獣王ですか?勇者さま。
フェンは市街地を抜け、山脈の裾野を進む。
領主が今まで無駄に繰り返した派兵も、獣王が治めると言われている
都市までの道のり『だけは』確かにしていたのだ。
領主より渡された用紙には目的地まで…と言うか『毎回の全滅ポイント』までの
道程が細かく記載されていた。
この情報を得る為に、一体どれだけの兵士の命が失われたのだろうか?
今回の依頼はギルドからの依頼内容の『獣王討伐』ではなく、
『拐われた獣人の奪還』に依頼主である領主から変更を依頼された。
そもそも依頼内容の『取り決め』である領主の兵士の派兵が出来ない時点で
依頼は本来無効にして良いのだが…。
まあ普通に考えて『獣王軍』という『軍勢』と戦うのに、
『フェン一人』でどうにかなる、と思う方がおかしいだろう。
その為、領主には依頼の成否はギルドとは関係無し、との事で話しをつけたので、
フェン自身は討伐云々は、正直『どうでも良かった』のだ。
ただ、『獣王軍が連れて行った獣人の安否が分かればよい』との考えだった。
その代わり、内容は知らないが領主からの書簡を獣王に届ける事になった。
当然、獣人達が虐待されている様なら助ける事になるだろうけど…。
林道から外れ、森林をしばらく進むと『全滅地点』が近付いて来る。
・・・さて、軍を全滅させるような…どんな敵が現れるのかな?
これから自分の命が危険に晒されるというのにフェンは、なぜか期待にワクワクしていた。
・・・今、僕は冒険してる、、、よね?
素材の採集などでは決して味わえないドキドキ感だった。
今日は一人だ。危なくなれば一目散に逃げれば逃げ切れる。
・・・なんて考えていると声が掛かる。
「これより先は獣王様の領土、治める土地である。」
「道に迷った旅人なら来た道を引き返せ。」
「ここから進めば死ぬ事になるぞ。」
…取り敢えずは安心した。
獣王軍は『問答無用で襲って来て殺す、だけの集団ではない』ようだ。
「私の名はフェン。先日のクロスシティーの店より連れ去られた獣人の安否を確かめに来た者だ。」
「あと、領主より獣王殿への書簡を預かって来ている。」
「領主だと!!・・・」
嫌悪感を顕にした声だ…酒場に続いてこんな所でも嫌われているとは。
フェン自身も依頼主とは言え、嫌いな人物だ。
あの性格と考え方では嫌われても仕方ないとしか思わない。
「ここから先は部外者は誰であろうと通す事は出来ない。」
「貴様が預かって来た書簡は獣王様に取り次いでやる。」
「書簡を地面に置き、後ろへ下がれ。」
言う通りに従い下がると、獣人の女が現れる。
「確かに獣王様にお渡しする、お前は町へ帰れ。」
「…待って下さい。書簡はいいですが、獣人の安否を確認させて欲しい!」
「みんな無事だ。だから帰れ。」
「この目で確認するまでは帰りません!」
押し問答を繰り返したが、埒があかなかった。
「…勝手にしろ。」、、獣王軍の女は森へ消える。
書簡は問題無く獣王に届けてくれるだろう。
後は・・・連れ去られた獣人達の安否だ。
、、、『勝手にしろ』って言ったよね?
フェンは森へ消えた獣人の女の跡を追う。
小さい頃から狩猟をしてきた経験と、シズと採集へ出掛ける事で
養った能力が発揮される。
領主の地図には、ここからの情報は書かれていないので
単独では辿り着けないだろう。
・・・だったら『付いて行く』だけだ。
流石の獣人の女でも『まさか森で自分達に付いて来れる人間が居る訳が無い』
との思い込みで油断をし、後ろには警戒していないのでは気付けない。
気付かれない様に十分な距離を保ちながら追う。
・・・このまま獣王軍の本拠地まで、、、
・・・とは行かなかった。
ある程度追った時点で他の獣人からの声が掛かる。
「待て、人間!!」
「おい!! つけられているぞ!」
書簡を持った女が目を見開いて驚いている…まさか付いて来ているなんて、、。
「お前は報告と獣王様へその書簡をお渡ししろ。」
「この人間の相手は我々がする!」
・・・急に木の陰から複数の獣人達が現れる。
『気付かなかった』すでに囲まれていたのだ。
「警告を無視して進んだ愚かな人間め!」
「ここまで知られては帰す訳にはいかない!」
「死んで自分の愚かさを悔いるがいい。」
「掛かれ!!!」
フェンに獣人達が襲い掛かる。
、、、速い。獣人属、それも戦う事を訓練した者達だろう。
一手一手が確実だし、集団で戦う事を主として訓練した者の動きだった。
フェンも刀を抜き、防ぐ。
一手防ぐ内に次の一手が降って来る様に、文字通り『息も吐かせぬ攻撃』だった。
・・・切っている、、はず?
