第42話 8月24日 色戦争--1 戦いの日の朝
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目覚ましは鳴っていないのに、ちょうど同じ時刻に目が覚めた。予知夢の示した日が今日だということを改めて考え、怖気が走った。五行五木は戦慄いていた。
どういった経緯を辿り、予知夢の内容の通りに街が破壊されるのかまではわかっていない。もしかして自分たちが戦ったうえで訪れる未来だとしたら、と後ろ向きなことをつい考えてしまう。それでも何もしない選択肢を取ることはできない。
きょうだいは本日この家にいない。旅行の予定を立てて、つい先ほど市外へ遊びに行ってもらった。五木はドタキャンだ。巻き込まれるのは自分だけでいいと五木は思っている。
弟妹たちがゴールデンウィークのことを忘れていなかったら。何度かそれを考えた。おそらく五獣の力をうまく使いこなし、今回の予知夢対策において大きな戦力となっただろう。
それでもあの事件の記憶を失い、すでにこちら側ではない彼らを関わらせたくないという結論に至るまでにさほど時間はかからなかった。
きょうだいは今夜帰ってくる。お土産は期待していないが、面白い土産話くらいは持って帰ってくるだろう。何もなければまた会える。
大丈夫だ。白騎士も騎士団三名のみで十分と言っていた。その場合だと赤騎士は犠牲になってしまうらしいけれど、戦力は十分すぎるほどだ。それでも、なぜか不安だけは消えなかった。
戦力過多で意外と簡単に事が済む可能性だってあり得るのだ。そう思わないと、落ち着いていられなかった。
戦場となる場所はS.N.O.W.。
Snow Nature Oasis Wonderlandの頭文字から名付けられた市のスキー場施設。S.N.O.W.という施設名が定着し、その山の名前はほとんどの人が忘れてしまっている。
それなりの規模を誇るスキー場。コースの一部では眼下の街を視界に収めながらの滑走ができるほど眺望に優れている。オフシーズンである現在は誰も訪れることのない場所になっているはずだ。
五木の自宅からS.N.O.W.までは直線距離で二十キロもない。飛行での移動なら十分くらいで到着する。遅刻の心配はない。確か集合場所は麓の山の家だ。シーズン中ならば食堂や、スキー用具の貸し出しなどを行っているが今は恐らく無人だろう。
面倒なのでいつものシャツに黒のスラックスに着替える。特に用意するものはない。いつも通りでいい。持ち物は通学鞄。基本的な外出の支度を終えた五木はリビングのソファに腰かける。
「なあ、青龍」
「なんじゃ」
どこからともなくエメラルドブルーの装束の少女――青龍が現れる。五木の中に存在しているというのにいつも違う方向から現れるのが不思議だった。
「召喚士のことだ」
「まだ悩んでおるのか」
呆れたような声音だった。ような、ではなく呆れているのだろう。青龍はダイニングチェアに腰かけた。話を聞く気はあるらしい。
「召喚士に対してどうすべきか、本心を聞かせてくれ」
青龍の方を見て言う。視線がぶつかる。決して険しすぎない眼だが、龍を彷彿とさせるのは視線の強さがあるゆえだろうか。その目に見られると五木はつい委縮してしまう。
「オレは殺すべきだと思うぞ」
青龍と違う声が割り込む。――白虎だ。
それが当然の選択肢のように言われたことが、逆に重かった。
月明かりのような清楚な白色、青龍のものと拵えはほぼ同じ漢服姿の少女が青龍の隣にいた。青龍と比べると背が高く、体も大柄だ。
――白虎。ゴールデンウィークに五木を最も苦しめた五獣。男勝りな言動に乱れた髪型だが、その顔を見れば一目で少女だとわかる。
「ほう、猫が来おったわ」
「うるせー、この蛇野郎」
会った瞬間に険悪な雰囲気となってしまった。龍虎相搏つを五木は目の当たりにした。
「なんじゃい。他は来ぬのか。もっと賢い麒麟や玄武に来てほしかったのう!」
「オレの信条は、物事は簡潔にってことだ! 今風に言うと、しんぷるいずざべすと? ってやつさ!」
ガッツポーズを決める白虎だった。こいつが雅金とうまく連携していたことが五木には不思議でならない。同時に、どれほどの名伯楽ぶりを、上の妹は発揮していたのだろうと考えてしまう。
「まあ、わらわもそちに賛成じゃが」
「だろ? どうせ捕まえても、逃がしても死んじまうなら早めにやっちまった方がそいつの為だと思うけどな!」
青龍はさらっと言ったが、召喚士を殺すことに賛成のようだった。その理由はわからない。白虎は恐らく言った以上のことを考えていない。
「でもなぁ。今、皆に聞いてから来たんだけどよ。まあ割れてるわな」
「聞いてやる。言うてみよ」
頭を抱える白虎に、尊大な調子で促す青龍。
「麒麟の姉さんと玄武は反対、というか主殿に賛成だな。んで、朱雀は多い方の意見に味方するってよ。風見鶏のせいでせっかく奇数なのに意見が割れちまってる」
その勢力図に五木は納得がいった。確かに彼女らの性格ならばその答えに至ることは明らかだった。
「……忘れるなよ。そこに僕の票を入れれば傾くだろ?」
「人間ごときが何を言うておる」
「喰って契約解除するぞこら」
この二人は本当に不良のような態度だった。物静かな玄武、穏やかな麒麟、優しい朱雀とは大違いだ。
「それができたらとっくにさせてやるさ。僕にお前たちを縛る趣味はないからな」
どういう契約なのかはわからない。五木は五獣を自分の支配下から外すことができない。お互いに同意したとしても何も起こらず、そのままだ。エネルギーを奪われ続けないという点を除けば召喚士と似たようなものだろう。主従関係は、形だけ残っている。
自分も解除不能の契約を結んでいることに改めて五木は気が付いた。召喚士と違って命が削られている実感はないがどうなのだろう。
「卑怯じゃ、卑怯じゃ、ぱわはらじゃぞ」
「くっ、お前、その立場を利用して私たちにあんなことやこんなことを……」
二人の言い方はやや芝居じみていたが、自身の名誉のため、五木は反論する。
「ったく、僕にそんな度胸がないのはわかってるだろ」
こんな風にしか言えないことを情けなく思いながら五木は言った。
「まあ、よいわ。お主はあれこれ考えるな。街と仲間を守ることを考えればよかろう。人間失敗しない生き物ではない」
「まー主殿。お前はそれを成し遂げる強さがある。それは自信持て」
「ぬう、猫め。よいセリフを取りおって」
「……ありがとうな」
答えは出ない。それでもシンプルな指針を示した二人に、五木はそっとお礼を言った。二人は目を丸くしていたがすぐに笑い始める。こうしていればただの美少女なのにな、という言葉は口にしないでおく。
誰かを傷つけるためではない。守るために戦う。それでいいはずだと、何度も自分に言い聞かせた。やることは決まっている。
五木は考える。活動記録を作成しなければならない。File 02となるこの事件。どこから記録すればいいだろう。題名はどうしようか。
家を出る。時間はまだ早いが、飛ばずに行くのなら丁度いいはず。そんなすっきりとした五木の心持とは違い、空はどんよりとしていた。それはいつもの悪天候なのかもしれない。
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次回、決戦の前、それぞれの配置につく。
「第43話 色戦争-0 配置」




