謁見ですか?勇者さま。
二頭の馬が街中を駆け抜ける。
荷馬車なら珍しくもないが、街中を馬で疾走するのだ。
嫌でも目立ってしまう。…目立ちたくないんだけど。
…が、何かおかしい。
フェン達が通る前から並んで何かを見物していたかの様に、
路肩に人だかりが出来ているのだ。
『今日は何かのパレードでも有ったのかな?』
路上に邪魔する人や荷物など無くて急ぐ身にはありがたい話しなのだが。
見物人達の場違いな視線に耐えながら進むと一台の馬車が見えて来る。
ヘルブム卿の馬車か…と思ったが違った。
一言で言えば『あれ』より高級さが一目見ただけで分かる程に良い馬車だった。
追い付いてしまう形になり、馬車に近付くと馬車を護衛している兵士に当然ながら止められた。
「止まれ。何者だ!!」
『えっと、急いでいるので止まりたくないんですが?』
…なんて言っても聞いてくれそうにない。
素直に名乗っておいた方が良いと判断する。
「私はイーストノエルのフェン。」
「国王様に謁見する為に王城へ向かっている者です!」
「…!?」
「お兄…様!?」
・・・お兄様って呼ぶ人物の心当たりは一人しか居ないけど、、、
、、、こんな所にいる訳ないよね。
「お兄様…フェンお兄ちゃん!」
馬車の窓からルチアが顔を見せる。
「ルチア、何でこんな所にいるの?」
「何でって…お兄様が出発して直ぐに、お兄様が勇者を継承するから、
祝福の儀を行う様に、と、教団に依頼が有ったんです。」
「ルチアが祝福の儀をしに来てくれたの?」
「いいえ。私はただの付き添いです、大司教様の。」
「大司教様…?」
ヌッと奥の席から、フェンとルチアのやり取りに完全に無視されていた大司教様が顔を出す。
「フェン殿、これも神の御導き…この際、一緒にファリス教の教祖に就任し…」
「嫌です。」
セントファリスでファリスの実の孫と知られてから何度も言われたが、
その度に『ハッキリと』断っていたのだが…
「そこを何とか…」
「なりません。」
冷たい断り方だが、正しい断り方だと思う。
どう見ても大司教さんは、いつまでも『諦めないタイプ』だと今までの話しから予想はついている。
どうも宗教は血族にこだわる様で是が非でもフェンに継がせたいらしいのだ。
・・・大司教だって血族じゃないけど大司教なんだから誰でもいいじゃん、、
、、、という理屈は通らなかった。
切りが無いと思ったのかルチアが『助け船』を出してくれる。
…気の利く妹で嬉しい限りだ。
「どうして今日の主役のお兄様がこんな所に居るのですか?」
「依頼では王城に着き次第、継承の儀を執り行うように…との事でしたのに。」
「色々有って今急いで王城に向かっている所なんだ。」
詳しい説明は時間が掛かるので省略する。
「じゃあ、馬車の席にはまだ余裕が有るのでお三方もご一緒しましょ♪」
「大丈夫ですよ。私達が着かなきゃ儀式は始まらないのですから。」
…ルチアの『一緒に行きましょ』オーラが凄い。
『ルチアとなら良いんだけど、、大司教はちょっと、、、』
…また教祖にって話を延々と聞かされるのは遠慮したいな…
…とはいえ、大司教は今はルチアの上司なのだから無下にはしたくない。
「じゃあ、ご一緒させて頂きます。」
通りすがりの人に馬を譲渡する。
…元々ヘルブムの屋敷の馬だし、地味な仕返しのつもりで無料で譲渡した。
お馬さん…ここまで乗せてくれて有難う。お幸せに♪
五人を乗せた馬車は王城へと進む。
ルチアは隣に座ってベッタリだ。
…照れくさいけど大司教もフェンに気を使ってか何も言わないし。
お姉様は・・・ただニヤニヤして見ているだけだし、、。
おもむろにルチアが言う。
「お兄様、この方々を紹介戴いても?」
二人を指して言う。
「こっちはミヤ。」
「ミヤにゃ。フェンさまの付き人、兼、『恋人』にゃ」
…その紹介まだ言ってるの?ミヤ、、、
「で、こっちが・・・お姉様?」
そう言えば名前知らなかったし…。
「私?私はニーナ。ニーナ・ブリティン・ノース、盗…」
!!…やばっ!!!
