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サバイバル生活始まりです

「やせい、じ?」

女神は聞いたことがないのか、目をこすって何度も確認している。

僕だって同じ気持ちだが、職業ニートや職業ペットがあるって事前に聞いていたからそこまで驚かない。

問題は適性だ。

(職業野生児って何が適正なんだ?)

「わ、わからないわ・・・。」

女神の声が震えている。

これが意味するところは簡単だろう。

(・・・ハズレ?)

「・・・たぶん。それも大ハズレ、かも。」

(・・・そうか・・・。)

「なんか、ごめんね?職業勇者とか言ってはしゃいじゃって。」

泣きそうな顔で魂の僕を抱きしめてくれる。

正直、魂という無機質な僕がその豊かな胸に埋もれても、何の感情もわかない。

(・・・見えないんだけど?)

「・・・何が?」

(文字に決まってんだろ?)

「むぅ。生意気。こんな時ぐらい素直に泣いたら?」

(泣いてどうにかできるレベルならな。生憎僕は女神様からも大ハズレ認定の職業なんだぞ?何かしら他に書いてないか気になるだろ?)

「それもそっか。ごめんね?」

(気にするなよ。別に後悔してるわけじゃねぇし。)

「そっか。でも、これには何も書いてないわよ?」

(確かにな~。)

見れば見るほど、“おめでとうございます!職業野生児です!”以外に書いてはいない。

(これじゃあ適性もあったもんではないな。)

「い、生き抜く能力が高い!とか?」

(そういうことは自信をもって言えよ。)

「だってしょうがないじゃない。女神人生で初めてよ、こんな職業。」

(職業ニートや職業ペットはよく見るのにか?)

「私の世界ではそうでもないけど、貴方の世界では多いみたいよ?」

(マジかよ。前世の世界、大丈夫かよ。)

「大丈夫じゃない?貴方の前世の世界の神様ってベテランの神様だから。何かしら考えがあってだと思うよ?」

(・・・まぁいいや。今の僕には関係ない話だしな。)

「・・・これからどうするの?一応、言っておくと、記憶を保有した状態なら赤ん坊からのやり直しは出来ないわよ?」

(どういう意味だ?)

「つまり、赤ん坊から始めるんじゃなくて、貴方の場合は現在の10歳からプラスマイナス5歳からの転生しかできないの。赤ん坊から始めたいのなら前世の記憶は保有した状態は出来ないわ。最も自力で思い出すことはできるけど。」

(なるほど。記憶を最初っから持っていたかったら5歳から15歳の間でしか転生できないんだな。)

「そういうこと。貴方が望むなら転生場所も指定させてあげる。」

(・・・本気か?)

「ええ。」

(急にどうしたんだ?お前らしくないぞ?)

「クルミナよ。」

(は?)

「私は女神クルミナ。一応、自己紹介しておくわ。」

(・・・そうかよ。そんでクルミナ、さっきの言葉は本気か?)

「ええ、本気よ。私たち神は貴方たちに与えられるものはほとんどない。職業ぐらいよ。けれど、それ以外の産まれる場所とかなら変えることは可能よ。」

(ふむ・・・。)

「どうする?お金持ちの家の子にしようか?」

(いや、できれば森の中が良いな。誰もいない場所でひっそりと暮らすわ。)

「そう、それが貴方の選択ね。じゃあ・・・。」

(海藤だ。)

「え?何よ急に?」

(俺の名前だ。俺は海藤竜喜(かいとうたつき)だ。竜が喜ぶと書いてたつきだ。)

「ふふ。覚えておくわ。」

(だが、俺はクルミナの世界では“カイドウ”と名乗るよ。なんかカッコいいし、んで、俺の前世の名前はお前が覚えておいてくれ。)

「わかったわ。海藤・・・いえ、カイドウ!」

(うし!なら早く転生しようぜ!クルミナ!)

「そうね!ならどういう風にするの?」

(名前はカイドウ、年齢は15歳。やれる幅が広がりそうだし。転生場所は人の気配のない森がいいな!近くに人がいるのもやめてくれ。)

「わかったわ。じゃあ貴方はカイドウ、15歳、職業野生児、転生場所はオウゴンガの森にするわ!」

(頼んだ!)

「カイドウ!貴方のこれからの人生が、貴方にとって、素晴らしく、有意義で、晴れやかで、幸せなものになるよう、私が直接祈ってあげる。感謝しなさい。」

(・・・ああ!ありがとうクルミナ!)

視界が真っ白い優しい光に包まれる。

クルミナが一筋の涙を流しながら笑顔で手を振ってくれる。

手を振り返したかったが、魂の僕ではできない。

だから、念じる。

“色々と、ありがとう”って。

「元気でね・・・海藤竜喜君。」

囁きが聞こえたような気がした。


サバイバル生活1日目。

目を開けると、暗くはないが、明るくもない森の中だった。

視線だけ動かすと、周りには森や草、花などしかない。

(本当に森の中だな。)

体を起こして、確認すると記憶より大きくなっていた。

顔は確認できないが、同じ顔だろうと適当に決めつけておく。

「とりあえず、これからどう生きるか、だな。」

周りを見ても、先程と変わらない景色しか見えない。

「まずは水源の確保だな!」

言うが早く、体は動き出す。

前世の記憶とは違い、速く走れる。

(なんか、すいすいと走れるな?これが職業野生児補正?)

