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花は微笑まない  作者: 青空
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旅立ちの前に


次の日、私たちはテナーの町で買い出しを行っていた。

というのも、

「ねえ、そういえばここ出たら山越えるんだけれどさ、防寒具持ってきた?」

というルーナの言葉で気付いたのだ。

「カラの防寒具がないわ」

「俺、持ってきてねえ…」

カラと、ついでにレオンの防寒具がないことに。

テナーの東北部、フォルティスの方角にはアンダンティカとフォルティスを隔てる山々、テザント山脈が連なっている。一年のほとんどが雪に閉ざされているテザント山脈を越えるには、それなりの準備をしておかなければならないのだ。

「何やってんのよ、もう」

散々忘れ物はないか、王宮を出る前に確かめたというのに。

「しょうがねぇだろ。忘れてたんだよ」

唇を尖らせるレオンにため息をつく。

そうだったわ、コイツは悪気なく忘れ物をしまくるんだった。いつもはプリュイさんがさりげなくフォローしてくれていたから、完全に忘れてた。

「フィオ、しょうがないさ。どうせカラの防寒具は買いに行かなくちゃならないんだから、ついでにレオンのも買いに行こう」

ルーナが苦笑混じりに私の肩を叩く。

私はもう一度溜息を吐き出して尋ねた。

「…そうね。レオン、財布は持ってきてる?」

「………いや」

「やっぱり。私が払うから後で返しなさいよ」

「悪い」

というわけで、急遽テナーで買い出しをすることに決まったのだった。

そして現在。

「なあ、フィオ。こっちとこっち、どっちがいい?俺は青のが良いと思うんだけど」

「こっち赤の方が温かそうだと思うわ。カラ、どっちがいい?」

私たちはさっさとレオンの防寒具を買い揃え、ただいまカラの防寒具選びをしていた。

とは言っても、ルーナは傍観に徹していて、選んでいるのは私、レオン、そしてカラなんだけれど。

「赤いのがいい!」

「赤?青のがかっこいいのに」

「赤は保温の魔法が付与されてるのよ」

「結局魔法かよ!」

レオンが大げさに嘆くけど、しょうがないじゃない。テザント山脈はオシャレがどうとか言ってられるほど生易しい標高じゃないのよ。

「アンタ、まさかかっこいいからって理由で薄い防寒具選んでないわよね?」

「いや、まさか…」

そう言いながらも、レオンは買い物袋を後ろに隠す。ついでに目線を泳がせるのは、レオンが何かを隠そうとするときの癖だ。

「…まったく、ちょっと貸しなさい」

「あ!」

レオンから半ば奪うようにして買い物袋を掴む。そして袋を開いて、案の定テザント山脈を越えるには心許ないそれが入っていたことに肩を落とした。

なんてもの買ってんのよ。これじゃあ山脈超える前に凍え死ぬわ。

「…発熱付与」

魔法を付け足すと、一瞬防寒具が淡く輝いた。

防寒具を身につければ自然とちょうど良い温度まで熱を発する付与魔法だ。これでコイツが風邪を引くことはないはず。

「もうちょっと考えてから買いなさいよね」

防寒具を返せば、レオンは、

「…サンキュ」

と口の中でもごもご言いながら受け取った。するとカラが、

「ねえねえ!僕のもやって!」

と選んだ青い防寒具を握りしめて私を見上げる。私は可愛らしいおねだりにふと笑顔になった。

「もちろんいいわよ」

そう言うとカラは飛び上がって喜んだ。

やっぱり可愛いわね。付与魔法も奮発しちゃおう!

ご機嫌で付与魔法を与えまくった防寒具をいそいそと身にまとうカラを見て、心が躍った。

こうも喜んでくれると、魔法も使いがいがあるわね。

「よっしゃ!靴とかも買いに行こうぜ!」

カラの手を引っ張って歩くレオンと、その隣で目をキラキラ輝かせて商品を見るカラの後ろをのんびりと歩きながら私はくすりと笑みを漏らした。

これじゃあどっちが子どもかわからないわね。

子ども服売り場をうろうろして、ワイワイ騒ぎながらもカラの防寒具を揃える頃には日が空のてっぺんに昇っていた。

「適当に屋台で食べてから出発しよっか」

「おう!あの串焼き買おうぜ!」

「僕はあっちのめんがいい!」

「はいはい、順番に回りましょう」

レオンが食べたいと言ったのは、甘辛いタレの匂いが食欲を誘う焼き鳥。カラが指差したのは小麦粉の麺に寒い地方独特の少し辛いスープをかけた料理だ。

「じゃあ麺を先に食べて、それから串焼きを買おうか」

「ええ、そうね」

頷き、まずはカラが食べたいと言った麺の屋台に顔を出す。

「いらっしゃい!」

ガタイの良いおじさんが額に汗を光らせてこちらを向く。

「麺を四つ」

「はいよ!」

慣れたように注文するルーナにおじさんは快く頷き、あっという間に料理を出してくれた。

屋台に備え付けられた机に器を置き、麺をすするとコッテリとした味が舌に絡みつき、香ばしい香りが鼻を抜ける。

「おいしいね!」

「確かに。この店は当たりだ」

カラが口いっぱいに麺を詰め込んで、目をきらめかせる。食いしん坊のルーナが口の端をあげた。

確かにほっぺたが落ちるほど美味しい。スープまで飲み干して、

「ごちそうさま!」

と器を屋台のおじさんに返して、今度は串焼きの店に向かった。

串焼きの屋台では、大きな鶏肉の塊を豪快に串に刺して焼いていた。

「美味しそうね!」

「おっちゃん、串焼き四本!」

「おう!」

代金を払い、串焼きをしている間今日の予定を話し合っていると不意に屋台のおじさんが顔を上げた。

「おう、お前たちもしかしてレオン様とフィオーレ様か?」

甘辛いタレがかかった美味しそうな串を4本差し出しながら、屋台のおじさんは尋ねてきた。

「え?ええ」

頷くと、おじさんはやっぱり!と白い歯を覗かせて笑った。

「実は今朝、アシミさんにコレを渡すように頼まれたんだよ!薬草ビスケットだってよ」

おじさんがガサゴソと後ろに置かれている箱の上に置かれた、ひとつの籠を差し出す。アシミさんがよく使っていたハンカチがかけられたその籠からは嗅ぎ慣れた甘い薬草の匂いがした。

「マジか!ばあちゃんのお菓子、めっちゃ効くんだよな!サンキュ!」

レオンが目をキラキラさせて籠を受け取る。籠が近くに来ると甘い香りも濃くなる。

その香りに私も口元を緩めた。

アシミさんのビスケットは私もレオンも大好きなおやつだった。それに薬草の名が付いているだけあって、風邪も一発で治る優れた薬でもあった。

魔導師見習いになってからそのすごさに気づいて、アシミさんにつくり方を教えてもらったのよね。

「ありがとうございます」

おじさんにお礼を言うと、彼はおうよ!と笑った。

「じゃ、行こうか」

ルーナが串焼きにかぶりつきながら歩き出す。

「ええ。カラ、転ばないようにね」

「うん!」

私たちは串焼きを頬張りながら、アシミさんにもらった籠を提げてこの街の門を目指したのだった。


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