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Boys Kiss  作者: mimuka
12/29

演技のキス・2

 ―文化祭当日。

 控え室で、俺は彼と二人きりだった。

 すでに着替えを済ませ、後は本番を待つばかり。

 だけど…。

「カツラって重い…」

 腰まで伸びている長い髪のカツラをかぶせられ、俺はうなっていた。

「とってもキレイだよ。本当に奪っていきたいぐらい」

 女物の着物を着ている俺とは反対に、彼は男物の着物を着ていた。

 彼も長い髪のカツラをかぶっているけど、平気そうだ。

「あぁ…。本当にキレイだ」

 彼は俺をじっと見つめる。

 その熱っぽい視線がちょっと恥ずかしくて、俺は顔を背けた。

「あんまこっち見るな。どうせ舞台でイヤってほど見るだろ?」

「それも今日まで。明日になったら、着てくれないよね?」

「俺にはコスプレ趣味はないからな」

「もったいない」

 背後で彼が立ち上がった。

 そして後ろから抱き着いてくる。

「…じゃあ、二人きりの時なら良い?」

 耳元で熱い吐息を感じて、思わず身を小さくする。

「イヤだ…」

「なら、こっち向いてよ。眼に焼きつけといたい」

 コスプレを要求されるよりは、マシか。

 俺はゆっくりと振り返る。

「ああ…やっぱりキレイ。今日だけなんて、もったいないよ。本当に」

「お前、いい加減しつこいぞ?」

「うん、ゴメン。でも仕方ないよ。だってボクは…」

 頬にそえられるキレイな手。

 少し上を向かせられ、…重なる唇。

「キミの恋人なんだから」

「…どこで選択を間違えたんだろう?」

「ひどっ!?」

「だってそうとしか、思えないだろう?」

 同じ部活で、同じ歳で、しかも同じ性別…。

 いくら男子校だからって、恋人に同性を選ぶなんて…。

「でっでもボクは、今更別れる気なんてないからね!」

「大声出すな」

 声に怒気を含ませ、俺は軽く彼の頬を抓った。

「ひだっ」

「後悔は別にしてない。あの時、決めたのは俺自身だから」

 彼の俺を見る眼に、特別な感情が含まれていることに気付いたのは、この劇の練習をはじめてからだった。

 どこか熱っぽく、甘い感情。

 否定しようのない熱い感情に、俺は嫌悪を感じなかった。

 だから…受け入れた。

 彼の気持ちを。

「…ホラ、そろそろ本番始まるぞ」

「うっうん」

 そして幕は上がった―。

 劇場時間は一時間。

 講堂は立ち見までできるほど、満員。

 後は演技力にかかっている。

 脚本は部長が担当している。

 部長は俺や彼のことを良く理解してくれて、与えられた役もそう難しくは無い。

 だから自然に演じられるのが嬉しい。

 でも…演じている間にも、彼のことを考える。

 彼はいつも俺に、感情をぶつけて、愛情をくれる。

 俺もできる限りは返したいと思っている。

 彼を、愛しているから。

 でも演技はできるのに、本当の俺だとうまく相手に感情が伝わらない。

 それがもどかしい。

 彼だって、不安になっているだろう。

 どうやって伝えたら良いのか考えているうちに、ラストシーンになる。

 二人は国を捨て、親を捨て、全てを捨てて、添い遂げる為に逃げることを決めた。

 俺は彼と向かい合う。

 手を握り、俺は言った。

「―お慕い申し上げます」

「ええ、私も愛していますよ」

 そうして二人は熱い口付けを…するように見せることを、俺が決めた。

 でも…。

 近付く顔が、止まりそうになる。

 俺は目を閉じて、背伸びした。

「えっ…」

 一瞬だけど、確かに重なった唇。

「愛しています、貴方だけを」

 彼の眼を真っ直ぐに見て、伝えた。

「あっああ…! ボクも愛している!」

 彼は泣きそうな顔になって、思いっきり俺を抱き締めてきた。

 そして観客から沸きあがる。

 ああ…後が怖い。

 けれど彼の嬉しそうな顔が見られるなら、たまには…良いかな?



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