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レンタルハニー6


 指輪買われてしまいました。

 そんな恐ろしいことしてくれるな! と抗ったが、婚約者設定を押し切られて買われてしまった。

 そんなわけで、今、ラビの左手の薬指には最高級の宝石が輝いている。貴族のお屋敷にも出入りする有名デザイナーの一点物だとか。―――恐ろしい。

 その後、必要以上に金を使ってくれるな! と、いや、正しくは「あまり高価なものでは経費として落とせないのでやめてください」と言ったが、「こちらで払う」の一言で棄却されてしまった。マルディヘルの私費で領収書を落としてやるつもりだっただけに、残念でならない。

 そんな風にすったもんだして、現在、馬車で移動中。

 ラビの気分としては、屠殺場に連れて行かれる家畜気分だ。


 ―――気まずい。


 重厚な甲冑の置物が座っているみたいで、正面を見ることができない。それなのに、レイヴァンは真っ直ぐこちらを見てくるからたまったものじゃない。ラビの視線は終始下を向いていた。

 「あの……オリエス卿」

 「レイヴァン」

 「…………レイヴァン様」

 「レイヴァンだ」

 「一応けじめとしてください。助けられたというなら様づけはおかしくないでしょう?」

 派遣とは言え、雇用被雇用の関係にある。この線を譲るつもりはなかった。

 「……わかった」

 「ご理解ありがとうございます」

 座りながら、丁寧に頭を下げた。

 四角四面で頑固だが、まったく人に譲ることを知らない傍若無人男ではないようだ。それだけでも今後がやりやすくなる。

 「それで、具体的に誰が貴方に結婚を迫っているのですか?」

 「知ったところでどうしようもない」

 教えたくないのだろうか。なんとも言い難い渋い顔をしている。

 「知っているだけで多少予防もとれるでしょう。派遣まで時間がなかったため、十分な説明があったとも思えませんから」

 ―――家に住むとか言う件しかり!

 レイヴァンは考え込むようにしたが、少しして顔を上げて「わかった」とだけ答えて―――


 「エルディ=バロン=フォルネ、パトリシカ=ヴァイカウント=マヴェリ、ビビィ=ゴルロック、トゥーリア=バロン=イオネリオン、フィアナ=セライラ、テディ=ベイン、オリオ=バロン=ダニア、レイラ=アール=オクスファード、ファニエール=ヴァイカウント=マクス、アリー―――」


 最初何の呪文だと思ったら、女性の名前の羅列だった。抑揚なく上げていくものだから、本当に何かわからない。

 しかも、よくよく聞いてみると知った名前もあった。ビビィ=ゴルロックはこの間振り回されたじゃじゃ馬お嬢様の名前だ。とんだところでつながっているものだ。広いようで狭い世界、彼女に会った瞬間この依頼終わる!

 ―――と言うか、ビビィ=ゴルロックはまだ十四歳の少女。三十路の男と召し合わせようとするかなぁ、ふつー。あーやだやだ、貴族の政略結婚って。

 そんなことを思っている間もレイヴァンの暗唱はつづく。すばらしい記憶力だ。


 「すみません、もういいです! 憶えきれません!」

 だから言っただろう、という目で見られた。ごもっとも。

 「出来れば、要注意人物だけで……」

 「わかった、後で書類にする」

 ―――書類にしないといかないレベルですか。 

 「たいへんですね……」

 それは、偽婚約者で一時の盾を作りたくなるのも無理はない。

 後宮ハーレムができる!

 この国は、現在国王が超のつく愛妻家だから後宮なんてないが、以前は山ほどの女性を詰め込んでいた。王様からすればウハウハの女の園だが、当の女たちからすれば灼熱の地獄だろう。熱は嫉妬の炎で、燃やす本人たちが燃え尽きてしまう。後宮の別称を持つ二課だって、テェリシアが絶対的な頭として君臨しているからこそ落ち着いているが、時々女の嫉妬が内紛しているのは知っている。日々転属したいとぼやいているが、転属するなら三課がいい。二課は御免こうむりたい。

 「警備は強化してあるから大丈夫だと思うが、気をつけろ。不審者を見たら、ロイドかロランに言えばいい」

 「ロイドさんとロランさんですか……」

 「うちの家令と庭師だ。それなりに鍛えてあるから遠慮はいらない」

 「それは……心強いですね」

 マッチョでムッキーな筋肉だるまがうじゃうじゃしているのを想像して、ぞっとした。

 しかも、それが必要な状況下であるということだ。

 不審者が家にいるのが別に珍しくないような口ぶりだ。

 ―――肉食女子に狙われているんだろうね。本人の方がよっぽど肉食っぽいのに。ドンマイ。


 きぃ、と音がして馬車が止まった。

 レイヴァンが先に出る。指輪の嵌まった左手を取って、スマートにエスコートしてくれた。


 高級住宅街ではまだ敷居の低い二番街、濃い茶色を基調とした小さ目のお屋敷。敷地は広いようで、庭が見える。そびえる門前に立つ燕尾服姿の老人。


 「おかえりなさいませ、旦那様」


 レイヴァンに連れられ、屋敷に引き入れられる。

 老執事は連れられたラビにも丁寧に頭を下げてくれた。

 ラビは精一杯大人しそうなお上品な女性を演じつつ、そっと覚悟を決める。


 そうして、ラビの三か月に及ぶ婚約者としての日々が始まった。




とりあえず、今回はここまでです。


誤字脱字の報告、質問、感想、批評、いただけると嬉しいです。

似非ピンク頭厚化粧主人公と強面イケメン(この時点じゃ、まだ無害)の需要がどれくらいあるのか! 気になるところです。

妙にテンション高めでやっていきますんで、よろしくお願いします。


古都

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