第16話 “魔法のUNO”
――《龍煌驛》の入り口。
「駅員さん! ちょっといいですか?」
「あ? なんだねキミは……ていうか私は駅員ではなく、ここを守る衛兵で……」
やや面倒くさそうに答える男性は、兜の隙間から見える白髪まじりの眉をぴくりと動かした。
タイガは再び、この場所に戻ってきたのだ。
「というかキミ、今日はあまりこの辺りをうろつかない方がいい。なんでも駅に襲撃者が現れたらしくてな……
昼頃見張りをしていた衛兵は全員病院送りさ……」
「へ~、大変ですね~」
ぶっきらぼうな口調ではあるが、その声音からは、少年への気遣いが感じられた。
まさか目の前の少年こそが〝その襲撃者〟だったなどとは露知らず、衛兵は忠告した。
「ところで、ここの機関車って次はいつ来ますか?」
「なんだ、キミもアレのファンか。まあ確かに凄かったからな……あんな巨大な鉄の塊が唸りながら動くなんて、そうそう見られない」
少しだけ表情をほころばせながら、衛兵は答えた。
「でも、残念だったな。ついさっき出発したばかりだ。次に戻ってくるのは……そうだな、まあ3日以上はかかるだろうな」
「ええ!? 3日!!?」
その言葉に、思わず大きな声を上げる。
「田舎のバスでも1日数本はあるのに……数日で1本って……!!」
「当たり前だろ? あんなもんがポンポン走るわけない」
「え~……どうしようかな……どうやって追いつこうか……」
頭を抱えるようにして唸り始める。
「……しょうがない。やっぱ〝地道〟に行くしかないか」
小さく呟くと、その青い瞳は線路の続く先を見据えた。
「諦めな、坊主。見ねえ顔だけど、近くの宿かどっかに泊まってるんだろ? 次の便まで大人しく――」
衛兵がちらりと視線を逸らした、その一瞬――
「――あれ?」
気づけば、タイガの姿は忽然と消えていた。
「……なんだよ、どこに行った?」
辺りを見渡しても、どこにも見当たらない。
「……まあ、大人しく帰ったんならいいか」
首をかしげながら、衛兵は再び持ち場へと視線を戻した――
◆ ◆ ◆
――列車の中。
豪華な中央車両。
その中でも、ひときわ上等な内装が施されたスペースで――
――猫耳の少女は、なぜか王国調査隊のトップたちと〝UNO〟をしていた。
(いや……なんでこんなメンツで遊ぶことになってんのにゃ……?)
彼女の目の前では、調査隊副隊長の玲玲が、巨体の隊長開守の膝に座っている。
少女の隣では、もうひとりの副隊長雲が静かに腰かけていた。
「UNOです」
雲が青いカードを卓上へ滑らせる。
カードが場に触れると、その表面を冷気が駆け抜けた。
そして彼の手元に残った最後の1枚が、ひとりでに指の間から抜け出した。
カードは彼の肩まで浮かび上がると、勝ち誇るように左右へ揺れる。
「無駄に凄い演出だにゃ……」
「大陸の東から取り寄せた遊戯用魔道具です。カードが自動でゲームの進行を管理し、反則を判定してくれるので――」
「じゃあ、ドロ2ネ」
玲玲が青いカードを叩きつける。
カードに描かれた「+2」の文字がぐにゃりと歪み、2匹の青い小鬼へ姿を変えた。
小鬼たちは甲高い笑い声を上げながら山札へ飛び込み、その内部へと潜っていく。
途端に、山札がひと回り大きく膨れた。
「重ねるぞ」
「それじゃあ、ミャーも……」
「んなッ!!?」
少女と開守も同じカードを出す。
まるで示し合わせたかのような連携攻撃。
合計6匹となった小鬼が山札の中で騒ぎ始め、膨れ上がったカードの束が、ゆっくりと雲の方を向いた。
「6枚ドロー!? あなた達、まさか裏で結託してるんじゃないです――」
山札が獣のように口を開いた。
直後、6枚のカードが矢のように撃ち出される。
「ぐはッ!!!?」
胸に6枚のカードを突き立てられた雲は、椅子に大きくのけぞった。
「うわ!!? ドロー食らったら、こんにゃことになるのか!!?」
「コレ〝旧型〟だから、ドローカードの衝撃調整が出来ないんだよネ」
「先に言えよ!!!」
「旧型でも子供用なら、くすぐったい程度なんだがな……こいつは枚数によって衝撃が強くなり、6枚ドローはかなり痛いぞ」
開守の言葉通り、そのカードの表面には青白い電流が走り、雲の身体を容赦なく震わせる。
「い……イカサマだ……わ、私をハメようと、3人で結託してたんだ……っ!!」
「人聞きの悪いこと言うなヨ」
「お前の人望だろう?」
「ぐはッ!!? 人が気にしてることを……!!!」
開守の一撃がトドメとなり、雲は白目をむいたまま、ぐったりと椅子に沈んだ。
(……なんか……ミャーだけ、場違い感半端ねェんだけど……)
