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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●お出迎えの、時間

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第345話 みんなで、おはなし




 ニナの指示に従う形で、第20層の執務室へと戻ることにしたファイ。


 ただ、ここ数日ファイはお風呂に入ることができていない。


(に、ニナに会う前にきれいにしないと……!)


 かつては自身の身だしなみに一切の関心を持てなかったファイが、()()()、ニナとの逢瀬を前にそんなことを考えるようになっている。


 ――ニナと会える。


 はやる気持ちを来れて自室に戻り、準備を済ませてお風呂へ向かってみれば、


「「あっ」」


 先客としてちょうど服を脱いだところだったらしいフーカとティオに遭遇した。と、ファイの姿を認めた瞬間、一気に顔を華やがせたティオ。


「ぅぅぅぉぉぉお、ね、え、ちゃぁぁぁ~~~ん!」


 生まれたての姿のティオが、全速力でファイに飛び込んできた。


「わっ、とと……ティオ。ちょっとぶり、だね?」

「えへへっ! お姉ちゃん~、お姉ちゃん~♪」


 数日ぶりの再開が嬉しいのだろうか。ファイの胸元に顔をうずめて、ひしっと抱き着いてくるティオ。そんな愛らしい妹のふわふわの髪を、ファイも数日ぶりに堪能する。


 階層主の補充作業を始めてからというもの、ファイは誰とも会うことができていなかった。また、最初に仕事を言いつけられて勤務地に向かったため、ティオ達がどこで何をしているのかも把握できていなかった。


 食事や水は檻と共にユアがピュレを使って運んできてくれたし、緊急時ゆえ、睡眠は数時間ずつのこまめな仮眠で済ませてしまった。


 どうしても排泄を我慢できなくなればコソッと最寄りのお手洗いに行くこともあるが、第4層に住んでいる従業員は誰も居ない。当然、誰ともすれ違うことは無かった。


 ミーシャが通信士として側に居てくれたし、魔獣たちもいた。寂しくはなかったが、だからといって他の従業員、特に、ファイにとっての庇護対象である2人のことが気にならなかったわけではない。


