151話目 対悪魔戦 9
久方ぶりです。これからも不定期で出します
(格上が来たら勝ち目は少ない。遊びたい気持ちはあるけど、命令遂行の方が優先的だ。なら先ず殺るべきは──)
ララが視線を動かし、空に浮かんでいる2柱の悪魔を視界に収めた。1柱は巨大な棍棒を握り、ララを睨むように見つめながら警戒態勢をとる大柄な悪魔。もう1柱はその影に隠れるように浮いており、両手を合わせて何かを唱えている小柄な悪魔。
小さく息を吸って吐いて、集中力を高めた。それと同時にララの内から多量の魔力が溢れ出て広がる。
「《空間把握》」
スキルを発動させながら赤い悪魔に蹴りを放つ。蹴りは躱された。その動きをスキルに依り鮮明に理解しながら、追撃として棒を振り下ろす。
その追撃もまた躱される。しかし、僅かに頬を掠めていた。
『キレが増した......そういう技能か』
擦り傷の出来た頬を押さえながら悪魔が呟いた。
事実ララの動きに鋭さが増している。続く連撃のどれもが悪魔の肉体を的確に狙っていた。
《空間把握》はその名の通り、空間を把握するスキルである。指定した空間の全てを把握する。自分がどう動き、相手がどう動くのかを手に取るように感知できる代物。
戦闘補助に役立つスキル。ただ、それだけではない。
ララはニタリと笑った。その不敵な笑みを見て悪魔は予感した。何か来る、と。即座に後方へと飛び退くか、それとも前進して止めるか。その決断に迫られる。
そして前へ出ることを選び、翼をはためかせて鎌を振り上げた。
「《操作:空間》ッ!!」
しかし、ララの次なるスキルの方が早かった。ララは悪魔の前から掻き消え、その鎌は空を切るだけに終わる。
『なッ......!?』
赤い悪魔が驚愕に満ちた声を漏らす。そして辺りを見渡しララを探した。
ララが現れたのは小柄な悪魔、大柄な悪魔の後方。座標設定を謝ったのか、若干距離が作られている。そこで空間に作りだした力場を蹴りつけ飛び出した。
弾丸のように飛び出て金属棒を前に突き出す。狙うは召喚を行おうとしている小柄な悪魔。目を閉じている彼女はララの接近に気付いておらず、無防備な背中を晒している。一撃で仕留められるだろう。
もらった、と確信した。
「チィィィッ!」
『させぬわぁぁッ!』
棍棒がララの突撃を阻む。振り上げられた棍棒によって打ち返されたララは、空中で回転し即座に体勢を立て直した。そして大きな舌打ちをする。
「筋力対決かぁぁぁっ!」
『ふんッ!』
再び空を蹴って飛び込んだ。かち合った両者の得物。互いに殴打系の武器ということもあり、その衝撃は計り知れないものとなる。
振り下ろしたララに対する振り上げた悪魔。両者の筋力はほぼ互角。しかし、その得物が有する質量は悪魔の方が圧倒的だった。
ララの手から金属棒がすっぽ抜けた。その後方へと回転しながら飛んで行く。
「ぐっ......!ならばっ!」
反動で後退していたララだが、直ぐに空を蹴って接近する。左手で虚空を掴むとその手の中に新たな金属棒が現れた。粗雑に先を尖らせた棒。殺傷能力増しに即興で作られた得物である。
しかし、ララは金属棒ではなく何も持たない右腕を振り上げ、悪魔から離れた位置で振り下ろす。右手は空を切るのみ、と思われた。
「王形態っっ!!」
その声と動きに合わせ、突如として現れた『オークキング』が棍棒を悪魔目掛けて叩き付けた。大柄な悪魔に引けを取らない巨躯を誇るララの王形態。その手に握る棍棒もまたララ特性の合金で作られており、質量硬度共に最高峰。
加えて完全な不意打ちだった。金属棒の刺突を予測していた悪魔にとって、別の者による攻撃は完全な想定外。それもララが見せていた人型の分体ではない。
