初クエスト行ったら、昔の知人とバッタリ会った話4
というわけで、改めて初クエストに挑戦だ。
目的は家出をしたあとの当面の生活費を貯めること。
いろいろ調べてみた結果、だいたい金貨二十枚、日本円換算で二十数万円程なのだが。
とりあえず、これだけあれば1ヶ月は一人でも贅沢さえしなければ暮らせるようだ。
そのため、目標は金貨二十枚である。
挑戦する初クエスト、【スライム討伐】の成功報酬は銅貨十枚。
だいたい千円前後となる。
少しお高めのランチが食べられるかどうかというところか。
と、簡単に計算してみたが手取りは違う。
ギルドの仲介料やら、税金の天引きやらで手取りは減ってしまうのだ。
今回の討伐報酬も、いろいろ引かれてしまうのでだいたい銅貨七、八枚が手取りとなるらしい。
「事前説明しないと、報酬を渡す時に暴れる方がいるので」
とは、受付さんの言葉だ。
サービス業の悲哀というか、なんかいろいろあるんだろうなぁ、という苦労が伝わってきて身につまされた。
新人ということで、いろいろ説明してくれたのは本当に有難かった。
とくに、スライムへ火魔法の攻撃は効果抜群とか。
討伐数は十体だけれど、それ以上を倒して魔核さえ持ち帰ってくれば、それに応じた報酬も追加でくれるということだった。
あれこれ差っ引かれるとはいえ、すこしでも稼ぎたい俺としてはありがたい話である。
「ま、俺が初級とはいえ火魔法が使えるから、このクエスト紹介してくれたんだろうな」
俺は目の前の草原をみた。
あっちでぷよぷよ、こっちでぷよぷよしたのが沢山いる。
スライムだ。
そして、俺とおなじような新人冒険者たちがスライムを倒しまくっている。
「えーっと、たしか他の人が攻撃してる魔物を横取りはしちゃいけないんだったな」
プチ家出をして、冒険者ギルドへ登録へ行った日。
そのまま、新人研修に参加させられた。
とはいえ、三十分ほど話を聞くだけだった。
冒険者として活動していくための基本中の基本、その説明だった。
それによると、他の人の獲物を横取りしない、とか。
ただし、助けを求められたらこの限りではない、とか。
狩場でほかの冒険者に出会ったら、戦闘中でない限りは挨拶を交わすとか。
出たゴミは持ち帰るとか、食事をしたあとはしっかり後始末をするとか。
なんというか普通といえば普通のことだった。
しかし、わざわざ新人研修まで開いて説明するということは、それなりに問題になっているんだろうと想像できた。
俺はなるべく人がいない場所をウロウロしつつ探した。
その際、何組かのパーティやソロ冒険者と出会った。
軽く挨拶をすると、向こうも返してくれた。
なかには、
「あ、新人さん?」
そう声を掛けてくれる人もいた。
女性だ。
ほかに連れている人はいないので、ソロ活動中の冒険者なのだろう。
リアムと同い年くらいかな。
二十歳前後に見える。
場馴れしている感があるから、俺のようなド新人ではないのはたしかだ。
そういえば、この【スライム討伐クエスト】含めた、いくつかの低級から中級魔物の討伐クエストは、中堅くらいのソロ活動冒険者にはそこそこの人気だとか。
きっと彼女もそういう類の冒険者なのだろう。
装備諸々から判断するに、剣士かな。
物凄く美しい人だ。
……騎士と剣士の違いってなんなんだろう??
そういえば、知らないな。
教えてエロい人、と脳内でやりつつ答える。
「はい」
「今日が初クエスト??」
「えぇ、まぁ」
興味津々に聞いてくる。
新人なんてそんな珍しくもないだろうに。
女性は俺をじーっと見ながら、首をコテンと傾げる。
「あの、失礼だとは思うんだけど聞いていいかな?」
「はい?」
「どこかで会ったこと、ない??」
なんだ、ナンパか??
これが逆ナンってやつか。
前世でもこんなこと無かったので、軽く驚いた。
「えっと……」
リアムの記憶を手繰る。
んー、???
いや、なんか引っかかるものはあった。
女性の顔に、どことなく見覚えがあるのだ。
でも、上手く思い出せない。
「すみません。
ちょっと、わからないです」
申し訳なさそうに言う。
しかし、リアムの知り合いなんて限られている。
そもそもこれまで屋敷を出たことなんて無いのだ。
きっと、女性の勘違いだろう。
俺のほうは、メイドか誰かを勘違いしているのかもしれない。
「そっか。
あ、そうだ。
名前!名前おしえて??
もしかしたら思い出すかも!!」
よほど、思い出せないのが気持ち悪いのかそう食い下がられてしまう。
まぁ、いっか。
どうせ消されている存在だ。
それで彼女の気が済むなら。
「リアムです」
「……リアム??
え、リアム??
ほんとに??