鬱蒼とした森の中を全速力で駆け抜ける。

とても早く走っているのに、何にもぶつかることはない。

(最も、何もないんだけどね。)

走り続けて入るが、木と草、加えて花以外何も見ていない。

(水源・・・確保できんのかな?)

多少は不安になるが、今はそういうことは考えないようにして、走り続ける。

けれど、本当に何も見えてこない。

「止まろう。」

先程と変わらない景色に、少しだけげんなりするが切り替える。

「音、だな。うん、音を聞こう!」

耳を澄ますと、聞いたことのない鳥の鳴き声や、聞きなれた鳥の鳴き声がハーモニーを奏で、木々の葉っぱが風に揺られ、囁くように心地よく耳の中に入ってくる。

「・・・ふむ、少し寝よう。」

心地よい音楽は睡眠を促進するとは、こういうことだろう。

カイドウは一本の木に寄りかかり、目を閉じる。

(これからの人生、先は永いんだ。職業も知っていることだし、前世のようなことにはならんだろ。)

身を木に任せ、耳から入る全ての音を受け入れる。

だんだんと視界が暗闇に呑み込まれて行く。

これから寝るんだなって思っていると、変な音が耳に入る。

(何だ?この音は?・・・声?)

暗闇から這い出し、目を開け、耳を立てる。

聞こえなければ、別の方向に向き、耳を立てる。

それを数度繰り返すと、声の方向が分かる。

「・・・こっちか。」

カイドウは音を立てないように走る。

意識して走れば、一切の音が聞こえない。

(意外とこういう場所ではすごいんじゃないか?野生児。)

声の聞こえる方にすぐさま駆け付けると、見たことのない生き物が狼らしき生き物に囲まれている。

「助けてーー!!誰かーー!!助けてよーーー!!」

見たことない生き物は必死に叫ぶが、無意味だろう。

女神の言う通りならこの近くに助けてくれる存在など、皆無のはずだ。

(最も、人間でないが、喋る生き物という例外が目の前にいるけどな。)

「グルルル・・・。」

狼たちは逃がさないように威嚇しながら囲む。

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

(狼っぽい生き物は3匹か。他には・・・いなさそうだな。)

「助けてーーー!!!」

「グルルル!」

(あれじゃあ余計に刺激させてるだけだな。どうすっかな、あいつが死のうが生きようがどうでもいいけど、あの狼は狩りたいな。肉として食えそうだし、毛皮は服とか作るのに便利だし、何より懐くんならペットにしてもいいかもな。・・・よし!)

決まれば行動はスムーズである。

3匹の狼の真ん中、つまり、見たことのない生き物の前にカイドウは降り立つ。

「へぁ!?」

「グルル!?」

4匹は突然の出来事に驚く。

「悪いが、この狼は貰うぞ!」

カッコつけて言ったはいいが、どうやって戦うかをカイドウは知らない。

(しまった・・・僕は戦い方を知らないぞ?考えなしに行動してしまうとは・・・不覚だ。)

気を取り戻した狼が先程よりも威嚇を強める。

「ひぇ!?」

驚いた見たことのない生き物がしがみ付いてくる。

(邪魔だな、どうにかできないかな・・・。)

(スキル:野生の威圧を発動しますか?)

(・・・ん?なんだこれ?)

(スキル:野生の威圧は発動しないでよろしいですか?)

(考えてる暇はなさそうだな、仕方ねぇ。)

「スキル!野生の威圧発動!」

言った瞬間、自分の中に眠る“強者”という自負がこみ上げてくる。

「散れえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

気がつくと、叫んでいた。

歯をむき出しにして、声の出る限り叫んでいた。

しかも、まるで何かに怒りを覚えるかのような形相で。

「キャウ!?」

狼たちは驚き、先程までの威嚇が嘘のように四方八方に駆け逃げていく。

振り返ることなく一目散で逃げていく狼を見送ってしまう。

「あ。」

気がつくと、狼たちは姿かたちもなかった。

「チクショウ・・・しくじったな。」

またしても失敗したことに肩を落とす。

すると、トサッという音が後ろから聞こえた。

何だ?と思い確認すると、見たことない生き物が泡を吹いて気を失っている。

指でつついてみるが、反応はない。

腕や足、腹を確認すると、薄っすらとではあるが、肉があることが確認できる。

「・・・食料には、なるか?」

無造作に耳を掴みあげる。

匂いを嗅ぐと、少し臭い。

不快に顔を歪めてしまったが、仕方がない。

「やっぱり水源は重要だな。もう少し探そう。」

周りを確認するが、相も変わらず森の中で、水は見えない。

「地道に探すか。その方が音も聞きやすいしな。」

自分に言い聞かせ、適当な方向を見る。

「とりあえず・・・こっちだな。」

見たことない生き物を引きずりながらカイドウは歩き始めた。



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