 果たしてティオ達は元気にしているのだろうか、と、何度考えたことだろう。


 そんな中での再会だ。ティオを抱く腕にも、また、フーカを見るまなざしにも、わずかな“安堵”をにじませるファイだった。


 と、ファイがホット胸をなでおろしていられたのも束の間だ。


「すんすん……久しぶりのお姉ちゃんの匂い~……って、くさっ!? お姉ちゃん、くっさっ!?」


 驚愕の表情でファイから距離を取ったティオの台詞が聞こえた瞬間、


「えっ……」


 ファイはピタリと動きを止めることになる。


 ここ数日、持ち場を離れず真面目に階層主の補充を行なっていたファイだ。当然、お風呂に入るのもかなり久しぶりになる。


 別に激しい運動をしていたわけではないが、魔獣たちの死骸にもたくさん触れた。服には汗や血だけでなく、強烈な死臭も染みついている。


 普段、ファイがどれだけ汗臭くとも気を利かせているのか指摘しないティオ。だが、今回は嗅ぎ慣れない強烈な臭いゆえに、つい反応してしまったようだ。


 そして、ティオが「やばっ」と。人一倍自身の体臭にだけは気を遣っている姉の急所を突いてしまった事実に気づいて、口をふさいだ時には、もう遅い。


「あ……ああ……ああああ……っ!」

「違うよ、お姉ちゃん! お姉ちゃんが臭いんじゃないっ! だから落ち着いて」

「――~~~~~~っ!」


 もはや服を脱ぐことさえも忘れて洗い場へと直行し、散湯器を浴びるファイ。その際、風呂場に続く扉を〈ゴギア〉でふさぐことだけは忘れない。


 こんな臭くて汚い自分、つまりは“弱い自分”を庇護対象(ティオ達)に見られまいとするファイの、もはや反射的な行動だ。


 しかし、最大級の混乱の中にいるファイが、それ以上の“道具としての振る舞い”を見せることは無い。


「見たらダメ! 見たらダメ……! 見たら、ダメェェェーーー!」


 顔を真っ赤にして、目端に浮かんだ涙を散湯器でごまかす。そんなファイの叫びが、誰も居ないお風呂場にこだました。




 それから数分経った頃。髪を洗い終えるころには、ファイも落ち着きを取り戻す。


 散湯器を止めて、呆然とお風呂場の天井を眺めるファイ。どれだけ混乱していても、落ち込んでいても、お風呂に入っていると心が落ち着くのだから不思議だ。


「ほぅ……」


 冷静になったファイの頭が思い出すのは、つい今しがたの、道具としてあるまじき自身の行ないだ。


「あぅぁ……」


 体臭を指摘されたとはまた別の羞恥心がこみあげてきて、言葉にならない悲鳴を上げることしかできないファイ。彼女の顔が熱さとは違う理由で赤くなっているのは、言うまでもないだろう。


 羞恥に悶えながら、それでも、脱衣所に置き去りにしてしまったフーカ達のことをファイはすぐに思い出す。


 2人とも、もうすでに服を脱いでいた。にもかかわらず、ファイが頭を洗っている間、彼女たちはお風呂場に入ることができなかったのだ。


(風邪、引いちゃってる……かも!)


 自身の行ないに対する反省はさておき、急いでお風呂場の入り口に戻ったファイ。変形させた床を元に戻し、急いで引き戸を開ける。


 そして、びちゃびちゃの侍女服が服に張り付くのもかまわず、裸で凍えているだろうフーカ達に謝ろうと飛び出してみれば――


「ティオ、フーカ! ごめん……ね……あれ?」

「あっ、お姉ちゃん。やっと出てきた~」

「ふふっ! ふぁ、ファイさん。落ち着きましたかぁ~?」


 特段気にした様子もなく、ティオ、フーカの順でファイを見上げてきた。


 彼女たちを見てみれば、服を着ている。いつファイが入り口を開けてくれるようになるか分からないため、服を着直したようだ。


(あ、うん。寒いなら服を着る……当たり前、だね)


 少し考えればわかることだろう。やはりまだ自分は冷静ではなかったらしい。そうファイが自身を顧みるうちに、気づけば左右にフーカ達が陣取っている。


「ほら、お姉ちゃん! 濡れた服着たままだと風邪ひいちゃうし、お風呂だと規律違反だから」

「じ、ジッとしていてくださいねぇ、フーカ達の方で脱がせますからぁ~」


 少し複雑な作りをしていて脱ぎづらい侍女服を、手際よく脱がしてくれる。


 2人とも先ほどのファイの醜態に触れることは無く、また、扉を閉め切ったファイの自分本位な行動を責める様子もない。


「なんだろ……。他人の服を脱がすって、ちょっとワクワクするよね、フーカさん……! はぁ、はぁ……」

「そ、そうですねぇ。フーカも、あ、アミス様の着替えをお手伝いさせていただくときは、それは、もう……!」


 自分たちは気にしない。だからファイも気にするな。言外にそう言ってくれているような2人の優しさが、どこかむずがゆくて。けれども、温かかくて。


「あ、ありがと……フーカ、ティオ」


 気づけばファイは、謝罪ではない、感謝の言葉を口にしているのだった。


 とはいえ、与えられてばかりは性分に合わないファイだ。むしろ何も貰わなくとも他者に尽くすことがファイの人生であり、生き甲斐ですらある。


(お返し、しないと!)


