経過した頃。

今日も今日とて、屋敷を抜け出しクエストを受注しにきた俺に、そんな声が掛けられた。

エルだった。


ザワっと、一瞬だけギルド内がザワついて静かになる。

同年代前後の、主に男性冒険者たちの視線がこちらへ集まる。

そのことに俺は首を傾げたが、エルは気にもとめていないようだ。


「あ、エル。おはよう。

いや、時間的にはこんにちは、かな?

なんか用?」


「おはよー、リアム。

そうそう、用事!

あのさ、暇な日ある??

おじいちゃんとおばあちゃんに、リアムのこと話したら是非会いたいって言っててね!

どうせなら一緒にご飯食べたいね、って話になってさ。

だから、予定調整したくて」


一気にまくし立てられる。

お、おう、そうか。

機会、来ちゃった。


またしても、周囲がザワザワする。


食事って?

え、あの新人、エルちゃんと知り合いなの??

しかも一緒に食事をする仲ってことは、そういうこと??

家族と一緒に食事をするってことは、そういうことなんじゃないの??

でも、新人じゃん。

なんなんアイツ。


漏れ聞こえてくる声は、興味津々なものから憎しみを孕んだものまで様々だ。

まあ、エルは美人さんだもんな。

好意を寄せられていても不思議じゃない。

この憎しみを孕んだ視線は、嫉妬もあるんだろうな。


なによ、その女!!

ならぬ、

誰だその男!!


と言ったところか。

勘違いしないでくださいねー。

ただの幼なじみですよー、俺ら。


と、そこで受付さんが会話に入り込んできた。


「お二人は知り合いだったんですか??」


周囲が耳をそばだてる。


「あー、その」


幼なじみです、と言おうとした俺よりも先にエルが言った。


「そうなんですよー。

幼なじみで。

子供の頃よく遊んでたんです。

まさか、同じ冒険者になってるなんて知らなくて。

この前たまたま会って、驚いちゃいました」


慣れてるなー。

受付さんも、


「そうなんですねー」


と、それだけ返してとくに追求してこなかった。

根掘り葉掘り聞かれるのは、前世から苦手だ。

特に、一定の年齢より上の世代はコミュニケーションのひとつとしてズケズケ聞いてくる人が多かった。

とくに苦手だった。

それを思い出してつい身構えてしまったが、杞憂に終わって良かった。


「それじゃ、リアムさん。

お仕事のほうよろしくお願いします」


「あ、はい」


受付さんはすぐに別の人の対応へ回った。

俺は、それでも突き刺さる周囲の視線から逃げるように冒険者ギルドを出た。

こういう注目のされ方は慣れていないし、そもそも苦手だ。


「はぁ」


建物を出て、息を吐き出す。


「それでいつにする??」


おわっ!

びっくりした!!


横からエルが言ってきたのだ。


「そ、そんなに、おどろくこと??」


俺の反応に、エルが目を丸くする。


「ご、ごめん、不意打ちすぎてびっくりしちゃって」


「ごめんごめん。

そんなつもり無かったの。

それで、食事会いつにする??」


「あ、あー、うん。

そう、だね。

いつにしようか」


「今週中なら、私やおじいちゃん達の予定は空いてるけど。

リアムの予定は?」


「俺も週末は、とくに予定ないし。

食事会、週末でいいか?」


「うん、いいよ」


そうして、今週末のお昼ご飯をエルの家で食べることとなったのだった。


「あ、そうだ。

私、今日暇なんだよね。

お仕事、手伝おうか??」


「え、いやさすがにそれは」


「いいからいいから、遠慮しないで。

これでも私、Cランク冒険者なんだよ。

いろいろ教えてあげられるし」


「あ、いや、それは」


「ね?

久しぶりにあったんだし、お姉さん風というか先輩風くらい吹かせてよ」


「わ、わかった。

よろしくお願いします」


事実として、俺は基本ボロが出ないようにソロ活動をしている。

聞けば、彼女もソロ活動をしているとのこと。

先達者としていろいろ教えてもらえるなら、それに越したことはない、と考えたのだ。


意外と彼女の押しが強くて、負けたわけでは決してない。


「なに、あらたまって。

リアムってばおもしろいなー。

うん!

こちらこそ、よろしくね!」



ちなみに、今回受けたのも討伐クエストである。

スライム討伐に加え、【一角兎(アルミラージ)】討伐だ。

なんでも、最近大量繁殖したらしく近隣の人参を栽培している農家から依頼が出されているということだった。


魔核と一緒にドロップする、【ウサギ肉】と【角】も回収して提出することになっていた。


「あー、シチューに入れると美味しいんだよねぇ」


そうなのか。


「あ、そういえばリアムってお昼ご飯どうしてるの??」


「弁当もってきてる」


「そうなんだ、作るの大変じゃない??

