第三話
「なぁ……ナギサ……お前の能力は本当に不幸なんてモノなのか?」
能力がプラスのものとは限らない……
自分の不利益を攻撃手段に変えている……
クラスメイトの嫌がらせで身体が濡れていたせいで、自分の立っていた場所が水に濡れていて足を滑らせ窓から転落した……その際に俺を巻き込むように落下した。
たまたま、野球部の打った打球がこの場所に飛んできた……そして、濡れている床……俺の張った結界の板を伝うように水が滴り落ちている。
「ナギサ……お前の能力は水だろ……どうやったかは知らないが……水を野球のボールのように擬態させて俺を遠くから狙撃した……」
ボールが破裂した理由……そしてその俺の結界から水が床に滴り落ちている理由……
「へぇー、さっすがトウカ……伏線回収もお手の物だね……私ね……会話の上で伏線ってすごく大事だと思うんだ……例えばさ……」
「ねぇ……トウカ、私のパンツ見せてあげようか?」
「えっ?」
思わず変な声をあげる。
「ばか、すけべ……例えばって言っただろ……私との会話を思い返せばこれがトウカへの告白の言葉になるの……」
「それに、私なんかのブスのパンツ見たって嬉しくないだろ……」
「そんなことないだろ……他の女子を下に見るつもりはないけど……ナギサはよく見ると可愛い顔してると思うけど……」
「な……えっ…馬鹿、もっと言え……」
「い……今のは好ポイントだ……なんならもう一度言うか?」
そう言いながら……ポケットからボイスレコーダーのようなものを取り出し、録音ボタンを押してこちらに取り出している。
「いや……ナギサは可愛いと思うけど……」
素直にそう言い直すと……カチッとボタンを押す。
「いただきました……」
「おまえ、いつもそれ持ち歩いてるのか?」
「イエッス……いつ、こんなイベントが起こってもいいようにね……さて、ちょっと脱線したけど……」
ぴょんぴょんっと右足だけ少し後ろに下げつま先を立てながら跳ねる。
「こんなノリでやるのかよ……」
「とうーぜんっ」
ぶんっと勢いよく右足をまわす様に俺の頭上まで伸ばし蹴り上げてくる。
バックステップで俺から距離を取ると……
「水?」
ポケットから小さいサイズのペットボトルの水を取り出し……
「ちょっと水分補給……」
そう一口、水を飲み込み……
「なんちゃって……」
冗談のつもりだったのか、少しだけ舌を見せ……ペッドボトルを持った左腕を頭上に振りあげると中の水を周囲にぶちまける。
「形どれ……壁を撃ち抜く釘……」
空中でぶちまけた水が板を打ち付ける突起物をいくつか形どる。
ペットボトルに残っていた水を何かを握っているように拳を丸める右手にこぼし始める。
「形どれ……クイを打つモノ……」
水色のトンカチを握りしめ……水でできた釘の高さまで飛び上ると……その釘を撃ち抜くように俺を狙う。
「ちっ」
俺は目の前に透明な板……結界を作りそれを防ぐ。
「かった……やっぱ、その壁を突破するのは難しいか……」
残ったハンマーを放り投げ……その結界にぶつかり野球ボール同様に破裂するように水に戻る。
「しかし……」
どうしたものか……シュウも小柄で脚力も有る……そしてパワーに置いてはナギサ以上だ……そのパワー故に油断していたということもあるだろうが、俺の攻撃をあてることができた。
だが、ナギサはスピード、どちらかというと遠心力を使って火力を出すタイプ……
俺の防御特化の魔力で即席で攻撃に適応させた拳を届かせるのはなかなか至難だ。
特に、間違いなくナギサは何か格闘技の経験者……
だが……よくはわからないが……拳を一撃加えれば、シュウの時同様に目を覚ます様に闘争心を失うかもしれない。
「女は殴りたくないけどな……」
俺はそう呟きながら……
防御結界の魔力を腕に巻き直し……翡翠色に輝く腕で繰り出されるナギサの蹴りを防ぐ。
「わぁっ」
釘やトンカチが水に戻り……自分で濡らした床の水に足を滑らせるようにその場に後ろ向きにナギサが倒れる……チャンス?
