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「ははは、誠にすまない。申し訳なかったな。つい私としたことが悋気を起こしてしまった」


 ぱくぱくと、私がお皿に山盛りにしたどら焼き(っぽいもの)を召し上がるソドムさんはとても機嫌が良い。

 説明した内容としては、モノリスさんが料理ができるということで、私がソドムさんに良い物を食べて頂きたいと思い、弟子入りを頼んだと、まぁ、その通りの事実をお伝えした。

 すると、どこかがソドムさんの機嫌を良くする要素があったらしく、多分美味しい料理を食べられるようになるという部分だろうが、私を放してくれて、いつの間にか壁に叩きつけられていたモノリスさんを笑顔で引き起こした。

 そうしてモノリスさんが「志半ばで滅びるよりはマシ」と呟きながら私にレッツクッキングの手ほどきをしてくれて、なんとかかんとか、無事に出来ました。どら焼き、っぽいもの。


 生クリームではなく、クリームチーズを餡子に混ぜて、クリーミー&和風の甘さが絶妙だと、私も一つ食べて感動した。

 もちろんこれは青い猫型ロボットの好んだブツとは少し異なるが、美味しいものに変わりはない。どら焼きっぽい美味しい物を食べることは出来たのだからそれでよいだろう、多分。


 大皿のどら焼きを平らげて、にこにことソドムさんは機嫌よく私を当たり前のように自分の膝の上に乗せてきた。うん、硬い太ももで大変座り心地が悪い。膝よりモノリスさんが用意してくれたふかふかのクッションのある椅子の方が良いのだが、腰にしっかりとソドムさんの尻尾が巻き付いているので逃げられない。


「宝砂殿、これは貴女へ土産だ。良い菓子の礼になればよいのだが」

「……?」


 しゃらり、と私の首に……かなりの重さのネックレスがかけられる。

 こ、子供の首につけるようなものじゃない……。


 大粒の赤真珠のネックレスだ。

 といって、真珠が連なっているよく私の前世の冠婚葬祭の定番アクセサリー、のようなものではない。大きな赤真珠を引き立てるよう飾り細工が施され、ジャラジャラと揺れると音がする。


「あの……これは、困ります」

「うん?」

「子供がつけるようなものじゃないですし」

「だがこれは貴女のものなのだ。よく似合っている。残りはあと五つ、金、銀、瑪瑙、瑠璃、硨磲だが、いずれも貴女に似合うだろう」


 あ、また違和感。


 私の心の中にモヤっとするものがあった。


 ……さて、冷静に考えてみたい。


 漫画やアニメ、物語で例えばヤクザやマフィア、スパイモノなどの登場人物を「カッコイイ!」「ステキ!」と憧れたり好きになったりする感情、これは推しを想う心のようなものだろう。

 

 けれど実際、本当に、現実的にヤクザとお知り合いになりたいか?ヤクザがフィクションで美化されていて、ちょっとワイルド!なんてキャーキャー言えたとしても、それはそれとして、実際に、自分の日常生活にお招きしたいか。答えはNOだ。

 少女漫画でちょっと強引な俺様タイプに黄色い声を上げゴロゴロとベッドの上をのたうちまわりながらも、実際はこちらの意見や考えをシカトして強引にことを進めるような輩は死ねと思う。恋人にするなど論外だ。パワハラ、DV予備軍にしか見えない。


 私は神獣ソドムというキャラクターを推していて、物語の中で彼がアゼルさんに向けていた感情を一人考えては物思いに耽った。

 けれど、今目の前で、ソドムさんがソドムさんとして行動しているのを見て、私が感じるのは「嫌」という感情だ。


 私はよくわからないアクセサリーを、私の趣味かどうかも確認せずに送り付けてくる人は嫌だし、そもそも、私の意見を聞いているようで聞いていないような人は論外なのだ。


 私は神獣ソドムというキャラクターを、ソドムさんだと思っていて、そして、ソドムさんが私に近い距離にいて、そのご自分の考え通りの振る舞いをすることに対して、好意的に見れていない。


 これはなんて、身勝手なんだろうか。


 私は自分で自分が嫌になった。


 例えば「神獣ソドムは少女を抱き上げて微笑んだりしない」などと解釈違いを起こしているなら、それはそれでタチが悪いが、けれど今の私も似たようなものだ。


 私は私を後ろから抱きしめる男のひとがする行動がただ「嫌」だった。ただ、それは私がされているから、自分はされて不快になるというだけで、それをソドムさんがすることに良いも悪いもない。ソドムさんはソドムさんの価値観と考えてそう振る舞っているだけだ。

 例えばSとMの関係。サービスと満足、と例えられる。SのサービスをMが受け取ることで成立しており、Sが、あるいはMが一方的に提供、または強要をしてはいけない。……ちょっと違うか。


 とにかく、私は物語としてSMの関係性を好んでいたとしても、自分はSでもMでもない。


 私は神獣ソドムさんの言動を好ましいと推していながら、自分が彼に近くなると、「この人の行動が嫌」と、手前勝手に思うのだ。


「宝砂殿?何を考えている?」

「ソドムさんのことです」


 聞かれるままに私は返事をした。

 ちょっと考え事をしているので、そっとしておいてほしい。


 私は神獣ソドムを嫌だと思っているのかと言えば、そういうわけでもないのだ。神獣ソドム。物語の中のキャラクター。好んでいる。そして、それが存在する世界に生きることが出来ていて、とても幸福だ。推しの幸せも見守りたい。


 なのに、ソドムさんが私に関わると、彼が彼らしい行動をすると、私は「嫌」なのだ。これは私のわがままだろう。あまりにも自分勝手だ。


 つまり、私はソドムさんを影から推していられる立ち位置になるべきなのだ。


 うん、そうだ。それがおそらく、ベストアンサーである。


 自分に関わってこなければ、自分に火の粉がかからなければいい。

 アラブの石油王が突然私の同僚を見初めて引き継ぎ業務もないままに彼女を攫っても「なんてこった、サイコーだ!!あとは任せろ!」と親指を立てて見送るし、俺様何様な糞野郎が同級生を「オモシレー女」認定して付きまとっても「いいじゃない!玉の輿だよ!」とキャッキャする。


 神獣ソドムさんを推し続けるために……。


 よし、このよくわからない神域から脱出しよう。そうしよう。



止めといた方がいいと思うよ。

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― 新着の感想 ―
クリームチーズあんどら焼き!美味しそうですね…… 一応「悋気を起こしてしまった」とかはちゃんと伝えているんだけれどもご本人にその好意は全然正しく伝わってなさそうな神獣さん……に対して自分に関わってく…
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