あ、お手伝いさんにつくってもらってるとか?」


思い浮かんだのは、ルキウスの顔だ。

お手伝いさんでは無く、騎士なのだが。


「まぁ、そんなとこ」


嘘では無い。

しかし、よくよく考えると不思議だ。

どうやってルキウスは使用人たちを説き伏せて、俺の食事を用意させているのだろう??

あの顔立ちだから、それを武器に丸め込んだとか?

それだとハニートラップみたいなものか。

あいつがそんなことをするなど想像もできない。


そうなると自分が食べるため、とか嘘も方便をつかってるとか??

これかな。


なぜなら、今まで一度も弁当に毒が混ぜられたことがないのだ。

作っているのはおそらく厨房だろう。

そこに詰めているシェフ達か、弁当を詰める係のメイドどちらかに俺のことが伝わっていたら確実に毒が入っているはずだからだ。


まぁ、お陰で安全な食事をとれているから良しとしよう。

しかし、医者に怒られたことから責任をいろいろ感じて世話をやいていて本当に大丈夫なのだろうか。

これで子爵夫妻やリュカの反感でも買ったら、ガチで今後の人生に響く。


おそらくまだ知られていないのだろう。


毒の心配のない食事は有難い。

でも、なんとかお金を稼げるようになりつつあるし、そろそろ本気でルキウスによる食事の提供は辞めさせなければならない。


その方法も考えなければ。


やることが何気に多すぎる。



それから俺は、エルの実践を伴った講義を受けつつ討伐クエストをすすめていった。

スライムの方はすでに目標数を討伐し終えていて、残るは一角兎を数匹だ。


「あ、そろそろお昼だね」


というエルの言葉で一旦休憩をとることにした。

ここでハタと気づく。


「そういえば、エルのお昼は??」


「干し肉ー」


おいおいおい、たしかに色々急だったから分からんでもない。

しかし、これは俺にしてみればチャンスだった。


「あ、あー、一緒に弁当たべてくれるか??」


「え、いや、いいよ。

それはリアムのお弁当だし。

私のことは気にしないで」


エルの言葉の途中で、俺は弁当を取り出して見せた。

重箱である。

三段の重箱である。


「……なにこれ?」


「弁当」


「え、もしかして私が一緒に着いてくることを見越してた、とか??」


ドン引きしつつエルが俺の顔を見ながら確認してくる。


「まさか」


俺は持参していた、レジャーシート代わりのボロ布を敷いて、そこに重箱を広げてみせた。


「俺があまりにも痩せてるからって、太らせたいらしい」


「……それ、最終的に釜戸で焼いて食べられちゃうやつじゃない?

リアムを太らせたい人って、悪い魔女だったりする??」


「それこそまさか、だよ。

いつもは、なんとか全部食べてるんだ。

残すのも悪いから」


これも本音だ。

せっかく用意してもらったものを残すのは、前世の俺が許せなかったのだ。

だからいつもはなんとか食べきっていた。


しかし今日は、エルがいる。

たまには、こういう事があってもいいだろう。


「じゃあ、せっかくの申し出だし甘えちゃおっかなぁ」


「ありがとう、ほんと助かるよ」


それから二人で弁当を平らげた。

食べている時に、エルが指摘した。


「野菜、多いね。

あと、卵焼きにハンバーグにナポリタン……あ、この肉の揚げ物といい、これ全部、リアムの大好物じゃない?

ばあちゃんによく頼んで作ってもらってたでしょ」


「そういえば、そうだったかも」


まぁ、ルキウスにはその辺把握されてるからなぁ。


「よかったー、優しいお手伝いさんがちゃんといてくれたんだね。

ほら、子爵家の人達ってリアムに対してほら、厳しかったから」


かなりオブラートに包んだ言い方だ。

否定はしない。


「味付けも、リアムの好みどおりの少し甘めになってるね」


そうなのか、それは気づかなかった。

美味しいなーとは思っていたけれど。


そんなこんなで昼食を終えて、ノルマをこなした。

それから冒険者ギルドへの報告を済ませて、報酬をもらい、エルとは別れた。


やはり視線が痛かったが、知らんぷりをした。

それが悪かったのか、はたまた予め計画していたのかはわからない。

ただ冒険者ギルドを出ると、俺は尾行されてしまった。


美人さんのエルと仲良さそうにしていたのが気に食わなかった人物たちが複数人いた。

尾行してきたのは、おそらくそういう人たちだ。

リンチに合うのはゴメンだったので、なんとか撒いた。

そうして屋敷に戻った時にはすでに日が暮れていて、夕食の時間となっていた。


夕食も用意してくれた弁当だ。


食べ終わる頃を見計らって、ルキウスが弁当を片付けに来てくれる。


小屋が見えてきた。

と、小屋の戸が開いた。


(は?)


