6
「わぁっ、壊滅的に……!!似合わない!!だが、それがいい!!!!!!」
私はここでスマホかカメラがあればバシャバシャとそれはもう遠慮なくシャッターを切り続けただろう。きっと今の私の目はキラキラと輝いているに違いない。
「これはなんともまぁ……珍妙な」
「令和の日本の業務用スーパーのカゴを持つ……推し!!!!!!」
明らかに日本人サイズの出入口にしょっぱな角の片方を引っかけながら、ソドムさんは困惑しつつ、私が出しだした買い物カゴを受け取る。
衣服も先ほどまで着ていたゴテゴテと装飾品の多い異世界情緒あふれる装いではなく、白地にちょうどいいサイズで「ごくつぶし」と描かれたTシャツ、ブランド感皆無のズボンに、なんとサンダル履きである。スタイルが良すぎるのでそんなラフすぎる格好でも、私の推しはランウェイを歩けるに違いない。
角の生えた明らかに変な外国人だが、それなりにいるスーパーの利用客はソドムさんを気に留める様子がない。まぁ、それは別にどうでもいいのだけれど。
楽しくなってはしゃぐ私をソドムさんは眺め、小首を傾げた。
「良いのか」
「何がです」
「ここは貴女の記憶をもとに私が作り出した仮の世界に過ぎない」
「仮想世界でもなんでも、パスタとトマト缶とウスターソースが手に入るならなんでもいいです」
「なるほど」
ソドムさんの作り出した世界のなんの問題があるのか。説明を聞いてみれば、仮想世界と言えども、きちんと物質が「ある」と認識できるそうだ。夢の中でパンケーキを食べても腹は膨れないが、小規模の「別の世界」を作り出しているという原理のソドムさんのこの世界で、その場で飲み食いすればきちんと「食べた」ことになるらしい。万能では?
異世界クッキング。
大変心の踊るテーマである。けれども私は料理人ではない。異世界グルメものの主人公たちは皆、料理人だったり料理が趣味で「普通そこまで知ってる?」というレベルで詳しかったりするのだが……生憎私は凡人だ。
目指すは例の泥棒一味が食べたスパゲッティなのだが、私は小麦から生パスタは作れないし、ウスターソースの代用品なんて全く思い浮かばない。トマト缶を生のトマトで代用したときにどんな弊害が起きるのか想像もつかない。
そこでソドムさん。創世の神獣さんのゴッドパワーが私には必要なのだ。
「あれです、あの、棚の上にある。赤い丸っぽい絵が描いてあるやつ……カットとホールの違い?わかりません……」
「なに、両方使ってみれば良いさ」
「赤ワインは一番安いやつで大丈夫です。ボジョレー……いえ、それはなんか、毎年味が違うらしいので、よくわからないからやめておきましょう。そのパック……四角い紙の素材のやつで」
「この中に酒が……なんとも奇妙なものよ……」
あれこれと、買い物に商品を入れていく私とソドムさん。
いくら私でも、多分トマトソースベースのミートボールスパゲティくらいなら作れる、はず。
……正直、レトルトコーナーの、既製品のミートソースに手を伸ばしたくて仕方ないが……いや、念のため……買っておいて、私のブツが失敗したら……これを…………いやいやいや……カリオストロの舞台にカ〇メのトマトソースはない。再現料理ではなくなる。断腸の思いで私は既製品から目を逸らした。ちらっと見えた、ボロネーゼとミートソース、え、違うの?と何か嫌な予感がしたが……。
さて、某世界的に有名な泥棒の三世が大活躍するアニメーション映画。
その中で色々な食べ物が出てきているのだが、印象的なのは長い麺に丸い肉団子が入ったミートボールスパゲティではないだろうか。例の映画を一度観たきり、という人はよくこのスパゲッティの登場シーンを、泥棒さんがお姫様との脱出に失敗して傷を負った後、回復した時に全力で食べていると記憶違いを起こすのだが、正確には物語のかなり序盤で食べている。映画監督が後のジ〇リの例のおじさんであるので、食べ物のシーンに気合が入っているのは当然だと私の前世の日本人は知った当時に納得したものだ。
「お会計はこのカード……硬い薄い板を出してください」
「ここは私の作り出した世界なのだが?」
「お金を払わないと泥棒ですが?」
レジに人がいて、清算できるのだからお支払いをするべきでは??
私が子供らしい猫のポーチから取り出したお財布は、子供が持つには少し大人っぽすぎる、まぁ、私の前世の日本人が使っていた20代の女性向けのデザインだ。仕事かものを読むかという生活だった私の前世、預金はそれなりにある。口座から自動引き落としになるカードはとても便利だね!
「……甲斐性のない男と思わないだろうか」
「この世界を作るくらいじゃ足らない甲斐性ってどれくらいの規模を想定されているのでしょうか」
お会計が終わったので私は猫のポーチからエコバッグを取り出し……なんでも入ってるな、このポーチ。まぁとにかく、買ったものを入れていく。ソドムさんも手伝ってくれたが、ははは、買い物をしたことがない男性の、入れ方、あまりに無造作。ビニールに入れていない肉の上にトマト缶を置く。その上にさらに玉ねぎを置く。ウフフフフ。いや、善意だ。善意で行ってくれている。私はラップの耐久性を信じることにした。
前作でヒロインを騙くらかそうとした仮想空間がネットッスーパー扱いに。