攻撃している獣人達は疑問に思う。
『なぜ、この人間は倒れないのか?』と。
これはフェンが大多数の攻撃を刀を反して峰打ちで返していたのが大きい。
返しきれずに受けた、と思う攻撃も紙一重で避けていたのだ。
疑問が獣人達の動きを遅くしたのも幸いしたのだ。
双方、膠着状態に入ろうとした所で新手が現れる。
『ガシャン』
澄んだ金属音に目をやると…燃え盛る炎の様に赤く、
また、夕陽の紅玉の様に紅く輝く、、、鎧。
そして耳と尻尾、、フェンも装着している姿を見るのは初めてだが、
『猫耳フルプレートアーマー』だ。
その姿は『猫』と言うより『ドラゴン』の様に見えた。
、、、これが獣王なのか、と思い、しばし、間延びした瞬間が過ぎる。
物珍しさに動きを止めて見ているフェンに猫耳フルプレートアーマーが話し掛けて来る。
「やっぱりクロスシティーの男か。」
・・・誰だろう? こんな格好をした人を忘れる訳がないのだけれど…。
フェンが理解しないので、更に言葉を続けた…。
「おんやー。分からないのかなー? もうボケる年なのかなー?」
、、、この口調、、!!
「…あの時の?」
「あなたが獣王だったのですか?」
「そんな訳ないじゃん。」
、、、えっ違うの?
フルプレートを来ているせいもあり、少し声が違って聞こえるが同じ声だ…。
クロスシティーの『あの店』を襲撃した獣王軍の指揮を執っていた女戦士だ。
辺りを見渡し女戦士は言う。
「今日はあの『猫人族の女』は居ないのか?」
「今日は僕、一人だ。」
答えると女戦士は『ホッ』とした様な『残念』な様な声を上げる。
「せっかく決着をつけてやろうと思ったのに!」
…女戦士さんはミヤとなんか戦ってないよね?
解らないフェンは首を傾げる。
「まあ…いい。今日は私の家族と斬り合ったんだ、心置き無く殺し合えるだろう。」
「いくよ!!」
紅い鎧が踊る…鎧なのに生き物の肌の様にしなやかに湾曲している様に見えた。
既にこの動きはクロスシティーで見ている。
体全体を使った体当たりの様な攻撃だ。
だが効果は段違いだった。
改造してあるであろう紅い鎧は『全身武器』と化している。
腕でも脚でも不気味に紅く輝く部分は触れれば切られるのは間違いないだろう。
しかも持っている武器が凄かった。
、、、受け流した攻撃が当たった先に有った大木を斬り倒したのだ。
「おんやー? 二号岩斬斧で斬れない刀なんて…」
「そっちも、この前の武器じゃないんだねー。」
そう、フェンの武器も前に爺ちゃん、勇者ジンが使っていた業物の刀なのだ。
仮に女戦士が前回持っていた普通の剣を使っていたらフェンの刀に切り落とされていただろう。
女戦士は強かった。装備による強化も有るが、それが無くとも戦う事を学んで来た者の戦い方だった。
・・・フェンの様に・・・。
フェンは爺ちゃん、勇者ジンに直接鍛えられたので、この強さなのだ。
…じゃあ、この女戦士さんは一体誰から?…一体誰に鍛えられたのだろう?