え、ちょちょちょ、待って。
ファミリーネームは??」
女性がかなり動揺している。
「あ、いや、それは」
さすがに子爵家の名前を出す訳にはいかない。
俺が言い渋っていると、女性はいきなり俺の手を握ってきた。
そして、言い放った。
「もしかして、フィエルテル??」
え。
「リアム・トール・フィエルテル、だったりする?
きみの名前??」
ちょちょちょ、怖いんだけど?!
なんで知ってるの??
「当たり??」
「あ、えっと、その」
「その反応、当たりだ!!
わたし、エルだよ!!
エリュシオン・カーティス!!
ほら!
一緒によく遊んだ!
覚えてない??」
そこで一気に記憶が蘇った。
理解する。
この女性は、かつて子爵家においてリアムに良くしてくれていた老夫婦の孫娘だ!!
「お、おぼえてる!
エルか?!
久しぶり!」
「えへへ、見違えた??」
「うん、なんていうか綺麗になってたから、全然わからなかった」
あ、容姿を無闇に褒めるのって、こっちの世界だとどうだったっけ?
マナー的な意味で。
「そ、そんな、綺麗だなんて。
初めていわれた」
嬉しそうにしているから、少なくとも彼女にとってはマナー違反ではなさそうだ。
不快になっていないならそれでいい。
「昔はとっても可愛くて妖精さんみたいだったけど、いまは女神様みたいに美しいよ」
これは、今までのリアムとしての言葉だ。
今の俺は、前世の俺と今までのリアムがいい感じに融合してるといった方が正しいか。
「もう!褒めすぎだよ!!
口が上手くなったね、リアム」
ニコニコとエルが言ってくる。
よしよし、これも不快に感じていないなら良しとしよう。
「でも、亡くなったって聞いてたから物凄くびっくりしちゃった。
元気で良かった。
あれ、でも子爵家のご子息なのに冒険者してるの??
なんで??」
当然の疑問をぶつけられてしまう。
「あ、あー、まぁいろいろあってね」
「ふーん??」
突っ込まれるだろうか、と身構えたがエルは意外とそれで納得してくれた。
「ま、そりゃそうだよね。
いろいろあるよね、お互い」
「そ、そういえば、じぃじとばぁばは元気??」
【じぃじ】と【ばぁば】とは、幼いリアムの面倒を見てくれた老夫婦のことだ。
リアムも、本当の祖父母のように懐いていたので、そのように呼んでいたのだ。
「うん、元気だよ。
元気過ぎるくらい。
もう歳だから、大人しくしてほしいんだけどねぇ」
二人ともご存命らしい。
なんとなくホッとしてしまう。
「ねぇ、今度うちに遊びに来なよ。
二人の顔を見に来てほしい。
二人とも絶対喜ぶから」
「そうさせてもらうよ。
俺も二人に会いたいし」
これもリアムの本心だ。
本当の家族のように老夫婦や、目の前のエルが接してくれたからこそ、リアムは心折れることなく生きてこれたのだ、と実感している。
淡い希望だったが、彼はいつかまた彼女達と再会することを夢見ていたのだ。
と、そこでエルがモジモジと指を合わせてつつ聞いてきた。
「そ、そういえば、約束覚えてる??」
「……約束?」
不意打ち過ぎて、なんのことかわからない。
リアムは彼女となにか約束をしていたらしい。
しかし、俺の反応に少し残念そうにしながらエルは慌てて返す。
「あ、覚えてないならいいの!
気にしないで!」
「いや、気になるんだけど」
「こ、子供の頃の約束だから!
大したことじゃないから、ほんと」
そう言われると余計に気になってしまう。
「そ、そんなことより、ほら!
初クエストなんでしょ?
頑張ってね!!
応援してるから!」
「うん、ありがとう」
そうして、エルとの会話は終わった。
俺は彼女に見送られ、改めてスライム討伐をする為に歩を進めたのだった。
その後、無事に俺はスライムを討伐した。
新人だし、魔法の扱いも初心者、その上戦闘経験も皆無だったから数日はかかると思っていた。
しかし、蓋を開けてみたら意外と簡単にクエストを終えられた。
そのため、魔法の練習も兼ねてもう五匹討伐して、この日は終わった。
冒険者ギルドで、事前に説明があった魔核を提出し、諸々天引きされた報酬をもらって帰宅した。
その際、ステータスを確認してみた。
――――――
○名前:リアム・トール・フィエルテル
○レベル:10
○状態:ふつう
○技能:[毒耐性][初級火魔法]
○特殊:[異世界交流]
○備考:食事はよく味わって食べれば、毒かどうかわかります
【次へ】
――――――
ん?
なんだこれ?
【次へ】??
俺は【次へ】という表示に触れてみた。
文字通り、次のページへ移動した。
おお、増えてる。
そこにはこう表記されていた。
――――――
スキルポイントが付与されています。
振り分けますか??