苦い顔をしつつも、少女もちゃんとゲームには加わっていた。
「あ、UNOにゃ。うお!?」
場にカードを出した瞬間、その縁が赤色に染まり、周囲に熱気を放った。
そして最後のカードが浮かび上がり、彼女を応援する旗のように左右へはためいた。
「おー!! やるネ、ミーちゃん」
「ちょ……これ眩しすぎにゃいか?」
魔道具の派手な演出に、思わず顔をしかめる。
そんな少女とは対照的に、玲玲は手を叩いて喜んでいた。
「でも簡単には上がらせないネ! 色を黄色に変えるネ!!」
玲玲がカードを出すと、熱気が散った。
そして卓上に火花が弾け、出したカードからバチバチと小さな稲妻が放たれる。
「むう……」
唸りながら開守はパスをした。
山札からカードが放たれ、彼の手の中に綺麗に収まる。
さっきの乱暴な渡し方とは違う、魔道具による丁寧なカード捌きだ。
(普通に渡せるなら、全部そうしろよ……)
心の中で呆れる少女。
そんなことを思っていたら、雲はいつの間にか復活し、黄色のカードを1枚出して番を終えていた。
そして少女の番――
「あ、ラッキー。アガれる」
「ええェ!!? なんデェ!!?」
「あらら……どうやらさっきの色変えは、裏目になったようですね」
妨害しようとしていた玲玲だったが、それが逆に猫の少女のアガりを手伝う結果になってしまった。
場に最後のカードを出した瞬間――捨て札が一斉に跳ね上がった。
ワー!!! ワーワー!!!!
カード達は卓上に並ぶと、その端を器用に折り曲げて拍手を送り、歓声を上げる。
その中央から、最後に出した黄色のカードがゆっくりと浮かび上がる。
カードは少女の頭上で金色の王冠へと変わり、猫耳の間へすっぽりと収まった。
直後、4色の小さな精霊が飛び出し、ラッパを吹き鳴らす。
パッパラー!!
『YOU WIN!!!』
そして安い効果音と共に、少女の頭の上に「WINNER」の文字が表示される。
「……1位、おめでとうございます」
感情のこもっていない、雲からの祝いの言葉。
その冷たさが、明るい演出と相まって、場に何ともいえない気まずさを生み出す。
「にゃんか……勝ったのに恥ずかしいんだけど……」
「くー!! もう1回アル!!!」
「……うむ」
恥ずかしがる少女を他所に、悔しがりながら再戦を申し込む玲玲。
開守も静かにうなずいた。
戦いは何故か、過熱していった――
◆ ◆ ◆
「――そういや、あと何日で村に着くんだ?」
ゲームをしながらの雑談。
少女の問いに、隣に座る雲が答える。
「村の最寄りとなる、〝ラクシャマ王国〟の駅には明後日の朝には着く予定です。そこから村までは徒歩で半日ほどですから……まあ、2日後の今頃には村に到着するでしょう」
「え!? たった2日で着くの!!?」
彼女は目を丸くする。
「はあ~、すげ~にゃあ……この……〝機関車〟だっけ? ってやつは……あ、でも……」
ふと思い出す。
「そういや、〝冒険者試験〟って明日だったにゃ……」
「なんだ、ミーちゃん冒険者になりたいアルか?」
「……さっきから馴れ馴れしく呼ぶな……てかいつミャーの名前知ったんだ」
眉をひそめながらも、少女は続けた。
「……てか、ミャーはもう冒険者だよ」
「え!? そうだったのカ!!? そんなに若いのに凄いな~」
「いやいや……王国調査隊の副隊長様がよく言うよ。冒険者って言ったって、ミャーなんてまだ《E》ランクだし……」
少し自嘲を込めて呟く彼女に、開守が口を開く。
「なら今回のクエストが無事に終わったら、キミのランクアップを、私の方からギルドに申請しておいてやろう」
「え!!? そんにゃこと出来るのか!!? ……おミャー……どれだけ権力あるんだよ……」
「私の権力というより、今回の調査には、それだけの価値があるということだ」
(……今回の調査……〝勇者の装備〟……)
その言葉に、胸がざわつく。
「な、なあ……ぶっちゃけミャー、その〝勇者の装備〟っぽいものを見たのってすっごい小さい頃だったから……
もしかしたら、ただの見間違いだったかもしれないし、記憶も曖昧で……」
俯く彼女に、開守はきっぱりと断言した。
「それはない」
その声音には、揺るぎない確信があった。
「伝説の白い花――〝ブレイブフラワー〟。
それは〝勇者のペンダント〟が眠る地に咲くと言われている花だ」
「あの花が……装備のありか……」
ブレイブフラワーのことはよく覚えている……苦い思い出と共に……
「ホントにあの村に……〝勇者の装備〟が……」
その言葉をこぼす少女の瞳が、不安げに揺れる――
列車はなおも唸りを上げて、大地を切り裂くように走り続けていた――