『グゥゥッ......!?』
咄嗟に棍棒で防いだ悪魔。しかし、質量も力も多様なスキルを乗せたララの王形態が勝っていた。
悪魔が空から叩き落とされる。これで小柄な悪魔を護る盾は無くなった。
「しゃぁっ!」
右手に持ち替えた金属棒を強く握る。そして、小柄な悪魔に狙いを定めて突き出した。鋭利な先端を悪魔の頭部を刺して殺す。その一心で更に勢いを加速した。
『やらせんッッッ!!』
赤い悪魔が割り込んだ。肉体を使ってララを止める。鋭利な金属棒は肩に突き刺さり、小柄な悪魔へと届く事はなかった。
赤い悪魔が浮かべる鬼気迫る表情。それは捨て身の覚悟を決めた者の顔だった。あの自爆をも厭わない悪魔がララの脳裏を過る。嫌な汗が頬を伝った。
負傷をものともせず悪魔はララの腕と首を掴むと、その手から闇魔法を発動させた。ララの腕と首に悪魔の闇が広がり、その這いずる闇は魔力を吸い上げる。
ララも防御、及び反撃するように《吸収》を発動させた。接触箇所からお互いに魔力を奪い合う。その力は拮抗、いやララが若干優勢であった。
『やれッッ!』
悪魔が叫ぶ。元々まともにやり合うつもりはなかった。後ろには大柄な悪魔が迫っており、大きな闇魔法を作り溜めていたのだ。中級悪魔が作ったものよりも遥かに大きく、そして強大。
「《操作:──!」
ララの言葉が紡がれるより早く。ララを殴り付けるように魔法を繰り出した。そして闇は赤い悪魔と共にララを包み込んだ。
一瞬の間を置いて明滅、そして爆発が起こる。衝撃波が作り出され、突風が巻き起こった。範囲は狭い。しかし、その範囲内で起こった衝撃は上級悪魔でも耐えきれぬもの。
『大丈夫かッ!?』
『ハァハァハァ......あぁ。すんでのところで離脱していたからな』
大柄な悪魔の横に着いた赤い悪魔の身はボロボロだった。しかし、未だに息をしているのはタイミング良く爆発から逃れていたおかげである。まともに受けていれば死に至っていてもおかしくは無い。
ララに突き刺された金属棒を引き抜き、その傷口を手で押える。そして爆発で作り出された煙を見下ろす。その下にはララが居るはずだ。倒せたとは思っていない。しかし、少なくない負傷を与えたという自信はあった。
『これで時間稼ぎ程度には......』
煙を見下ろしながら赤い悪魔が呟いた時だ。
2柱は体が上手く動かない事に気が付いた。腕や足が動かせない。首は回せるがそれだけだ。
『なにッ......!?』
『これは、なんだッ!?』
原因こそ分からぬが、その犯人は明らか。ララである。やはり生きていた、という事に舌打ちをし、動けない現状に苛立った。そして焦った。
「《操作:糸》......仕込んでいた事に気付かなかったな」
煙の奥からララが現れた。右手には新しい金属棒が握られている。段々と無骨になる得物だが、その殺傷能力は計り知れない。
拘束された2柱から視線を外し、未だに集中して召喚を行っている小柄な悪魔へと目を向けた。そして空を蹴る。
『やめろぉぉぉッ!!』
悪魔の叫びはララの動きを止められない。見向きもせず、耳も貸さず、ただ真っ直ぐに標的へと突き進む。
「トドメッ!!」
ララの攻撃を防ぐ者はもう居ない。小柄な悪魔は無防備。自身が殺されそうになっている、ということにすら気付いていないだろう。
遠慮はしない、躊躇もしない。甚振る事もせず、一撃で素早く殺す。ララの目に映るのは悪魔の胸部、その奥にある心臓たる魔石。
そしてララの金属棒、その先端が小柄な悪魔に触れた。
次に気付いた時、ララは地面に叩き付けられていた。