…なんて考える余裕は無かった。
受け損ねれば、腕や脚、頭でさえも一撃で斬り飛ばされるだろう。
フェンも強敵だと認識し、『技』を使う。
『技』などと言うと一撃必殺かと思いたいが、フェンが使える技は初歩的な二つだけだ。
『スラッシュ』と『強撃』だけだ。
飛び込んで来る時がチャンスだ…。
女戦士が二号岩斬斧を構え斬り掛かって来る。
フェンはタイミングを計り技を使う。
『スラッシュ!』
飛び掛かって来た女戦士は何が起こったか解らない。
男が何も無い場所を刀で空振りしたと同時に胸に痛みを感じたのだ。
見ればフルプレートの胸に横一線に深い傷が出来ている。
…この鎧を着てなかったら『死んで…』…初めて女戦士に恐怖が生まれた。
胸に感じた痛みで攻撃を中断して男の前に着地してしまう。
すぐさま男を睨む、、、居ない?、、どこにも?
フェンは上に居た。
女戦士が着地するのを見越してスラッシュを放ち、すぐに次の攻撃に入ったのだ。
ジャンプし上空からの・・・『強撃』。
強撃は硬い物ごと対象物を叩き斬る技だ。鎧も例外ではない…。
女戦士が悟る。
・・・この攻撃を受けたら、、死ぬ、と。
スローモーションの様に降って来る刀をただ見ているしか無かった。
だが、刀が自分に届くか、という所で刀が止まった、、、
、、、気がした、瞬間、弾かれた。
男、フェンは顔をしかめて刀を離さぬ様に両手で固く握り締めている。
刀を弾いた黒い物体・・・一号雷鳴斧?!
フェンが睨む先には漆黒の鎧・・・女戦士を三倍する様な大きさの、、
黒く濡れた、、血で黒く染まった様な猫耳フルプレートアーマー。
既に普通の装備には見えなかった、、いや猫には絶対見えなかった。
正に、鋼の身体を持ったドラゴン…『獣王』だ。
…確認するまでも無く、これが獣王だとフェンの本能が告げている。
「・・・大丈夫か?」
・・・言葉を、、喋る?!
言葉を話す、と酒場の噂では聞いていたが、その姿からは人間の言葉など、
発するとは絶対に想像出来ない容貌だった。
・・・が、事実、確かに人間の言葉を喋った。
「はい、父様。危ない所でしたが…。」
・・・ホッとしたのか女戦士の目から涙が流れている。
黒い鎧が動く。
飛来した黒い斧と女戦士が使っていた斧、確か二号岩斬斧だったか、、、。
・・・それを片手に一本づつ持つ。
両手用の斧を片手で軽々持っているだけで不気味でさえあった。
大木を両断する斧に、恐らく雷属性の性能を持つ斧。
取り敢えず『強敵』どころではなく王国の一般の兵士など幾ら集めようと、
倒せるレベルの相手ではないのは一目瞭然だ。
こんな相手と戦わされた一般兵士など、ただの無駄死にだろう。
それを己の欲望の為に討伐戦を繰り返した領主の男…あいつが元凶なのだろう。
獣王が言葉を発する。
「書簡は読ませてもらった。、、実に面白い、、。」
「王国の宣戦布告と受け取って良いのだろう?」
「王国の宣戦布告?!」
「そんな、、あれは領主個人からの書簡です。」
「その領主が『国王からの命』だと言っているのだがな!」
「そんな…領主の独断です。王国がそんな…。」
「もう良い。そんな事は実際、どちらでも良いのだ。」
「王国の獣人に対する扱いは変わる気配すらない。」
「なら、、王国など叩き潰して獣人の住み良い国に変えるまでだ!」
「・・・そんな・・・」
、、、嘘ではない、、だろう。
気配から感じる、、この獣王の力が有れば可能だろう。
獣王一人、ふらりと王都の王城へ乗り込んで王様を討ち取るくらい容易く出来るだろう。
「まずはお前からだ。」
「娘が世話になった様だから念入りに可愛がってやる。」
可愛がる、、獣王が言うと悲劇的な情景しか浮かんで来ない言葉だし、
事実、そうなるのは確定的に思われた。
「それに貴様の技、誰から習った?」
「勇者の技を『悪事の片棒』に使うなど、、不快だ!」
「ここで遺恨を断つ。あの世で虐げられた獣人に詫びるがいい。」
獣王が動く。
フェンもやっと腕の痺れが取れて来た。
だが・・・一方的だった。
獣王の実力がフェンより遥かに高いのも事実だし、武器の性能もフェンを苦しめた。
片や受けを間違えば刀を折られかねず、片や受ければ電撃を受けてしまう。
しかも、こちらの攻撃効かないのだ。
フェンの持つ名刀、名まで付いている銘刀で斬って、、そんな筈は無い、、
、、筈なのだが、斬っても傷一つ付かない。
鎧の性能か?とも思うが、どうやら違うらしい、、違和感が有るのだ。
斬った瞬間、力が抜ける様に手応えが無くなるのだ。
獣王の様な巨体の持ち主は『力技』で押すタイプが多いものだが、、、
どこを斬られても組まれたプレートの向きを変えて受け流しているのだ。
巨体、パワー、緻密さ、、、つけ入る隙が無い。
唯一の可能性、、、『技』を使う。
獣王を父と呼ぶ女戦士さんの紅い鎧に深い傷を付けられる威力だ。
一矢報いる事が出来るのでは?