『ドスッ。』、、フェンの肘鉄がニーナの脇腹に入る。
「なっ何すんのよ、フェン!」
「えーっと、お姉様は…と…と、隣に住んでたんだよ、僕の家の隣に。」
良く考えたら、ファリス教の神官さんと盗賊…最悪な相性だ。
盗賊なんてファリス教の教えの対極に居るような存在なのだから。
「お兄様のお姉様なんですね♪じゃあ私のお姉様でもありますね♪」
、、なんて言い出すし…。
わざとハッキリとした口調でニーナに伝える…
「ニーナお姉様、この二人は『ファリス教』の神官様で…」
ニーナは『ハッ』と気付きフェンを見る。
「そ、そうだね。フェンの家の隣に住んでて、お姉様なんて呼ばれてるのさ。」
「…だからルチアも私はフェンの姉さんじゃないんだから、お姉様なんて呼ばなくてもいいんだよ。」
「えっ…お姉様、、じゃないんですか…残念です」
…寂しそうに言うルチア。
「えーあー、いや、ルチアが呼びたいのなら『お姉様』でもいいのよ?」
『なに言い出してるんだよー。』口には出せないが叫びたい。
「えっ?いいんですか?」
「えへへ。お姉様♪」
『ほら…ルチア喜んじゃってるじゃん』
、、、後で本当の事を知ったら泣かれるよ?知らないよ?
『知らない』で済む訳が無い事を十分理解しているだけに心に痛かった。
「そろそろ王城ですな。」
あ、大司教様、居たんですね…とは言わないでおこう。
衛兵に従者が告げる。
「ファリス教団よりの使者様お連れしました。」
「本日の拝謁予定者の入場は全員つつがなく終了しております。」
「皆、今は王様の御成りを待っています。」
「ファリス教大司教様もお早くどうぞ。」
…あれっ?今、変な事を言わなかった?
衛兵さんが、、『今日の謁見予定者は全員入場済み』って?
…不思議に思うが、自信満々に言われると逆に自分が謁見日を間違ったのでは?
という気さえしてくる。
またルチアが気を利かせて聞いてくれた。
「今日、勇者の継承の儀を受けられるイーストノエルのフェン様はもうお着きでしょうか?」
「はい。相当前に入場されています。」
…謁見日の間違いじゃない、、、って言うか僕が入場済みって一体?
何か嫌な予感がするのでフェン達が名乗るのは止めておく事にした。
城内に入ってもなるべく正体は隠しておこうという事になり、大司教は言う。
「ではフェン殿一行は神官見習いという事で、こちらのフードを被って付いて来て下さい。」
大司教、ルチアに続き、フェン達も入場する。
会場は満員だった。他の謁見者が目的の人も居るだろうが、
「勇者様の継承式」なんて一生に一度無いかもしれない式だ。
貴族達が我先にと殺到したのだろう。
人が多いのが苦手なフェンはそれだけでクラクラする様な気がする。
「フェンさま、人だと思っちゃ駄目にゃん!モンスターだと思うにゃ!」
…人をモンスター…化け物呼ばわりはどうかと思うけど、そう思うと少し楽になった。
既に王様は入場し、進行役が読み上げを行い謁見が進んでいく。
「続きまして、イーストノエルのフェン殿の勇者継承式を行います。」
歓声が上がる。そして静まる。
謁見席から一人の若者が立ち上がり王様の正面まで進む。
「イーストノエル出身、勇者ジンの孫、フェンです。陛下に拝謁頂き光栄に御座います。」
うん。僕よりちゃんとした挨拶だ…っと違う、違う。
見た事の無い顔だ。一体誰なのだろう?