思わず近くの木の影へ隠れてしまう。

小屋から出てきたのは、下男らしき少年だった。

よくよく見れば、小屋の外にはメイドの姿もある。

二人はなにやら言葉を交わし、楽しそうに去っていった。


「なんだったんだ??」


今までにない事だ。

俺は、完全に2人の姿が消えるのを待って小屋に戻った。


小屋の中はとくに変わってはいなかった。

変わっていたのは、弁当を置いた位置である。


昼間と同じ重箱。

ただ中身は少し違っている。

それは、いつものことだ。

重箱は持ち運びしやすいように、布で包んで持ち手を縛ってある。

その縛り方が違っていた。


「弁当に細工されたか」


はぁ。

ということは、毒を盛られた可能性がたかい。


重箱を広げてみる。

見た目には変わったところはない。

臭いも正常だ。

ひとつ、試しに摘んでたべてみた。


ゆっくり味わう。


あー、盛られてるなー。

飲み込む訳にはいかない。

吐き出そうとした瞬間、ルキウスが現れた。


「おや、すみません。

食事の最中でしたか」


うっわ、まじかお前。

このタイミングでくるか、お前。

さすがに目の前で口の中のものを吐き出すわけにもいかない。


いや、それが正解だとはわかっている。

吐き出すのが正解なのだ。

でも、できなかった。

これは、リアムの判断なのか、俺の判断なのかわからない。

でも、できなかったのだ。


――優しいお手伝いさんがちゃんといてくれたんだね――


そんな、エルの言葉を思い出したから。

我ながら馬鹿だと思う。

他人の気遣いより、まずは自分のことだ。

だから、俺がここでするのはきっと食べていたものを吐き出すことだった。


でも、できなかったのだ。


ごくん、と俺は口の中にあった物を飲み込んだ。


「あ、あぁ、まぁな。

すぐに食べるから、待っててくれ」


俺はすぐに弁当をかきこむようにして平らげた。

いつもの食べ方ではあった。

だからか、ルキウスはとくに不審に思うことなく弁当を片付けて持って行ってくれた。


ルキウスが小屋から去り、見えなくなったのを確認した直後、吐き気が込み上げてきた。

あわてて小屋から出て、裏手に回る。


オゥろろろろろろロロロロ!!!!

ゲェゲェゲェ、ごほっ!!


