購入ですか?勇者さま。
フェンとミヤは街道を進んでいた。
行きには素通りだった途中の村や集落に寄りつつ。
・・・そう。徒歩で、である。
二人を転移させる時に気を利かせて『馬』も一緒にしてくれれば、、、
なんて無い物ねだりしても仕方が無い。
この徒歩による道程中にも、ひょっこりと爺ちゃんが『遅いぞ(笑)』と
追いついて来てくれるのではないか?との楽観的な希望も有る。
ある程度のお金も有るが、流石に馬を買うお金などは無い。
ただ、『重要な物』だけは買う必要が有った。
それは・・・「ねこみみローブ」だ。
決して『好み』や『趣味』で買いたい訳ではない、はず。
今は一緒にミヤが居る。自分だけなら何の問題も無いが、
他の人は、そうは見てくれない。
都市の中には獣人族、取り分け人間種に近い種族が一緒に暮らす
町も在るが、ごく一部の町だけだ。
普通に獣人など見た事のない人が初めて獣人を見たら・・・。
『モンスターが出た』と大騒ぎになるのは目に見えている。
初見ではフェンですら一瞬、剣を抜きかけたのだ。
そこで、の『ねこみみローブ』だ。
一部の冒険者、魔法職の女の娘に人気で、着ていても違和感がない。
フードの耳型の飾りで耳も隠せて、シッポはローブの長い裾でカバー出来る。
・・・どう考えても『これを最初に作った人は獣人好きだ』と思う。
または『獣人達、本人』が作ったのでは?と思うクオリティーだ。
途中の町で調達しようという事となった。
「じゃあミヤ、ちょっと隠れててね。買って来るから」
ミヤに隠れているように指示を出すが何だか不満そうである。
「どうかしたの? ミヤ?」
「フェンさまは洋服選んだ事有るんですかにゃ?」
「そりゃあまぁ、、自分の服を・・・」
「「 女の娘の服を、です、にゃん」」
「えーっと、、、無いな」
「駄目です。私も行きますにゃ!!」
ミヤも女の子なんだな。自分の好きな服が選びたいのかな?
『いいよ』と言い掛けたが、、、その姿じゃ、、、
フェンの考えが分かったのかミヤが先手を打つ。
「問題無いにゃん」
次の瞬間には栗色の猫がそこに居た。
「ミヤなの?」
つい前と同じ質問をしてしまった。
「そうですにゃ。」
「あれ?、、、言葉喋れるんだね?」
前は魔法で『猫の姿』がベースだったので人の姿になったり言葉を話すと
相当力を消耗したが、今は『獣人』ベースなので逆なのだそうだ。
「・・・って事は猫の姿は大変なんじゃないの?」
「大丈夫ですにゃん!!」・・・目がキラキラしてる、、、。
『そんなに自分で選びたいんだね、、、』
「うん。じゃあ一緒に行こう。」
フェンと胸に抱かれた一匹は街に入って行く。
ミヤはルンルン♪とシッポを振りまくっていた。
しばらく歩くと中心街に着く。
目的地は『洋服店』、、、ではなく『武器・防具屋』である。
前述のように『ねこみみローブ』は冒険者の『装備品』なのだ。
なので『洋服』よりも値段が張る。
内心『ミヤが欲しがる物が買えなかったら格好悪いな、、、』
とか、ドキドキしながら店内へ入る。
「いらっしゃいませ。」
即座に店員さんから元気な声が掛かった。
フェン達が久しぶりの客だったのか、目がキラキラしている。
『・・・店員さんもか、、、』 女の子の特権なのかな?
だが、、、不味い。話したら買わなきゃならないパターンなの?
店員さんからの期待の眼差しが痛い。
とりあえず手を上げて店員さんを止めて『自分で見ます』の合図を送る。
さて、、ねこみみローブは?っと、、、、有った。
聞かずとも直ぐに見つかった。さすが流行っているだけはある。
で、どんなのが有るかな?
フェンが見る前に腕に抱いたミヤが今にも落ちそうなくらいに身を
乗り出して見ている、、、真剣だ、、、これが女の子パワーか?