国王が宣言する。
「うむ。イーストノエルのフェンよ、亡き勇者ジンの後を継ぎ、勇者となり世界を守るのだ!」
「これより継承の儀を執り行う!」
「ファリス教、大司教様、お願い致します。」
…大司教さんが『どうしましょう?』みたいな顔で此方を見る。
ニーナは…知らんぷりして聞かない振りしてるし。
ルチアは期待の眼差しで見ている…お兄様ならやってくれるよねっ♪
、、、って目をキラキラさせてるし…何を期待してるの?。
もぅ!…ルチア達に迷惑が掛からない様に離れると、教団のローブも脱ぎ捨てる。
そして…
「ちょっと待った!」
「その者は偽者です。本物のイーストノエルのフェンはここに居ます!!」
…あーあ、言っちゃった。
「無礼者が!!!」
声のした方を見ると案の定、ヘルブム卿だ…。
『なんでお前がここに!』と本当は叫びたい所なのだろうが…我慢出来たらしい。
「陛下、そのフェン殿が本物です。あの偽者を成敗する許可を!!」
「そんな!僕が本物です!」
「ええい!そもそも城内へどうやって入った!」
「どうせ偽者に似つかわしく忍び込んだのであろう。」
うっ!痛い所を…ルチア達に迷惑が掛かるのは良くないし…。
あ、ルチアまで何か言おうとしてるし…抑えて、抑えて。手を挙げて止める。
「勇者だと言い張るならその証しを見せてみろ!」
…無理を言う。勇者なんて形の無い物に証しなんて有る訳がない。
「そちらには有るのか?」
『証しなんて無いだろう』という思い込みで言う。
ヘルブム卿がニヤリと笑う…「良いだろう。フェン殿、勇者の証しを!」
『何?証しって?』フェンには思い付かないが…。
若い男が持っていた剣を鞘から抜く。
「皆さん、これが『勇者の剣』です!」
『おおーっ』という感嘆が城内に響く。
『あれが、勇者の剣…』
フェン自身見た事が無いのだから真贋は不明だが、何か惹かれるものはある。
『あの剣で爺ちゃんは魔王を…』真贋以前に妄想が考えを支配する。
「フェン殿、その剣で偽者の成敗を!」 ヘルブム卿が叫ぶ。
号令で衛兵も集まる。
フェンも仕方なく剣を抜いた。
「剣を抜いたな!問答無用だ、斬れ!」
一斉に攻撃され、フェンも防戦一方になっている。
このままではいつ斬られるか時間の問題と思えた。
あまりにも上手く行くのでヘルブムは余裕の笑みを浮かべていた。
ただ、ヘルブム卿は一つ勘違いしていた。
…フェンが弱いから防戦一方になっている訳ではないのだ。
相手を傷付けない為に『敢えて』防戦一方になってしまっていたのだ。
『どうしようかな?』フェンは考える。
流石に、このままではいずれは疲れて斬られてしまうだろう。
、、、けど全員倒してしまえば良い、と言うものでもない。
そして、もう一人、フェンの実力を勘違いしている者がいた。
「やめて!!!」
ルチアが声を上げる。
フェンに止められているが、その当人が斬られるとなれば黙ってはいられない。
「勇者ジン様のお孫様、イーストノエルのフェン様は世界でただ一人です!」
ルチアは高々と宣言する。
「良く言ったわ、ルチアちゃん。」
「あ、お婆ちゃんだ」…って他の人には見えて無いみたい。
「ルチアちゃん。フェン君を助けてあげて。」
「えっ、、どうすれば…?」
「鐘よ。聖なる鐘。」
「えっ!そんな高度な魔法使えないよ!」
「大丈夫よ。ルチアちゃんはフェン君の妹で私の孫なんだから。」
「で、でも…」
「お兄ちゃん助けるんでしょ?お兄ちゃん死んじゃってもいいの?」
「いや!!」
「大丈夫。お婆ちゃんの言う通りに唱えなさい、お兄ちゃんを助けるために!」
「うん。」
「「我、ファリス神の名において邪なる者に試練を与える者なり…」」
「「聖なる鐘よ響け」」
・・・何も起こらない。
「やっぱり私じゃ駄目なんだ」泣きそうになるルチア。
「駄目よ、ルチアちゃん。諦めちゃ。フェンお兄ちゃんとお別れになっちゃうわよ?」
「それだけは…いや!」
ルチアは一心に祈った。
「聖なる鐘響け!響け!・・・響け!!!」
