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「これをご隠居様のところへお持ちしますか?」
「ああ、頼んだよ、ちょっとお待ち、マフィンに木苺のジャムを添えるから」
時間をうまく見計らってヒルダの所へいくと、老師へのお茶菓子が用意されている。
とっておきのお茶の葉を選んだあたりで、タイミングよくミアンが声をかけるので、いつしか持って行くのはミアンの役目になっていた。
老師の話を聞くのは楽しい。
昔の話。いろいろな話。
人よりも賢い幻獣達がいた時代。
「お前さん、字が読めるかね?」
「えーと、仕事に使う模様はわかりますけど。この形の模様はあれ、この形の模様はこれ。お茶の缶の模様はずいぶん覚えました。難しいのはまだ」
「模様、じゃと?」
「はい、あの模様のことを字っていうんですね」
数日後のこと。
老師はふらりと、ヒルダの指揮する台所を訪れた。
「ひさしぶりじゃな、ヒルダ」
「老師様!こんな所にいらっしゃってはいけませんよ」
「いやいや、台所というのは心が休まるところじゃよ。働いているあんた達には悪いがな」
ヒルダはつけていたエプロンで粉だらけの腰掛をはらって、老師を座らせ、手伝いの子にお茶を言いつける。老師は粗末な木の椅子にちょんと腰掛け、炉辺でぐつぐついっている大鍋や、布巾をかけて棚に並べられ、発酵をまっているパンの列などを楽しそうに眺めた。
「この間からお茶を持ってくる娘のことじゃが」
「ミアンですか?何か粗相でもいたしましたか?」
「いやいや、とてもいい子じゃよ。だが教育をうけておらんな」
「ランタナが厳しくしつけていたはずですが」
「いやいや、礼儀作法言葉遣いは申し分ない。じゃが話してみると常識が欠けておる。読み書きも自己流じゃ。近頃の義務教育はどうなっとる」
「皆、災害以来生きるのに精一杯。子供も貴重な労働力です。教育の時間も場所もありはしませんよ。ミアンもシャーリーン様が旅先で拾ってきた娘。学校など行っていないはず。他の子も似たようなものですよ」
「それにしても無知にすぎるな、あの子は。学びたい気持ちは十二分にあるのじゃ。
災害からすでに七年。七年の空白じゃぞ。このままでは一部の貴族だけが知識を独占する、過去の体制に逆戻りじゃ。ふむむ・・・」
「よし、王に進言して学院の一部を開放してもらおう。子供達の教育の場じゃ。貴族の子弟だけを教育するのがまちがっとるんじゃ。平民からも生徒をつのる。もちろん授業料はただじゃ」
「何をなさるおつもりです、お年を考えてくださいな」
「学びたい子がそこにいるのじゃ。年などと言っていられるか。
よし、学校を開くぞ!ミアンは第一期生じゃ」