俺はそう思い……転倒する彼女に襲い掛かろうとする。
「形どれ……水蛇……」
「なっ……」
床に水たまりとなっていた水が……蛇のように形を作ると……俺の足へと絡みつくように足を取られる。
彼女同様にその場に後ろに倒れる……
「くっ……」
転んだら、確実に……逃げ場を失う……
運動神経……動きでは彼女には勝てない。
俺は背後に結界を作り、透明な板に手を突くと……転倒しそうになった身体を持ち直し……結界で小さな板を別に作ると……足元に落下させ……足に絡みつく水蛇を切断する。
「おぉ……やるじゃん……」
すでに起き上がっているナギサ……
ナギサの一瞬の隙……それを突かなくては……俺に勝ち目はない。
「さぁ……どうする、トウカーッ」
俺は背を向けると……思いっきり廊下を走る。
「はぁ……あー、逃げるの?」
「まてー、こらーーーっ」
情けないが走るスピードも負けている……
確実に追いつかれる……
こうなれば……彼女の言う、不運とやらにかけてみよう……
俺はなんとか地下の階段の場所へとたどり着く。
ボイラー室のある場所、もちろん、鍵がかかっている……
一般生徒が入れるわけがない……何段もある階段を高く飛び……階段のない踊り場に着地する。
「行き止まり……さぁ……観念しなさーい」
少し楽しそうに……走って来た助走生かす様に俺と同じように階段の前で高く飛び……階段の最上部から得意の飛び蹴りで俺に向かってくる……
「って……えっ、卑怯もんっ」
右足を突き伸ばし俺の方へと落下するナギサ……目の前には透明な板がある……
右足は遮られ……そのまま進行できない身体が足場の悪い階段の上に落下する……
今度は本当にしりもちをつくように階段に座り込むように倒れる。
「俺の勝ちってことでいいか?」
魔力を含んだ……右手で軽くナギサの頬を殴る。
「えっ……」
* * *
「おい……大丈夫か、トウカッ」
ミリスとシュウが俺たちを発見するように追いつく。
「あぁ……なんとかナギサも説得できた……」
本人もなぜ……あんな意固地に俺と争っていたのか余り覚えていない様子だったが……
「やっぱり……水無瀬も……誰かに……?」
シュウがナギサにそう尋ねる。
「シュウもなのか?」
「あぁ……もちろん、トウカ限定で襲えって言われた訳じゃないんだけどさ……しかもなんでそんな話に従っちまったんだ?」
「で……この能力ってなんなの?」
ナギサが一番詳しそうに見えたのだろう……ミリスへと尋ねる。
「第六感なんて……呼ばれているね……文字通り、本来、ありえない能力を覚醒させられたのさ……君たちはね」
「させられた……?」
沢山、つっこむところはあったが……俺は一番にそこに引っかかる。
「もちろん……適性がある……誰でもという訳では無い……君たちは選ばれたんだよ……英雄になれる権利を得たのさ……ナギサちゃんの言葉を借りるのなら……《《不運》》にもね……」
にししとミリスが笑う。
「いったい……誰に?」
ナギサがミリスを少し責めるように聞く。
「さぁね……神の気まぐれじゃないのかい?」
「神……おい、何をふざけて……」
「おやおや……ふざけたつもりはないよ……だったら君は説明できるのかい?生命が誕生した理由を……宇宙が産まれた現象を……時間という不確定の概念を……そんな時間に成り代わる確定的な概念を……」
にししと意地悪そうにミリスが笑いながら尋ねる。
「いずれにせよ……それくらい不確定なことだということだよ……」
「で……ミリス……お前は何者なんだ?」
「ミリスちゃん……呼びずらいのなら様でもいいよ?」
不服そうに俺を見て言う。
「宇宙人……とでも言えば、信じてくれるかい?」
「………」
「無理だろうね……神と言う存在も否定する君たちに……」
無言になった俺たちを見て言う。