俺は、たった今食べた物を吐き出した。

なんで食べ物にこんなことするかなぁ。


いや、リアムに対してか。

食べ物に罪はない。

リアムを害する道具にされてるだけだ。


※※※


さて、そんなこんなで週末である。

さすがにこの日、俺には用意すべきものがあった。

胃薬だ。

あと、手土産。

ルキウスにはなにも話せない。

つまり、昼は幼なじみの家で食べてくるから今日は要らない、と言えないのだ。

だから、俺は今日、朝、昼、昼、夕の計4回食事をしなければならないのだ。


さすがに胃が大変なことになる。

毒を盛られていなかったとしても、吐くことになりかねない。

俺は道具屋に駆け込んで、胃薬を手に入れた。

それを飲んでから、エルとの待ち合わせ場所へと向かった。

中央広場である。


そこでエルは待っていてくれた。

いつもの剣士の格好ではない。

上は白いブラウス、袖口にレースがあしらわれている。

下はロングスカートだ。

髪は束ねてまとめあげているし、化粧もしていた。


……気合い入れてきてる。

ごめんね、中身こんなおっさんで。


しかも、自宅での食事ってことでいつもの服で来ちゃったよ。

ほんと、ごめん。

いろいろ、ごめん。


と内心で謝りつつ、俺はエルに声をかけた。


「ごめん、遅くなった」


「ううん、時間ピッタリだよぉ」


と言いつつ、エルは俺の全身をそれとなく見て、一瞬、目が死んだ。

あ、こいつ、わかってねーなー、という目になった。


だからごめんって。

でも、これでこっちがなんとも思っていない、むしろ意識しなすぎの失礼野郎ということは伝わったかもしれない。


初恋と、これからの幸せな未来という幻想を打ち砕くには現実でみすぼらしい格好をするのが1番いい。


「じゃ、行こっか!」


そして、一瞬後にはいつも通りのエルだった。

俺はエルに案内されるまま、王都の中を歩き、彼女が祖父母といま住んでいる家にやってきた。

道中、手土産にと購入しておいた菓子の詰め合わせを渡す。

中央広場前にある店のものだ。


「ありがとー。

【綺羅星屋】のだ。

うれしい、ばあちゃんここのお菓子好きなんだー」


「それならよかった」


案内されたのは、小さな一軒家だった。


家族三人で暮らすにはちょうどいいのだと言う。

けれど、エルには少しだけ不満があるらしい。


「私としては、もう少しいい家に住んで欲しくて何度も引っ越そうって言ってるんだけど。

おばあちゃん達、この家を気に入っちゃってね。

ずっとここに住んでるの」


なにを気にいるかは人それぞれだ。

そしてエルの、もう少し住み心地のいい家で祖父母に余生を送ってほしいという考えも理解できる。


家の中へ招かれる。

そのまま、キッチンへと案内された。

テーブルに所狭しと料理が並べられている。

椅子に座っていた老夫婦が、こちらを見た。

昔のまま、何も変わらない老夫婦がそこにいた。


「じぃじ、ばぁば、お久しぶりです」


いや、ご無沙汰してます、の方が良かっただろうか。

まぁ、どちらでもいい。


「まぁ、坊ちゃん!

大きくなって!

さぁ、こちらへ」


ばぁばが椅子から立ち上がって、俺の方へ歩いて来ようとする。

じぃじもだ。


「立派になられましたなぁ、見違えましたぞ」


二人とも目を細めて、本当に嬉しそうだ。

来てよかった、と思った。

それから俺は、積もる話をいろいろして、食事を楽しんだ。

懐かしい。

あの頃の味、そのままだ。


食事を終え、お茶をいただく。

そのとき、じぃじが言ってきた。


「しかし、よぉ、お屋敷から出られましたね」


「あ、あー、まぁ、ね」


俺の様子から、すぐに察しが着いたのだろう。

じぃじは確信をもって、こういってきた。


「もしや、抜け道を見つけたのですかな?」


う、げほげほっ!

ビックリして変なとこに入った。


「当たりですか。

しかし、よぉ見つけられましたなぁ。

枯れ井戸の中の抜け道は、先々代ともう我々夫婦くらいしか知らなかったはずなのに」


「へ?」


「おや、違うのですか??」


どうしよう。

話すべきか?

……信用に足る人たちだと知っている。

エルも秘密を漏らすことは無いだろう。

エルは屋敷の連中が、俺に対してどう接していたのか知っているのだ。

そして、今日まで俺の外出は屋敷の者にバレていない。


「実は……」


俺は、今利用している抜け道について話した。

じぃじやばぁばは、楽しそうに俺の話を聞いてくれた。

エルはどこか呆れている。


「なるほどなるほど、そんな道があるとは、さすがにわかりませんなんだ」


ケラケラと実に楽しそうにわらってくれた。

いや、こっちとしては【枯れ井戸】のことが気になるんだけど。

ついでだ、聞いてみよう。


「あぁ、枯れ井戸は大戦中にお屋敷の主を逃がすため作られた抜け道の一つであり、通り道でもあったんです」


この国は何度か他の国と戦争をしている。

つまりは、その時に作られた抜け道なのだという。


「喋っていいの、それ??」


「……まぁ、時効でしょう。

さすがに王城内の抜け道については墓まで持ってく所存ですが。

長年手入れされていませんし、老朽化してるのでそろそろ寿命で使えなくなる可能性が高いかと」


よくもまぁ、そこを見つけて使ったと思えたな。

まぁ、可能性なら無くはないってことで考えたのか。

と、納得しかけた所でばぁばが言った。


「何言ってるんですか。

老朽化を防ぐために、魔法を掛けてあるんでしょう。

空気も澱んだり、穢れが溜まったりしないよう魔法で工夫してあるんですよ。

私がかけたんですよ、お忘れですか?」


速報、ばぁばが凄腕魔法つかいだった件。

ばぁばが俺を見る。


「それにしても、ほんとうにご無事で安心しました。

風の噂で亡くなったと聞いていたので。

やはり、噂は噂ですねぇ」


やはり、リアムは死んだことにされていたようだ。


「あの、そのことなんだけど。

ばぁば達は、俺がなんで子爵夫妻や使用人から厳しくされてるか知ってる??」


この際なので、ダメ元で聞いてみた。

なにげに気になっていたのだ。

リアムの記憶では、少なくとも餓死を願われるようなことはしていなかったから。

二人は顔を見合せて、それから憐れむような目を向けてくる。

やがて、二人同時に首を横に振ったのだった。


しかし、いい情報が手に入った。

枯れ井戸についてだ。

枯れ井戸の抜け道が何処に通じているかは、聞きそびれてしまったが、リスクを冒して木登りするよりはいい。

近いうちにそこも探索してみようと決めた。

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