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白群高校不可解部 ーー異常、解決します  作者: 西東惟助
File02色戦争

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第7話 8月5日-4 赤の襲撃

どうもこんにちは。

第7話です。

どうぞよろしくお願いします。

 白群高校前駅の北側は、閑静な住宅街というより、古い街並みの残る一角だった。観光客すら来るような場所である。時期によっては和風の家屋を拝みに来た人々で騒がしいときもある。

 夏休みの今時期はそれなりに人が多いはずだが、辺りに人の気配はない。

 あの二人はもっと素直になればいいのに、と剣は思う。

 あの二人とは、五木(いつき)風名(かぜな)のことだ。

 最初は五木の一方的な片想いだと思っていた。だが、ゴールデンウィークの一件を境に、二人の距離は確実に変わった。

 なにかあったことは明白である。五木から出る矢印の先が変わったわけではない。その質に変化があったように剣は感じていた。

 とはいえ、どちらかと言うと物事ははっきりさせる性質(たち)の風名が何ら行動を起こさないことも不思議だった。それは当人たちの問題だろう。そのあたりの事情にあえて剣は踏み込まないようにしているが、ゴールデンウィークの事件で五木は確かに変わったという、根拠のない確信を剣は抱いていた。

 

 風を斬る音がして、剣は思考を断ち切って足を止めた。


 目の前に振り下ろされたのは一本の(けん)、その風を顔に感じた。西洋風の両刃剣。


 持ち主は赤い装束の男、フードの下のその顔から見るに、年齢は剣と同じくらいか下に見えた。

 学校から出るときから感じていた気配。そのうち一つの(あるじ)なのだろう。


「っけ、もーちょい歩いてくれれば真っ二つだったのによ」

「……君、会うの初めてだよね」


 剣は刀を抜いた。ただ抜いた、のではない。居合の要領で放った斬撃。それは惜しくも受け止められてしまう。


「刀刃剣。君は?」

「赤騎士」


 静止したまま名乗り合う。互いに弾かれるように離れ、構える。赤騎士が携える得物は、両手で扱っていることからロングソードと思われる。


 赤騎士なら、色の騎士団(コロル・エクェス)だろうか。五勢力について剣は深く知らない。独立勢力・他勢力として存在している刀刃家は干渉されなければ相対しないからだ。何をする集団かは知っていても、そのメンバーまでは知らない。

 おそらく何かしらの特殊能力を持っているだろうことを予測できている。


 刀とロングソード、異種剣戟試合が始まった。


 先に示しておくと、剣の刀は違う。おかしい。

 何十代にもわたり、時代に合わせ数度打ち直されるのみでその強さを保ってきた名刀は、どんな衝撃でさえ折れぬという一振りだ。


 ロングソードどころか、斧やハンマーとでさえ打ち合うことができる最硬の刀。


 そして使い手は()()使い刀刃家の末裔(まつえい)、剣である。その技量は既に達人、名人の域に届きつつある。


 一方のロングソード使い、赤騎士の剣には何の変哲も銘も、号もない。加えてその実力は、血統と天賦(てんぷ)の才を兼ね備える剣と比べると技量には明確な差があった。その(つか)を握ってたった数年、才能はあるらしく、なんとか打ち合うことができている程度だ。