ルチアの心からの叫びが魔法を形成する…。
…遠くから鐘の音がしてくる。最初は小さく、段々と大きく。
効果は即、あった。
皆が聞き惚れる中、悶え苦しむヘルブム卿ともう一人の貴族、
それと…フェンの名前を騙った若い男だ。
音が止む。
ヘルブム卿ともう一人の貴族は一切罪を認めなかったが、若い男は素直に自供をした。
『依頼されただけの男』には聖なる鐘の効果、苦痛に耐えるだけの忠義も精神も、
元々無かったのだった。
フェンを『公に抹殺する』と言ったが、偽者を立て利用した方が有益だと判断し、
急遽偽者を立てようと画策したらしい。
ヘルブム卿、他二名の処分は王様へ一任する事で決着となった。
式典は滅茶苦茶になったが、その後、王様との謁見の場を設けてもらえた。
まだ自分では勇者になったつもりは無い事や、
勇者は国から贈られる物では無いとの考えなのを話す。
偽者が持っていた『勇者の剣』に関しては本来なら爺ちゃんの物なので、
望むなら返却するとの話しだったが真贋さえ不明なので処分は保留、
国の方で本物かどうか調査してみてくれるそうだ。
交渉事が不慣れなのでガルンの件など口を滑らせないかヒヤヒヤだった。
あと不思議と国王様がお姉様の事を聞きたがっていた様な、、。
一通り話したが、一応は理解して貰えたようだった。
正直、父さんが『魔国への侵攻を国王様が決めた』と話していた為、
どんな人物か?と思っていたが、言うなら普通の人との印象だった。
謁見が終わり開放されるとドッと疲れた気がする。
部屋を出るとミヤとルチアが飛び掛って来る。
「大丈夫かにゃ?フェンさま。」
「大丈夫でしたか?お兄様。」
『じーっ』とミヤとルチアで睨み合いが始まる。
「えっと、、うん。大丈夫だよ。」
大司教、、は良いとして、、、あと一人居ない、、?
「ニーナ、、、お姉様は?」
「そう言えば先程から姿が見えません。」ルチアが言う。
「さっき、謁見場から出て行ったにゃ。」、、ミヤ?
、、、、って、おーい!!
「ミ、ミヤ、、止めなかったの?」
「どうしてにゃ?」
「どうしてって、、お姉様は盗、、、うっっ」
「お姉様がどうかしたんですか?」
・・・これは『ヤバい』んじゃない?盗賊さんの悪い癖が、、、。
「呼んだ?」
「ニーナ・・お姉様!!」
「ちょっ、ちょっと、お話しが・・・」廊下の隅まで連れて行く。
「もう。フェンてば、こんな人目の多い所で大胆なんだから♡」
「違いますよ!、、まさか、、してないですよね?」
「そーんなー。フェン君以外となんか、、、」
「真、面、目、に、答えて下さい。」
「もぅ、真面目なんだから。何も他人の物なんて盗ってないわよ。」
「本当ですよね?」
「ヒドイ、、フェン君はお姉様の事信用出来ないのね、、うるうる(泣)」
「信用します。お姉様を。」
「えっ?いいの?部屋に移って裸にして調べてもいいのよ♡」
「要りません。お姉様の言葉を信じていますから。」
「そっか。いいんだ、、、。」
お姉様は嬉しそうで、寂しそうな顔をしていた。
「お兄様、ご用、終わりましたか?」
「うん。終わったよ。、、、ってミヤは?」
「あれ? 今までここに、、、。」
『今度はミヤかーーーっ』
「よし!!」
・・・って、『次はあたしね!』みたいな目はやめようね、ルチア。
・・・・
結局、城外に出た頃にはもう夕方になってしまっていた。
『あのー、疲れたんで休みたいんですが、、、?』
「今日のお夕飯、何にする?」
女子トーク全開の三人に付いて行けない僕と大司教、、、
はっ!!・・・いつの間にか僕も大司教側の人間に、、、(泣)
ヤバいなー、と思いつつ三人のトークを聞いていて楽しかった。
「ルチアちゃん!反省会よ。」
「はい、お婆様。」
「えーっと、『聖なる鐘』の三連発はやめましょうね。」
「いくら悪い人でも悶絶死しちゃうわよ?」
「お兄ちゃんを傷つける奴らなんて・・・死ねばいい!!」
「ル、ルチアちゃん?ブラック出てるってば!!」