大都市の店とは違い、種類も限られているが品揃えは良い方だ。
一般的なローブタイプの物や、防御力の高いメイルタイプの物。
あまりお目にかかれないフルプレートタイプも、、、が、馬鹿高い。
フルプレートをフェンが見ていた時の店員さんの形相が怖い、、、。
『100%買いませんってば、、、』
珍しく武器・防具屋なのに洋服、ファッションとしての商品も有った。
形は『ねこみみローブ』だが防御力は皆無だろう、激安だけど。
・・・と、言うか生地が薄すぎる。普段の状態でも透けて見えそうだ。
『こ、これは、、、特別な趣味の方が買う商品なのでは?、、、』
この生地では少し雨でも降ろうものなら・・・。
・・・・・。
服が透けて恥ずかしがるミヤ、、、を想像し、、、いかん、いかん。
俺だけならともかく、ミヤの柔肌を他の奴らに見せるなんて許せない。
ローブを前に想像を膨らませ考え込むフェンを見てミヤまで、、、
「恥ずかしいけど、、、フェンさまが見たいなら、、、にゃん」
、、、って、おーいっ。違うぞ。『心を読まれた・・・!?』
「えーっと、普通のにしようね。。て、店員さーん!」
「ノーマルな冒険者用の『ねこみみローブ』下さい!!」
「冒険者用の『ねこみみローブ』ですね。ありがとうございます。くすっ(笑)」
・・・『ノーマルな』は言わなくても良かったのに、、、自爆した。
「ありがとうございます。650ジルドになります。」
「あと本日最初の来店者様に特別プレゼントが御座います。」
「一般用の『ねこみみウェア(ローブ)』をプレゼント致します。」
・・・・・・・・。
『あうぅ。。違うんだ!! みんな運命の神様が、、、、』
「えっと、、、そんなにフェンさまが見たいなら、、、、」
モジモジと顔を赤らめながら『頑張りますにゃん』、、、、って、
「だから違うからね?ミヤ。」
「こうしてフェンたちは『ねこみみローブ(冒険者用)』を手に入れた。」
・・・「そしてムフフな装備もにゃん」
「、、、って、ミヤ、誰に向けて言ってるのさ?」
店を出て、建物の影で早速購入した装備を試してみる事となる。
猫の姿から人型の姿へ戻る。
猫から戻るのだから『裸』?・・・なんて事は無い。
変化?の時の仕組みは不明だが、人型になった時点で革製の栗色の
長めのチュニックを着ている。
あの時、クロネは黒色のドレスの様な格好だったな、、、。
「じゃあミヤ、人が来ないか見張ってるからね。」
フェンが通りまで離れようとすると、
「えっ、、、見ないのかにゃ?」
『何を?見ないのかって、、、?』とは野暮な質問だろう。
自分の着替えを見て欲しい、、、?
さっき、、、いや、、転移してからずっとミヤの様子がいつもと違う。
「、、、ミヤ。」ミヤの顔をじっと覗き込む。
「なっ何ですかにゃ?」 ニコニコと笑顔で返すミヤ。
・・・そうだ。
ミヤの栗色の瞳には『照れ隠し』と、、、『怖れ』や『寂しさ』、、、。
爺ちゃんやクロネと離れてしまい今は二人きりだ。
これで、もし、フェンとも離れてしまったら・・・。
『 不安 』なのだ。
フェンは優しく言う。
「大丈夫だよ。ミヤを残して何処かへ行ったりしないから。」
はっ、と目を見開くミヤ。
「と、当然ですにゃ。フェンさまとはいつも一緒ですにゃ。」
解かっている様でも伝えなきゃ安心出来ない事も有るんだ、、、。
「じゃあミヤ。離れてるからね。大丈夫。見えない所までは行かないから。」
「・・・エッチですにゃ。」
「・・・・」
「ミヤを置いて行っちゃおうかな?」
「!?・・・・ごめんなさい。うそですにゃ。近くにいて欲しいにゃ!!」
ミヤも安心したのか元気が戻って来たみたいで素直に嬉しかった。
ねこみみローブ(冒険者用)を手に入れた。
・・・「そしてムフフな装備もにゃん」
「、、、って、ミヤ、ムフフな装備って?」
「フェンさまに着せて、あんな事やこんな事・・・」
「・・・さよなら・・・」
「うっ嘘ですにゃ。ほんの冗談にゃ。ごめんにゃさいにゃ(泣)」