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騙されてはいけない。
一見すると、前者の方が救いがなく、後者は生存フラグがあるように感じるかもしれない。
だが!私は!騙されない!!
よく考えて見るといい。
前者は「自力で立てない」だけだ。
ただし後者は願いを叶えなければならない。叶えられなければどうなるか。――おそらく死だ。間違いない。アゼルさんを騙った、いや、別に騙ってはいないが、まぁ、とにかく。ソドムさんにとって大切な思い出の女性ではないことが確定した私を生かしておくだろうか。
自力で立てない、つまり、脚の健を切られるとか、赤い靴を履くハメになるとかそういうことだろう。死ななきゃ安い、という言葉もある。
ソドムさんはというと、私がどちらを選ぶのかをにこにこと眺めている。どちらでも楽しめるという自信があるのだろう。なんということだ。私は考えを改めた。元々死ぬ覚悟はできていた。と、いうことは、折角なのでこの命を推しの笑顔のために使い潰すのも一つだろうか。と、そんな考えさえ浮かんでくる。
「ちなみに、参考までに聞いてみたいのですが」
「うん?なんだ」
「前者の場合、止血とかはしていただけるんでしょうか」
「血……?あぁ、確かに。出るやもしれんな。だが前者の場合、私もそう気の短い男ではない。貴女の薄い腹を突き破らぬように、あと4、5年は待つさ」
なんだかよくわからないが、前者の場合は余命が伸びるらしい。けれど四年後か五年後にどうやら腹を食い破られるようなので、その時をガタガタ震えながらカウントする余生は嫌だ。いくら推しの笑顔のためでも、私の苦しみが長く続きそうなやつはだめだ。
……と、なると。
「後者の場合、願い事というのは、私が考えてもいいのでしょうか」
「……なんと?」
はい、と私は手を上げて提案する。
「ようはサプライズプレゼントです。願い事というのは確かに、自分が確実に嬉しいプレゼントフォーミーでしょう。けれど、ソドムさんは自分が予想できる相手からの贈り物と、私がソドムさんのことを考えて「これは喜ぶだろう!」と選ぶ贈り物のどちらが、おもしろいでしょうか」
目的が若干ことなるので私は心配ではあったが、ここが踏ん張りどころだとぐっと、腹に力を入れる。
最初のソドムさんの提案だと、取るに足らない羽虫以下のゴミクズな弱い存在である私が、神獣ソドムさんの願いを叶えることができるのかと、上から眺めて面白がるような。たとえば蟻を迷路に入れて、ゴールまでさぁ、たどり着いて見せろと揶揄って遊ぶようなもの。
けれども私の提案は、テーブルについたソドムさんの後ろから、わっと声をかけて、そのテーブルの上に大きなプレゼントの箱を置く。謎というリボンで包んで、それを解く楽しみがある。
「…………貴女が、私に贈り物を用意すると?」
「そうです!」
かなり長い間、ソドムさんが考え込んだ。
尻尾はその間、なんだかぶんぶんと動いている。先ほどのような全力で不快・不機嫌という感じではない。なんだかこう、そわそわと……楽しい……いや、嬉しそう?いいやまさか、それは気のせいだろう。
「よし、ではそれを頂くことにしよう」
「わっ!」
ぐいっと、急に視界が高くなった。やたら上機嫌なソドムさんが私を抱き上げる。鼻歌でも歌い出しそうなほど、大変……嬉しそうだ。推しの幸福そうなご様子に私も嬉しくなる。だが、ここで油断してはいけない。
「しかし、その体以外に何一つ持たない貴女が、いったい何を贈るというのか」
「あ、はい。それにはお願いがあるんですけど」
「金か?贈り物を購入する資金が必要だと言うのなら好きなだけ求めるといい」
「買った物をそのまま贈るというのもそれはそれでありですが、そういうことでソドムさんが嬉しいかと考えると」
違うだろう、と私は頷いた。
それで、頭の中に必要な道具やらなにやらをあれこれ思い浮かべて、それをこそこそと、ソドムさんの耳元に伝える。
「あの、食べて見たくないですか。泥棒一味が、作戦会議している時に食べていたミートボールパスタ」
Q、本当に初対面なんですか?
→ A、ソドムさんは違うんじゃないですかねぇ。