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プロローグ
防衛ライン第三区が破られたのは、日付が変わった直後だった。
増援に入った機甲兵は次々と沈み、残ったのはカイルだけだった。
警告灯が一斉に灯り視界が赤に染まる。
夜気の中に投げ出される。
石畳を転がる。
一体の銃口がこちらを向いていた。
引き金にかかった指を、カイルは見た。
ここまでか、と思った。
その時だった。
花の香りがした。
冬の戦場には、あるはずのない香りだった。
――闇が裂けた。
跳ね上がる蹴りが腕を断ち割る。
骨が砕ける音。
次の一撃で巨体が宙を舞い、瓦礫へ叩きつけられた。
影はフードを目深に被り、口元はスカーフ。素顔は見えない。ただ、平坦な声だけが落ちてきた。
「下がってて」
言われるまま、後ずさる。影はもう次へ動いていた。
目で追えたのは、最後の一撃だけだ。
影は瓦礫の陰へ消えていく。
呼び止めようとして、声が出なかった。
後には、倒れた群れと、疑問だけが残った。
武装した感染者。
あの影。
夜の底が、ようやく白み始めていた。
花の香りだけが、記憶に残った。