 瞳にやる気の炎を宿しながら、フーカ達が服を脱ぎ終えるのを今か今かと待ちわびる。と、


「あら? みんなお揃い……?」


 赤い髪に夕焼け色の瞳をした、海人族の女性従業員・メレが脱衣所にやって来た。


「あっ、メレ。そう。みんなでお風呂。でも偶然だ、よ? だから、えっと……」


 仲間外れにしたわけではない。そう言いたかったファイの意図を組めないメレではないようだ。


「ふふ、大丈夫よ。ちょうどいまくらいが、終業の時間だものね?」

「えっ。そうな、の?」


 緊急事態ゆえに今回の仕事は時間の制限を受けていなかったファイ。だが、どうやらちょうど今頃が終業時間だったらしい。


 時間通りに行動していれば、自ずとウルン人たちの行動も合う。こうしてウルン人たちが集ったのも、何もただの偶然ではないようだ。


「なるほど……だからフーカとティオも一緒だった?」


 ファイが来た時にはもうすでに一緒だった2人。偶然居合わせたのかと尋ねたファイに、しかし、ちょうどいま服を脱ぎ捨てたティオが首を振る。


「ううん。ティオとフーカさんは、一緒にお仕事してたから。だよねー、フーカさん!」

「そ、そうですねぇ。実は……」


 その後、4人でお風呂に入りながら話を聞いてみれば、フーカとティオはミーシャの代替業務をしていたのだという。具体的には、培養室と菜園、それから牧場に居る魔獣たちの世話だ。


 知識が豊富である一方、身体能力は最底辺のフーカ。彼女1人では、ふとした弾みで魔獣に殺されてしまう。


 一方、身体能力はありつつも、まだまだエナリアの業務については詳しくないティオ。2人で協力して、ここ数日、ミーシャがこなしていた業務を代行しているらしい。


「しょ、昇降機はもう、ろ、ロゥナさんに任せておけば完成してしまう状態ですぅ。そ、そうなるとフーカは暇で暇で、あ、頭がおかしくなりそうでぇ……」

「ティオも。いつかお姉ちゃんと2人で逢引……じゃない。お仕事するために、お洗濯以外にも何かできることないかな~って」


 仕事狂いのフーカによる強い意向と、働く意欲を見せたティオ。2人に押し切られる形で、渋々ながらニナは2人に仕事を振ったようだ。


 もちろん、未進化だったミーシャが行なえた業務という時点で、危険度は推して知るべしだ。だからこそニナも、2人に仕事を任せていたのかもしれない。


 他方、メレの直近の仕事はもちろん、料理当番だ。


 ファイもそうだったように、持ち場を離れられない従業員も多い。そのため、ピュレやチューリたちと協力して、各所に食べ物を届けていたそうだ。


「届けるまでに時間がかかっちゃうから、日持ちする料理で。しかも、作業の片手間にサッと食べられるもの。その中で飽きないように種類を作ってって……色々考えられて、楽しかったわ」


 湯船の中。ファイの隣で、おくれ毛を耳にかけながら微笑んでいるメレ。


 正直、ファイは少し不安だった。メレが自身の心にふたをして、恩義だけでエナリアに残っているのではないか、と、考えることもあった。


 しかし、いま彼女が浮かべている微笑みはきちんと本心からきたものだ、と。他者の表情や言葉に人一倍気を遣ってきたファイの経験からくる直感が、そう語っている。


 自分とメレには似通った部分があることを、なんとなく理解しているファイ。だからかもしれないが、メレが満足――幸せ――そうに笑っているだけで、ファイも胸がポカポカする。


 そうしてファイがメレを凝視していれば、彼女の夕焼け色の瞳と目が合う。


 彼女のことを考えていたからだろうか。それとも、上気した頬におくれ毛から水滴を滴らせる姿が妖艶に映ったからか。一瞬、ドキリとしてしまうファイ。


「それで、ファイちゃんは? 階層主の補充って、どんなお仕事なの?」

「あっ、うん……。えっと、ね」


 そのまましばらく、生まれた惑星を同じくする者同士で仲良く会話に花を咲かせたファイ。なぜか普段よりも長湯をしてしまったために少しのぼせてしまったのは、ファイだけの秘密だった。




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