「まぁ……妖怪くらいにしておけば、少しは受け入れてくれるかい?」
にししと笑う自称魔女はこんどは妖怪を名乗る。
「まぁ……こんな能力が実際使えるようになったんだしね……」
そんなミリスの言葉を受け入れるようにナギサが言う。
「で……何で俺たち、トウカの前に現れたんだ?」
そんなシュウの言葉に……ミリスはにししと笑い、本気か冗談か……
「美味しそうだったのさ……手に持っていた肉まんがね……」
*
*
*
「ふーん、なるほど……」
校舎の窓から帰宅する男子二名、女子一名……カバンの中の白いぬいぐるみを眺めている人の影……
「おっと……ごめんごめん……」
近くの一人の女子生徒にその人影は向き直り……
「ねぇ、知っているかい……最近……奇妙な力に目覚めている人がいるらしいんだ……」
唐突に人影は女子生徒に話しかける。
「君には……そんな自覚が無いかな……もし、あるのなら……」
*
*
*
「おい……トウカ……私の代わりにこの10連ボタンを押してくれ」
俺の机の上に自分のスマホを置くとナギサが俺にボタンを押すよう要求する。
「ん……これを押せばいいのか?」
「馬鹿……なけなしの最後の一回だぞ、もっと祈りを捧げるように押せよっ」
躊躇いもなくポンと押した俺にナギサが少し大きな声で言う。
そんな様子をシュウがつまらなそうに眺め……俺の机のフックにかかっているバックからは白いふわふわの毛の白竜のぬいぐるみが顔を出している。
「あーー、ほら、トウカ……100連目……また0……金返せッ」
「ふざけるなっ……ナギサが押せっていうから押しただけだ……」
「ねぇ……火四島からもトウカに言ってよッ」
「ん……あぁ、どうでもいいけど……いつの間にかお前ら下の名前で呼び合ってんのな……」
ソシャゲに興味無さそうに……ただ、いつの間にか呼び方が変わってる俺たちを見て言う。
「お願い……トウカ、一回……あと一回……次、次出る……あの人もそう言ってた……」
「誰だよっ」
取りあえず突っ込んでおく。
「出さないぞ……そんな不確定なもの……てか、保証もないものに一回まわすのに3000円とか高すぎだろ……」
「あーー、嫌い……トウカ、そんなこと言うの……私の好感度下がるよ……だいたい、確率は収束するって言ったのトウカじゃん」
「勝手に下げろよ……確率は収束するっていっても、今という保証はないし……その確立に影響するのはそのゲーム以外かもしれないだろ……」
「確定……保障……男のくせにそんなんばっかじゃん」
「喧嘩すんなよ……息ぴったりだし付き合えばもう?」
「「どうしてそうなるっ!!」」
「ほら……」
「……んな訳ないだろ……どうせ付き合うなら理想だけでも可愛い子を選ぶよ」
「ん……じゃ、私じゃん」
「なんでそうなる……んなこと俺、一度も言ったこと無いだろ……」
「あーーー、そうですかっ」
ナギサが頭のふきだしから怒りの血管の記号を描いているような顔で俺を睨みつける。
『……ナギサは可愛いと思うけど……』
ナギサが取り出したテープレコーダーからそんな俺の声が響き渡る。
「おいっ……こら、それはやめろっ反則だろっ!」
俺はそれを取り上げようとするが……テープレコーダーを持った腕を高く伸ばし俺の手が届かない様にしている。
『ぶふっ』
「えっえ……今、あのぬいぐるみ……くしゃみしなかった?」
俺の声の録音されたテープレコーダーの声を聞いて思わず噴き出したのだろう……ミリスが思わず笑いをこらえきれずに出た声に女子生徒が反応する。
「なに……あいつら……昨日、1日で仲良くなってんの……」
数人がおもしろくなさそうにこちらを睨むように見ている。
ガラガラと教師が入ってくる。
「ほら……みんな、席につけーーーっ」
朝のホームルームを始めるため……担任の男子教師が教室の教団の前に立つ。