スキルポイント:25P
【はい】【いいえ】
――――――
あ、これでスキルのレベルを上げていくわけね。
で、強くしていくと。
これは原作にはなかった要素だ。
よりゲームっぽくなっている。
この際なので、ステータス画面をよくよく観察してみた。
隅に小さく歯車のアイコンを見つけた。
前世では設定のマークだった。
すると、こちらでも同じらしく諸々の設定や説明の欄が現れた。
「お、こりゃ便利だ」
とりあえずスキルポイントの説明を見つけて、目を通した。
スキルポイントを各スキルへ割り振ることで、スキルを成長させ強化できるらしい。
ふむ、だいたいよくあるゲームと同じだな。
スキルをレベルアップさせ進化させることで、スキルの名称も変わるらしい。
なるほどなるほど。
……ポイントの振り分けはもうちょい、レベルを上げてからでいいか。
ポイントももう少し貯めておきたい。
ついでにスキルについての説明もあったので、読んでおく。
ふむふむ。
レベルアップで覚えるスキルと、【スキルブック】なるアイテムを購入して覚えることができるスキルがあるらしい。
まだ俺はレベルアップでスキルを覚えていないから、これからか。
だいたいは、こんなとこか。
どうせなら毒消しとか、回復系のスキルを覚えたいところだ。
とりあえず、屋敷に帰ってきた。
あの抜け道は、子爵家の連中にはやはり把握されていないらしい。
危ないな、と思う反面、俺には都合が良すぎるのでこのまま使っていこうと決めた。
初報酬の銅貨十二枚(諸々天引きされた上での手取り)は、持ち帰って隠した。
それから、ルキウスが食事後に持ってきたお湯とタオルで体を拭いて、着替えて寝たのだが。
リラックスしている時に、いい思い出や黒歴史をふと思い出すことがある。
このとき、俺は思い出した。
エルが口にした【約束】のことだ。
『大人になったら、結婚しようね。
そしたら、もうサヨナラしなくていいんだって。
だから、約束だよ。
大人になったら、私がリアムのことお嫁さんにするからね!』
老夫婦が解雇されて、小屋を出る日。
彼女は泣きながら、そう言ってきたのだ。
「……これかぁぁあ!!」
子供の頃の他愛ない約束。
こそばゆい思い出だ。
しかし、それに浸ることなく、俺はその記憶にツッコミを入れてしまった。
「リアムが嫁かい!!」
ほかに約束した記憶が無いので、たぶん十中八九、エルの言っていた約束とはこのことだろう。
反応諸々からして、絶対そうだ。
け、健気すぎる。
そして、前のリアムもエルのことを好きだった。
リアムにとって、おそらく初恋だったはずだ。
いやぁ、幼い初恋っていいねぇ。
甘酸っぱくて、見てる方が照れてしまうあの感じ。
……え、いやこれまずくね。
リアムとしては、エルとの再会はとても喜ばしいものだ。
あの頃の続きが始まる、というある意味希望に満ちた再会だ。
しかし、俺からすると大変アレな話である。
あくまで今の俺は、前世部分が強い。
リアム部分より、前世の人格の方が影響面で強いというか大きいのだ。
物語なら、面倒事をサクサク片付けてエルとの交際を、なんて流れになるところだ。
しかし、である。
俺は前世では四十路近くのおっさんだった。
若い嫁入り前の娘に手を出すとか、出来ない。
据え膳食わぬは男の恥??
知るか!!
二十歳前後の小娘に手が出せるか!!
むしろ、前世の知識とか経験とか人格に引っ張られてるからリスクしか感じない。
世界が違うのだから、常識が違うというのは重々承知している。
その上で、憎からず今でもリアムのことを慕ってくれている相手と交流する度胸は、俺にはない。
感覚としてはアレだ、自分の娘に手を出すようなものだ。
いや、娘いなかったけど。
そして、そんな悍ましいこと考えたこともなかった。
物の例えだ。
でも、かなり早めに結婚して子供つくってれば、前世でも二十歳前後の子供がいても不思議じゃない年齢だったんだ。
いやいや、人との出会いは一期一会だ。
向こうはたしかに幼い心とか、思い出とかあったからあの反応だったはず。
そして、期待もあったのだろうと思う。
あの頃の続き、恋心の続きができるかも、という期待。
約束を覚えているか、という確認がそれを示している。
勘違いかって??
いやいや、そんなわけは無い。
これでも無駄に人生を過ごした経験があるのだ。
今の俺は、彼女の期待に応えることは永遠にできない。
何故なら、今の俺は精神的な面と経験値的な意味では、すでに薹が立っている草臥れた人間なのだから。
「まぁ、でもまた顔を合わせるなんてそうそうある訳ないか」
考え直してみた結果、その答えに行き着いた。
今日だって、冒険者ギルドでまた顔を合わせるかもとか考えていたがそんなことはなかった。
同じ地区、同じスーパーを利用していればエンカウント率は上がるが、毎日顔を合わせるわけではないのと一緒だ。
彼女の祖父母には会いたいのも事実だが、まぁ、それは機会があればだ。
「さて、明日もまた頑張ろ」
なにはともあれ、まずは金を稼ぐのが最優先だ。




