帰宅ですか?勇者さま。
道程は順調だ。
イーストノエルの町まであと少し。
いつもの狩場、薬草採取でお世話になっている丘まで戻って来ていた。
・・・ただ、爺ちゃんが追い付いて来てくれない事を除いては。
片や目深に『旅人のフード』を被り、もう片方は『ねこみみローブ』姿だ。
端から見れば『流しの冒険者』か『旅人』にしか見えないだろう。
だが…
「フェン…君?」
急に名前を呼ばれ『ビクッ』と反応してしまう。
見れば、、、シズだった。日課の植樹か薬草採取にでも来ていたのだろうか?
「フェン君、フェン君だよね?」
返事をどうしようか?と考えている内に、
「…うん、うん。そうだよね。フェン君だよね。」
既にシズの中、お友達との間では確認済みらしい。
ここまで来て、街の外へ出ていた事を知られてしまった…。
でもシズなら知られても大丈夫だよね? 確証は無いが、自信はある。
「シズ…あのね、、」
「フェン君!!」
急に抱きしめられる。
「ど、どうしたのさ、シズ?」
「心配したんだから…。」
…話を聞くと、シズはフェンが居ないのを、ただ心配していただけでは無かったらしい。
あの日、爺ちゃんと別れた日のガルンでの出来事がフェン達の帰還に先んじて知らされていたのだ。
…しかも事実とは違う内容で。
『勇者ジン死す。ガルンにて勇敢に敵兵と敵兵の操るモンスターと戦い倒すも、力尽きる。』
『一緒に居た若き冒険者も死亡す。』
『同行した義息子ロベルト公も善戦するも戦死』
『・・・だが、我々は勝利し、ガルンを防衛せしめた。』
・・・嘘だ! 全部仕組まれた事だったのに・・・。
「フェン君、私、、、フェン君が死んじゃったのかと思って、、、」
「勇者樣、ジン叔父様と一緒に居た若い冒険者ってフェン君の事じゃなかったんだね…」
・・・『ごめんね、シズ。時期が来たら本当の事を話すから…』 心の中で謝る。
「街の皆も最初は誰も信じなかったんだよ。叔父様、勇者樣が亡くなるなんて」
「でも、その報告をしたのがファリス教の神官樣だって話を聞いて、私…私、、、」
また涙ぐむシズ。
「ありがとう、シズ。でもほら、俺は大丈夫だから。」
しかし、シズの話を聞いて即座に動かなければならない案件を思い付いてしまった。
「フェン君はどこへ行っていたの?」
「爺ちゃんの使いで出掛けてたんだよ」
平然と答えるフェンに、
「??…叔父様が亡くなったんだよ?悲しくないの?」
…悲しい?…悲しいのかな? なぜかピンと来ない。
「シズ、爺ちゃんが亡くなったなんて信じられる?」
「えっ?だってファリス教の神官樣のお話だよ?」
「亡くなったなら遺体を埋葬しなきゃだよね?なんでイーストノエルに戻してくれないのかな?」
「あのね、シズ。俺は爺ちゃんは生きてる気がするんだ。ひょっこり帰って来る気がさ。」
「フェン君、でも…。ううん、そうだよね。きっと帰って来るよね、絶対。」
シズが気を使ってくれたのか納得してくれたのかは判らなかった。
シズと別れ家へ急ぐ…正にシズに話した通り『爺ちゃんが帰っているかも』と期待して。
・・・だが、現実は酷だった。
家に帰り隅から隅まで探すが本人達も、また一時的にでも戻って来た形跡すら無かった。
『どうして爺ちゃんは帰って来ないのだろう?』
『それにファリス教からの情報って、、真実だろうけど…もしかして…』
「ミヤ、また急いで行かなきゃ。お留守番して・・・」
「「一緒に行きますにゃ」」
拒否権は無いようだ。
牧場の馬主さんから馬を借りて出発…と、
その前にまた心配掛けると悪いのでシズにも知らせておかなくちゃ。
準備していると来訪者が有った。
「国王の命により参りました。フェン殿は居られるだろうか?」
「僕がフェンです。」
「貴殿がフェン殿か。幾つか質問、宜しいかな?」
「フェン殿は、ここ数日、何処に居られましたかな?」
…まだ質問に答えるとも答えないとも言ってないのに、、、強制的な尋問、って所かな?
「祖父の指示で山中へ素材集めに行っていました。残念ながら素材は見つかりませんでしたが…」
「それを証明出来るお人は居られるか?」
「証明?…何の話しなのですか? 素材集めに証明が必要なんて初めて聞きましたが?」
「本当に国王の命なのですか?…国王が一平民の私の行動をわざわざお知りになりたい理由が解りませんが?」
使者の物言いに『カチン』と来て、言い方が皮肉めいた物となってしまった。
「いや、フェン殿。お気を悪くしたなら謝罪する。」
「本来の目的はフェン殿を王都までお連れせよとの命なのだ…一緒に来て頂けるだろうか?」
「…それは強制的な『連行』という事ですか?」
「もちろん違います。あくまでも『招待』です。」
「では『いつまでに』という期限も無いのですよね?」
「期限は有りません。有りませんが、なるべく早い内にお願いしたい。」
「了解しました。こちらの用事が済み次第…10日の内には伺います」
「10日?…少し遅過ぎるのでは?」
「『伺う』と言っているのです。もし約束を違えた時には、
どうぞ捕縛して裁いて頂いて結構です。…そう陛下へお伝え下さい。」
使者もこれ以上は言う事も出来ず「では必ず」と言って引き上げて行った。
使者には悪い事をした気もするが、それ以上に王国に対する不信感の方が
今のフェンには大きかったのだ。
予定通り、先ずはシズの家に向かった。
「シズ、フェンだよ。居る?」
すぐにシズが顔を出す。
「フェン君、、、。」
何か先程とは様子が違う。
「何か有ったの?シズ」
「…あのね、兵士が来て、、、、」
「フェン君がここ数日、街に居たのかって、しつこく聞いて行ったの、、」
自分だけでなく、街の人達にまで迷惑を掛けるなんて…怒りの気持ちが涌く。
「怒らないで…フェン君」
「街の皆も迷惑だなんて誰も思ってないんだから」
…シズは何でもお見通しなんだな、と嬉しく思う。
だからこそ、、、
「シズ。これからまた少し出掛ける事になったんだ。」
「爺ちゃんの件も確認したいし…あと王都にも。」
「皆に迷惑を掛けない様に言ってやんなきゃだしね。」
「危なく…ないの?」
そんな顔で、そんなセリフ、、ズルいよ…シズ、、。
「大丈夫だよ。確認に行くだけでモンスターと戦いに行く訳じゃないんだから。」
「…うん。分かった。待ってるからね。」
心配そうな表情に後ろ髪を引かれる思いだけど、まだ今回の件に関わっていない
シズを巻き込む訳にはいかなかった。
一旦、家に戻りミヤを連れて出発だ。
「まずは、セントファリスの街に向けて出発だよ、ミヤ」
「はいですにゃ。フェンさま」
やっぱり自宅が落ち着くね。
「そうですにゃー。」
「暫くのんびりしようか?」
「いいですにゃー。」
「・・・楽しそうね、、フェン君、、、」
「シ、シズっ、あっ!急用が!すぐに行かなきゃ」




