第41話 8月23日-1 色戦争前日
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白騎士は事実を告げてとっとと帰ってしまった。部員全員が部室にいたにもかかわらず、纏う雰囲気は妙に軽かった。
軽い、というより——重さを避けているような軽さだった。
白騎士はこう告げた。
「召喚士より丁寧にも決行の日のお知らせが来ました。戦いは明日、午前十一時です」
それだけだった。
「明日、なんだね」
「ええ、まあ、いつでも早いって思うだろうけどね」
駅前のファストフード店に五木、風名、剣の三人はいた。白騎士の話の後は部室を辞し、ここで昼食を摂っている。
「あいつらは明日から出掛けるからよかったよ」
五木はまず、自身のきょうだいの心配をした。この状況で自分が二の次になる五木は異常だった。それでも恐れていない、わけではない。
四人掛けの席、五木と剣は隣、五木の向かいに風名は座っていた。空いている席には荷物を置いている。
嵐呼家と刀刃家、どちら俗にいうお金持ちだが、昼食は普通の学生と変わらない。そのあたりの金銭感覚は普通のようだった。
向かい合って座るとあることに五木は気が付いた。風名は首から銀色のアクセサリーを下げていた。いつの間に着けたのか五木は知らなかった。そのチャームはどうなっているかわからないが、あまり胸元を見ていると思われたくないので五木は目線を外し、何も言わなかった。
「そういや、二人は最近他の部活はどうなの」
五木が訊いた。
「僕の剣道部はちょっと大変かな」
「大変? 何かトラブルなの?」
「いやあ、弱いフリって大変なんだよね。入らなかった方が良かったかもしれない」
確かに剣の実力では顧問の先生ですら相手が務まるかが疑問だった。不可解部に入ってさえいれば五木のようにそれだけで部活への強制加入の条件は満たされているので無理に入る必要もない。
「私、テニス部の方はまあまあかな。この前の練習試合では先輩に負けちゃった」
風名がどれくらいのプレーヤーなのか五木と剣は知らないが、風名のセンスならそこそこだろうとは思っている。現に一年生の中では上の方だ。
魔法を使わず競技へ挑んでいることは明らかだろう。特に風魔法は他の属性に比べスポーツ競技において強すぎると五木は思う。
二人とも、五木もだが、基本的に異能を隠している。五木に至っては家族も知らない。ほとんどの人間がこちら側を知らない。
「生徒会はどうだ?」
確か風名は生徒会にも所属していたはずだった。そう思いつき五木は聞いた。
「そっちはほとんど幽霊状態かな。生徒会ってよりはそのお手伝いをする部活だから普段は特にやることがないんだよね。ええと五木は――」
「僕は帰宅部だよ」
風名のことだからわかって言っているのだろう。少し憎たらしく感じる。
「五木、私たち以外に友達いるの?」
「とことん失礼だな、いるさ。えっと」
五木は静かに言うと指折り数えを始める。二本折りたたんだところでその手が止まる。
「それだけかな」
「そうみたいね」
友達と言えば同中の鎌時燈籠と本屋棚乃くらいしか五木には思い浮かばなかった。無論クラスメイトと交流はあるが、友達かと聞かれると微妙なところだ。
「その二人に関しても私は名前しか聞いたことがないから、実在を疑っているのだけれど」
「僕がイマジナリーフレンドを作っているとでもいうのか……」
確かにこの二人はあの二人と面識がない。どこかで紹介しておくべきだったか。ただ友達の友達というのはなかなかに面倒な存在ではないだろうか。確か燈籠は風名に会いたがっていたが、五木は個人的に会わせたくなかった。
「あれ? やっぱ五木じゃ――」
突如五木に話しかけてくる少女がいた。今の話題の片割れ、本屋棚乃本人だった。これはいいところに来てくれたと五木は思ったものの棚乃にとってはそうではなかった。
棚乃は内弁慶だが、極度の人見知りである。風名、剣の二人の存在をしらぬまま近付き、認知した今となっては固まってしまっていた。
「フェアリーインザライブラリー? だよね? あの有名な」
剣のとどめが炸裂する。不本意なあだ名を呼ばれた棚乃は顔を真っ赤にし、すでに涙目だ。というか剣は知っていたらしい。それなのに実在を疑うな、と五木は思った。
「へえ? この小さくて可愛らしい娘が」
風名は平坦な声でそう言った。静かな怒気を五木は感じた。何に怒っているのかはわからない。二人に因縁があるという話を五木は聞いたことがない。
棚乃は一瞬固まり、次の瞬間には真っ赤になった。
「うっ、うううー」
「棚乃、俺にだけ買わせて席はどうし……って五木かよ。偶然だなぁ」
唸る棚乃の後ろから近づく一人の男子生徒。言うまでもなく鎌時燈籠だった。これで五木の友人の実在を二人に証明できた。
「ってことはもしかしてあなたがあの! 嵐呼風名さん!?」
ほら始まったとばかりに、五木は頭を抱える。こいつ、灯籠は風名に会いたがっていた。
「ええ。あの、が何かは知らないけど私が嵐呼です」
部員以外に見せる猫を被った風名。優等生然としてお淑やかな印象だ。
「うわぁ、まさかお話しできるなんてうわぁ」
燈籠はただのファンと化していた。彼が可愛らしい女子の前ではここまで残念な奴になることを五木は知っている。だから顔がいいのにモテないのだ、ということも。
「改めて紹介する……までもないよな? 何かそれぞれ有名人みたいだし」
紹介しようかと五木は思ったが必要なさそうだった。相変わらず棚乃はフリーズ中だ。
「ねえ、フェアリーインザライブラリー。五木に何か弱みを握られていないかい?」
「へ? い、いやっ、そそそんなことはないけど。わ、私の弱い、ところなら、た、たくさん知ってると思う」
前半で終わってほしかったと五木は思った。後半は何か誤解を招きそうな言い回しだった。現に風名の表情と視線が恐ろしい。というかそのあだ名でいいのか、と五木は思った。
「人をなんだと思ってるんだ」
「友達いないやつー」
「数少ない友達のお前が言うなよ……」
答えたのは一番あてにならない燈籠である。
「でもいい奴なのは確かだよな」
「僕もそう思うよ。カマキリ君」
「いい奴ってなんだよどうでもいい奴ってことか」
少し照れ臭くなっていた五木は突っぱねるように言った。
「その様子だと昔から、えっと、こうなのかな?」
「ああ、あんま変わってねえな。いや、これでも昔は友達が多かったんだけどな」
二人の会話を邪魔する気もないので固まっている棚乃へ視線を移すと、すでに風名と談笑しているようだった。
「本屋……いや、棚乃さんでいい?」
「あ、あなたはちゃんと名前で……!」
すでに風名は棚乃の信頼を勝ち取りつつあるらしい。
「それともフェアリーインザライブラリー、の方が良かったり?」
「よよ、よくなーい!」
「冗談よ。ごめんね、剣はこう見えてなかなか冗談が好きだから」
棚乃にしては珍しく早く人に慣れ、友達の友達とも自然に会話している様子を見て、五木はどこか安心していた。
――明日。本当にこの街に災いが起こる。それが嘘であってほしいと、願わずにはいられなかった。
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次回、予告されたその朝、五木は震える。
「第42話 8月24日 色戦争--1 戦いの日の朝」