フェンは集中する、、、。
「、、、『技』か。、、お前はどこまで使える?」
不思議な問い掛けだ。
どうせ二種類しか使えないし、先程、見られていただろう。
「二種類だ。スラッシュと強撃。」
「ほう。教えて良いのか?」
「、、、まあ、『どこまで』の意味が違うのだがな、、。」
「獣王、あなたを倒せば良いだけだ!」
「よく言った。、、さあ撃って来い!」
ありがたい事に獣王は避けるつもりが無いらしい。
「後で後悔しても知らないからな。」
「いいから、来い!!」
フェンは全身の感覚を研ぎ澄ませ集中する。
十分に溜めをつくり完璧なタイミングで放つ。
「スラッシュ!!」
・・・獣王は微動だにしなかった。受け流す素振りすら無かった。
、、、のに、、したのは微かな『キンッ』という音だけだった。
「『どこまで』の意味が解からない様だな、、教えてやる、、。」
!!、、、獣王が構える、、、スラッシュ?!
スラッシュは剣や刀の技だ。、、、斧で??
一瞬で獣王の溜めが終わり技を放つ。
「スラッシュ。」
何かが、、、なんて考える間もなく本能で伏せるフェン、、、。
、、、何も起こらない、、、??
、、と、一つ風が吹いたと思った瞬間、フエンの後方に有った木が倒れる。
倒れる、と言うより『道』が出来ていた。
鋭利な刃物で切断した様に、、、何本倒したか数えられない位だった。
「・・・これが、どこまで、の意味だ。」
『技』は使えるだけではなく、『その先』が有ったのだ。
「今更知ってどうなる、、」一人呟くフェン。
「今、どうするか?だ!」
フェンは善戦した。驚異的な粘りだ、、。
だが、善戦したとは言え、敗北は一歩一歩、近付く一方だ。
ボロボロになり身体が悲鳴を上げている。
視界さえ定かでなくなっていた。
「そろそろ最後だ。」
「僕は守らなきゃ、、帰らなきゃいけないんだ!!」
最後攻撃の為に獣王が吠えるのと同時に答える様に声を上げる者が居た。
・・・それも二人、だ。
「お待ち下さい、獣王様、、、」
「、、私の子供をお救い下さい。」
「父さん、この人の話を聞いてあげて…。」
「…それに父さん、この男が私への最後の攻撃を寸止めしてたの気付いてたわよね?」
獣王に嘆願する女性を不鮮明な視界で見ながらフェンは朦朧とした意識下で言う。
「ミオン…早く逃げて、ミオン、早く…」
フェンには女性がミオンに見えたのだ。
よろよろとしながらも女性の前に立つ。
自分をミオンと呼び、護る為に目の前に立ちはだかる男を見て…確信する。
・・・ミオン達は無事だ。
「お願いします、獣王様。子供達をお助け下さい。」
「あの子達はまだ無事でいます…。」
平伏し、一心に懇願する女性、、、。
「まあ良かろう、一応合格だ。途中で逃げ出したなら殺していた所だが、な。」
「良かったな。この女と娘に感謝する事だな。」
、、、それを聞いた所でフェンの意識は途切れた・・・。
「技に『その先』が有るなんて初めて聞いたよ。」
「そうにゃ!何事にも奥の奥があるのにゃ。」
「そうなんだ。僕もまだまだ勉強しなきゃだね!」
「そうにゃ!!ねこみみウェアで満足しちゃ駄目にゃ!」
「ミ、ミヤ?」
「ウェアの次は、、、このシッポにゃ!!」
「えっと、、、これは『奥』なの??」
「最終的には、、、」
「、、、、聞きたくなーーーい!!」