 あくまで刀刃の末裔と比べて劣るというだけだ。その剣撃は速い。鉄剣の重心が柄の方にあるのだろう。剣を巧みに回し、剣筋を読みにくくさせている。


 その激しい攻勢に的確に対応してみせるのが剣だった。対応している、だけではない。既に優勢。

 技量の差は明確。赤騎士は決定的な傷を負うことはなくとも、徐々に刃が体に届き始めていた。


「噂通りつえーな」

「そんなの被ってるからだよ」

「あっ、確かに」


 赤騎士はフードを降ろす。角刈りの少年。荒い口調に似合う目つきの悪さ。アジア系の顔立ち。やはり同じくらいの年齢だった。


 会話をするほどの余裕はあり、赤騎士の態度には焦りを感じられない。このままではすぐに剣が勝つ。実力差は明確。それは赤騎士もわかっているはずだ。


 赤騎士はただのソードマンではない。まだ手の内を隠している。剣はそう思った。


 赤騎士の腹部は浅く斬られた。横一文字に刻まれた刀傷(かたなきず)からは血が(こぼ)れている。


 ここで剣が持った違和感。追撃をやめ一旦距離を取る。


 赤騎士の周りの景色が少し赤みがかっている。赤。それは赤騎士と無関係とは思えなかった。


「赤騎士ってのはさ、自分の血を操ることができる。アメコミみたいに他人の血をどうこうってのはできないが、自分ので十分さ」

「あれは血中の鉄を操ってるんじゃなかったけ?」

「詳しいな。まあそこは気にすんな」


 赤い霧のようなものは、自身の出血を空気中に浮かび上がらせていたものらしい。宙に浮いた血が集まり、一本の西洋剣へと形を変えていく。


「ああ、そういうやつ」


 血剣は剣へと迫った。誰も握る者がいないのに、である。


「その剣は簡単な命令を受けて自律する。もう少し出血すれば二本、三本と増えるけどな」


 自身の出血が多ければ多いほど手数も増える。まさに諸刃の剣だ。

 オートで襲い来る血の剣の技術は大したものではない。だが、自律している。不死身の相手が増えたようなものだ。二対一に近い。


 中途半端な傷は無意味。加えて、意識を失わせるほどのダメージを与えなければならない。


 二本目の血剣が生成された。戦闘の激しい動きで出血が増えたのだろう。


 血剣の一撃は重い。重心は剣先に近い方にあるように思える。そこに加わる赤騎士の素早い攻撃。緩急、リズムを狂わせる巧さ。


 三本を凌ぐには、剣であっても厳しいのだろう、傷を負うことはないが、赤騎士を攻める(いとま)がない。


「ちょっと本気出すよ」


 この状況にも少し飽きてきた。そう言いたげな声色で剣は言った。

 捉える。三本の動き。

 刀を強く握り、腕が震えるくらいの力を籠めると刀を横に振る。


 一振り。たった一振りで三本を折った。いや、斬った。いずれも刀身の半ばほどで斬られている。血剣のみならず赤騎士の持つ鉄剣も斬られていた。刃こぼれせずに鉄をも斬る。そんな芸当が刀刃の名刀には可能だった。


「嘘だろ」


 目を見開く赤騎士。ほんの少し狼狽(うろた)えたものの、形を失った血で、血の矢を生成し、攻撃を試みる。凝固する前の血ならば再び何かを作り出すことは可能だ。


 すぐに武器を作ることができる。とはいえ赤騎士がこの技術を使ったのは初めてだった。


 剣は懐からペティナイフを取り出し投擲(とうてき)する。その狙いは赤騎士の放った血の矢だ。


 三本のナイフ、その刃先は血の矢の中心を捉え、ばらけさせる。

 慌てて放った血の矢は圧縮が足りず、不安定なままだった。


 剣は刀を返す。狙いは峰打ち。多量の血で何をするかわからない。ならば、殴ってしまえばいい、そんな判断だ。


 防御の術を赤騎士は失っている。散らばっている血液で何かをするには遅い。剣は瞬時に接近すると刀を振り下ろした。


 脳天に直撃、頭蓋骨がどうなったかわからないが、赤騎士は意識を失った。


 空中にあった血が静かに落ちる。


 剣は血振りをすることなく刀を納める。その切れ味はその号の通り、血をも寄せ付けない。

 刀刃家に伝わる名刀、その号は『血斬(ちぎ)り』。刃に付着したものはすぐに落ち、銀色の刀身をすぐに表す。


 赤騎士の所持品を物色し、携帯電話を取り出す。赤いガラケー。パスコードロックはされていない。リダイヤル。表示名は白騎士。


(はいはい、赤騎士ですか?)


 敬語、丁寧な物腰の男性が出た。

 白騎士。五勢力、色の騎士団(コロル・エクェス)の一部隊のリーダー格、だったろうか。剣は自身の脳にある少ない情報を辿(たど)る。


「刀刃剣だよ」

(おや刀刃剣くんですか? あはは、面目ありませんね。生きてます?)


 ちらりと赤騎士を見やる。胸の上下、呼吸はしている。


「頭ぶっ叩いちゃったけど生きてるよ」

(ならいいです。あとで回収します)

「ほっといていいの?」

(ええ、ええ、ありがとうございます。明日伺いますので、不可解部の部室にてお待ちください)


 白騎士との通話はそれで終わった。


 明日、不可解部に来るということだ。時間指定はない。聞きそびれてしまった。


 五木と風名も襲われているはずだ。だが、赤騎士程度の相手ならば、問題ない。それに強い殺意は感じられなかった。おそらく試されていただろうと推測する。後で二人に連絡しておこう。


 ふと気が付く。意識のない赤騎士。そのままでいいとは言われたが、この血まみれの男を道端に置いておくわけにもいくまい。通りすがりの人が見つけ、騒ぎになってはことだ。とりあえず草むらに引きずって、見つかりにくいようにしておく。


「こんなものかな」


 血は散らかってしまったが、仕方ない。 赤騎士を草むらに隠し、携帯電話を胸の上に置く。白騎士が回収に来るだろう。


 赤騎士の移動を終え、一息つくと剣は何事もなかったかのように、夜道を進む。

今回もお読みいただきありがとうございます。

感想をいただけると励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、風名は黒装束に襲われる。

「第8話 8月5日-5 黒の襲撃」

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